伝えたい言葉、遮る言葉

 仮面の中、零次の頬を冷や汗が伝う。焦りもしよう、だが無我夢中で弦を引いた。かつての仲間が放つ凶弾に向けて。


「させるか!」


『Deathblow』


 黒い光の矢を放つ。狙いはブレイヴァーキャノン、その光の奔流だ。

 純粋な力と力がぶつかり合い、お互いを撃ち破ろうと押す。エネルギーの波が大気を揺らしながら渦巻き、肌がピリピリするような威圧感が周囲を満たす。


「……っ、潰れろ!」


 零次の声に呼応し矢が炸裂。巨大な黒い光玉……極少のブラックホールとなり光を飲み込んだ。

 光を空気を、何もかもを吸い寄せ喰らい押し潰す闇の塊。対抗する五色の光を根こそぎ喰らうと、重力の塊は破裂するように霧散する。

 散った黒い光の粒子の先、ブレイヴァーキャノンを構える五人とその後ろに立つ勘助と目が合う。


「……随分と乱暴な挨拶だなアームズブレイヴァー」


「おま……」


 キャノンを分解し刀を突き付ける優人を勘助が制止、一歩前に進みながらため息をつく。


「よくここを見つけたなレイヴン三世。いや、山崎が教えたのかな。まさかお前が毘異崇党と繋がっていたとはな」


「逆だ。ここを見つけ、彼に接触しただけだ。それよりも熱海勘助、自分から来てくれるとはな。捕まえに行く手間が省けたぞ」


「フン。しかし君も手厳しい男だ。いや、圧政者らしい。裏切り者には容赦ないのだな」


「何?」


 勘助が何を考えているのか、警戒し身構える。


「ここは地球に寝返った毘異崇党に人間への整形と文化の教育を行う場所だ。貴様の圧政に耐えられず地球に助けを求めた民を連れ去ろうとは。まさに悪の帝国と言った所だな」


「…………そう来たか」


 あくまで自分達は正当だと言いたいのだろう。ここにいたのは毘異崇党の裏切り者、それを拐いに来た体にしたいらしい。このタイミングなのも、上の工場を五人に見せる訳にはいかないからだろう。流石に工場は言い訳が難しい。おそらく五人には既に説明隅だろう。


「お兄ちゃん……」


 背後でノアが話し掛ける。


「ゲートは開けっぱなしだからこのまま離脱は可能よ。熱海勘助だけでも捕らえれない?」


「……ノア、全員を避難させろ。またスーパーアームズレッドが出れば犠牲が出るからな。一先ず説得だけはしてみる」


「無駄だと思うよ」


「なら力強くだ。あいつら全員……半殺しにしてでも連れてく」


 構えた弓を下ろし前に出る。


「アームズブレイヴァー、私はお前達と戦う気は無い。私の目的は誘拐された仲間の救出と、首謀者である熱海勘助の逮捕だ」


「ふざけんな、嘘つくんじゃねぇ!」


「そうです。レッド様、あいつの言葉に耳を傾けてはいけません」


 真っ先に真美と早苗が噛み付く。解り易いくらいに剥き出しの敵意が向けられる。そんな中、瑠莉だけは戸惑うように勘助を見る。

 零次は呼吸を整え真っ直ぐと優人と瑠莉を見る。全て伝えた所で意味があるのか解らない。しかし今、ここでケリをつけなければならなかった。


「疑うのはごもっともだ。だが悪いが君達は騙されている。毘異崇党なんていない。君達が戦っていたのは友を、家族を人質に取られ悪の怪人を演じさせられていたのだ。……その男、熱海勘助によって」


 零次が勘助を指差し、椿以外の四人の視線が集まる。彼女が勘助と繋がりがある以上、グルなのは想像していた。


「……父さん?」


 しかし優人が勘助を疑うような視線を向けているのは予想外だ。


「私はここに囚われ非道な行為を受けている仲間を助けに来た。そしてアームズブレイヴァー、君達のヒーローごっこもな。投降しろ。君達は騙されていた。ヒーローごっこをし、罪無き人々を虐殺していたのだ」


 投降を呼び掛ける。それでも勘助は不敵な笑みを崩さない。自信か確信か、五人は自分の味方から離れないと信じているようだ。


「何を馬鹿な。私は貴様の圧政から助けを求めた者を救っていた。それを裏切り者として攻撃しているのはお前だ! 前回もそうだったのだろう、裏切り者を殺す為に、罪無き人々を傷つけているのはどっちだ!」


 高らかに、説教のように零次を貶す。罪人はどちらだ、自分は暴君から民を助けた英雄だと宣言する。

 その態度が零次の癪に障る。どの口が言っているのか。何人のアンフォーギヴンを傷つけ弄んだのか。英雄ぶっているなんて何様だ。そして何よりも……


 裏切り者はどちらだ。


「アームズブレイヴァー、奴を倒せ。毘異崇党の上層部であるレイヴン三世を倒せば奴らの侵攻を遅らせられる」


 勘助からすればここで零次を殺害、もしくは捕らえればアンフォーギヴンに大打撃を与えられる。一時的な侵攻停止も、保管した受精卵の飼育期間と考えれば問題無い。

 残念な事に零次はそんな事は知った事じゃない。許せないのは今まで騙してきた事、何よりもこのまま自らの息子すら欺き利用していた事。そして自らの承認欲求の為に、多くの犠牲を踏み台にして優人を祭り上げようとした事だ。


「裏切り者はどっちた!」


 思わず叫んでしまう。


「俺達を裏切ったのはお前だろ! アームズブレイヴァーはあんたの玩具じゃない。俺達アンフォーギヴンはあんたの為に働く家畜なんかじゃないんだ。いけしゃあしゃあと嘘を並べられるな!」


「え……」


 瑠莉は指を突き付けた零次の右手を見る。切り傷の痕がある手。それと同時に彼の言葉が頭を過る。まるで脳内でパズルのピースがはまるような感覚がした。

 勘助に視線を移す。何故か彼の余裕綽々とした笑みが不気味に思えた。


「……まさか」


 瑠莉はおもむろに変身を解き零次の前へと歩み寄る。


「おいブルー、何してるんだ!?」


 優人も驚き彼女を止めようとするが、瑠莉は足を止めない。皆が唖然としている中、彼女だけは零次の目を見ていた。


「………………零次?」

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