第23話 帰還

「エミリーもリンダも、自己紹介ありがとう。」


 ほぼ名前だけの自己紹介なんて、僕だけならまだしも2人揃って・・・・・・中々面白いな。そして今見ているこの景色は果たして、18年間、年齢=友達恋人いない歴として生きていた僕が見ている景色なのだろうか。


「だって仕方ないだろう。朕が喋っても直ぐに何かを返そうとする、酷い輩がいるからな。」


「否定はしませんが、そのような扱いを受ける立場にいると自覚しているのですか?」


 どちらの言っていることも、半分正解で半分意地で成り立ってると思うんですが、これは言わない方がいいかもしれない。


「朕が悪かったのは認めるが、被害などはあまり出ていないであろう?被害も出ていないのに朕をその様な態度で対応して良いのかな。」


「被害の問題では・・・・・・ですが良いでしょう。確かに被害は少ないです。しかし、少なくても被害はあります。」


 被害なんてあったっけ。荷物はエミリーが遠くに持ち運んだので全部だと思うが。何かあったのか?

しかし、今喋り出すと地雷になる結末しか見えない。一体どうすれば解決に向かうのか。


「被害!被害出ちゃったの!嘘だ~。だってあんな事で被害なんてですはず、でるはずが無いよ。」


「実際問題、出てしまっているから言っているのでしょう。でなければこんな事、最初から言いません。」


 リンダの完敗だな。ここは清く引き下がっていつか忘れる日を待つしか無さそうだ。しかし今回は相手が悪かった。あの暫定人類最強エミリーさんが相手ではいたし方ないだろう。


「ところでリンダ。君はこの後どうする予定なんだ?行く宛があるのならそこに行けば良いとは思うが。」


「特に無いかな。朕は別に気晴らしでここに来ただけだよ。深い意味とかそういうのじゃなくて、面白そうな魔力だな~と思って来ただけだから。」


 怪しさのテストがあったら、思わず満点をあげてしまうほど怪しかった。いやむしろ怪しすぎて清々しいくらいだ


「これからどうしましょうか?近くに宿みたいな物があればいいのですが・・・・・・」


「それは大丈夫。僕がここに来る前に居た、遺志の村まで行けさえすれば必要な物とかは大体揃えられると思うから。」


 話が纏まったようなので、早速行くとしますか。

しかし何でこんな寒いのにみんな平気なんだ?もしかして、エミリーやリンダはとんでもステータスだから、寒さを感じずらいのかな。


「何故朕の意見を聞かずに話が進んでるの?急に、よそよそしくならなくてもよくない!」


「リンダさんは相変わらずですね。行く宛てが無いからと言って、いつまでもついて来る気じゃないんですか。」


 的を得すぎたエミリーの回答で、リンダは早くも心がノックアウトされつつあった。しかし、ここまでされるいわれも無いだろう。仕方なく、仕方なくだが助け舟を出すとしよう。


「エミリー。少しの間だけだ。少しの間だけ、リンダを一緒に同行させてやってくれないか。せめて、村に着くまででいいから。」


「ノア。君って奴はこんなにも格好良かったのか。朕は見直したぞ。もし君に何かあれば朕が手を貸してやろう。」


 リンダはこんな調子のいい事を言っていいのだろうか・・・・・・さっきから後ろのエミリーが、笑っているはずなのに笑っていない笑顔で、リンダを見つめている


「ノアさんがそう言うのであれば、それで大丈夫だと思います。しかし、こんな人を同行させるんです。しっかりと警戒はしましょう。」


「それもそうだな。気の緩みすぎはあまりいい事じゃない。そこはしっかりと警戒していこう。まあ、今のリンダの魔力じゃ出来ることは少ないだろうけど。」


 リンダはステータスは高いのだが、魔力の使い方が荒すぎる。さっき使った魔法のせいか、今はギリギリ残っているか怪しいぐらいの魔力しか残っていなかった。


「少し不服だけど、結果だけを見たら朕には実害は無いので良しとします。いや、させていただく感じでよろしいでしょうか、エミリーさん。」


「また自分の立場を・・・・・・いえ、確かに今までの行いを省みると、私リンダさんも何ら変わりの無いと考えました。私の方こそ少し言葉が過ぎて申し訳なかったです。」


 仲直りしたみたいなのに悪いが、夜になる前には出発しないと間に合わない。もうそろそろ歩き始めないと真夜中も歩き続けないといけなくなってしまう。


「もうそろそろ出発しようか。」


 その掛け声でエミリーとリンダは黙々と用意を終わらせ、遺志の村とは反対方向に早々とした足取りで歩き出した。その姿は逆光のように明るく、美しいものだった。


「エミリーッリンダーッ。そっちじゃないよーッ。逆、逆方向だよーッそんなに早く行かないでーッ。」


 僕の声は届いているのだろうか。それにしても、あの速度で走るのは反則だろ・・・・・・追いつけるかな。












 まあ、そんなこんなで僕は、愉快で明るく色んな意味で頼もしい仲間と共に、遺志の村へ向かった。

 

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