第145話 甘苺の夜

「夜?」僕が部屋の外に出ると、外は暗闇の時刻だった。暗号の解読をしている間に、老紳士は魔法を解除したらしい。あまりにも集中し過ぎていたせいか、周りにまで意識が及ばなかった。そこは花などない、どこか人工的な光の満ちた場所だった。恐らくだけれど、光源のような魔法なのだろう。


「月の無い、美しい夜よ。」騙された。魔法を解除したのではない、魔法を変化させたのだ。どこまでも底知れない魔法を使う人物であると言えよう。老紳士の心の世界に僕はいる。他者を引きずり込み、世界を作り出し、そしてそれらを操作する。老紳士が行った文字通り規格外の魔法は、とても綺麗で、美しい。


「貴方は……。」一体何者なのか、答えてはくれないだろう。けれど、答えを聞きたくて聞いた訳ではない。ただ聞かずにはいられなかったから、聞いたまでの事だ。老紳士はいつまでも、月の存在しない空を見ていた。そしてその首を少し上にもたげて、空を見上げた。確かな何かを、老紳士は見つめているのだと僕は思った。


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