第146話 血覚悟
「月は良い。」老紳士は言った。。初めから既に、老紳士は覚悟を決めていたのだろうか。そういえば、僕のための詩だと思っていたけれど、老紳士の立場から解釈することもできるのではないか?『そしてまた、一つ失うだろう。』これがもし、老紳士から見た自分自身の命ならば、老紳士は確実に命を落とすだろう。老紳士の妻が見つかったとしても、老紳士が生きていないなんて、到底受け入れられない。
「あなたは死ぬ。」情け容赦のない一言を、これまで生きてきた中で最も言いたくないと考えてきた言葉を、僕は老紳士に差し向けた。老紳士は笑顔だった。花をめでている時よりも、僕と一緒にいたどんな場面を切り取ったとしても届かないような、最高の笑顔だった。僕は思い出した。部屋の隅に張られた、おぞましいほどの文字、模写、そしてそれらをつなぐ線。昔刑事ものの小説で見た、何かを必死に追い求めている証。ほんの少しの血の滲んだ跡。ああ、そうだったんだ。分かっていなかったのは僕だった。老紳士は初めから自分の命なんて毛ほどにも考えてはいなかったのだ。ただ、大切な人物に会いたかった。それだけのことだったんだ。
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