保護作戦

 もう一方の地球、そこに建つ一際巨大な建造物。城ともビルとも見える不可思議な建物だ。

 周りは木々に被われジャングルの中にポツンと取り残された古代遺跡のようだ。


 アンフォーギヴンの長レイヴンの居城、そこの一室に零次達は集まっていた。大きな円卓に零次、ノア、ランが座り何かを待っているようだ。

 ノアとランは擬態を解き、零次は先程学校から帰ってすぐのせいか、こちらでは珍しく人の姿のままだ。

 この部屋に来て数分くらいだろう。少し暇に感じてきた時に部屋の扉、自動ドアが開く。


「お待たせしましたノア様」


 先頭からサイ、カエル、カメレオンの怪人が順に入ってくる。

 重装騎士を彷彿とさせるサイ怪人。でっぷりと膨らんだ相撲取りのようなカエル怪人。その中でカメレオン怪人だけは見覚えがあった。ノアと一緒に零次を誘拐した男だ。


「みんな揃ったわね。それじゃ作戦の説明をする前に自己紹介してもらえる? レーメン以外は三世と初対面でしょ」


「まさかノア様、こちらの少年が?」


「ええ、レイヴン三世よ」


「なんと。失礼しました」


 サイ怪人が前に出る。


「私はライラノスと申します」


 続けてカエル怪人も一礼する。


「僕はゲルローブルです。よろしくお願いします」


 その後にレーメンもお辞儀をし、彼らはノアに促され席に着く。

 これで全員、ノアは満足そうに頷くと手を叩いた。


「さてと、これから作戦の説明をするね。まずはこれを」


 手元のコンソールを操作すると、円卓の中心に光の板が現れそこに何かが映し出される。それは地図。あちら側の地球、それも日本のとある町のだ。地図の中心となる一点には赤い印が付けられている。


「今日の夕方、この町に定住しているアンフォーギヴンの女性から誘拐犯に見付かったと連絡があったわ。で、その半径五キロ圏内に住んでいるアンフォーギヴン達にも警告、希望者はこちらの地球に保護する事にした。そしたら……」


 ノアが指を鳴らすと十は軽く超える点が新たに映し出される。


「三世の件もあって希望者は多いわ。まっ、独身の人ばかりで、家庭のある人は保留になってる。下手に話して通報されても厄介だし」


「多いな。それにあちこちに散らばっている」


 地図の点を一つ一つ確認する。遠いものだと町の両端なんてのもあった。

 全員が集合出来る場所は当然地図の中心、発見された女性の自宅だ。しかしそんな場所に集まるなんて危険過ぎる。


「で、問題の転移場所の設置なんだけど……正直予想外の人数で一ヶ所に集まるのは時間も掛かるし危険。だからちょっと変則的な方法をとる事にしたの」


「変則的……?」


 そもそも普段どうしているのか零次にもわからない上、呼ばれたメンバーの事も知らない。

 パッと見ライラノスはパワー型の戦闘員、ゲルローブルも似たように見える。逆にレーメンは隠密行動特化、零次を誘拐した時身を持って知った。

 そこに変則的な作戦だなんて言われても混乱する。ただ首を傾げる事しか出来なかった。

 零次の様子を察してかノアは微笑む。


「大丈夫よお兄ちゃん。やってもらう事は単純だから」


「お、おう」


 理解していないのがばれて少し恥ずかしい。だがそれよりも作戦を頭に叩き込むのが優先だ。


「作戦なんだけど、お兄ちゃん達が囮となって誘拐犯を引き付けている間に、私が各地を回って一人づつ転移させるの。これなら一斉に動いて見付かる心配は無いでしょ」


 囮と言う言葉が引っ掛かるが、零次は作戦に納得はした。自分が引き付けてる間に秘密裏に保護、それ自体に不満は無い。

 だがランは違った。


「ちょノア……様、それじゃ負担が大き過ぎます。転移は体力の消耗が大きいのに、それを連続でやるなんて……」


「安全第一よ。それに今回見付かった……確かあっちだと花形エレナさんって名乗ってたわね。彼女も囮を引き受けてくれるって了承済みよ。既にバレてるならってね。これは決定事項よ」


「うう……」


 ランは難色を示しながらも引っ込む。

 彼女が心配している以上、ノアの負担は相当なものなのだろう。


「ノア、本当に大丈夫なのか? 俺はその負担がいまいち解らないが、ランの様子からして危ないんじゃないのか?」


「大丈夫。それにお兄ちゃん達を危険に晒してるのに、私だけのんびりゲートを開いて待ってるなんて出来ないわ。確実に、安全に一人でも多くの仲間を保護するにはこれが一番よ。こっちから向こうに一つ一つゲートを設定するより、直接出向いた方が座標修正も楽だし」


 笑っていながらも彼女の目は強く覚悟を決めたものだ。ノアがこう言っているのなら止まらないだろう。彼女なりに長の一族として戦おうとしているのだ。その気持ちを無下には出来ない。


「……まぁ、しょうがないか。で、詳しい段取りは?」


「うん、説明するね。まず現地で花形家の面々を保護。メンバーは三世、ラン、ライラノス、ゲルローブルの四人」


 地図の中、新しく青いポイントが表示される。どうやら学校のようだ。


「貴方達はここ、中学校まで誘導し時間を稼いで。追手もあるだろうし、充分気を付けてね。まぁ普通の武装でユニット持ちに勝てはしないけど」


「俺達は護衛か。じゃあノアとレーメンが……」


「ええ。その間にレーメンの透明化能力と夜の闇にまぎれて他の人達を転移させる。お願いねレーメン」


「仰せのままに」


 レーメンは深々と頭を下げる。


「じゃあ俺……私の方も期待させてもらうぞ、ライラノス、ゲルローブル。ランもな」


「無論。私めにお任せを」


「僕は護衛任務に特化してますから、期待しててくださいねー」


「ノア様の護衛だって私の仕事なんだから。足手まといにはならないよ」


 自信満々といた様子がとても心強い。

 今まで経験した事の無いような仕事だ。しかしアンフォーギヴンの未来の為に戦うと決めた。


「誘拐犯相手ならアームズブレイヴァーは出てこないはずよ。下手に見られてバレたら最悪だもの。でも油断はしないで」


「解ってるさ。それと三人とも、誘拐犯は殺すなよ。命を奪ったら、あいつらと同類だ」


 三人は頷くが、ランだけは少し不満そうだった。

 少しばかり大変な夜になるだろう。それでもお互いの地球の為に必要な任務だ。

 誰一人として死なせない、そう意気込む。


「それじゃあお仕事に行きましょうか」


 ノアが手を上げると大きな光の円、マーブル色の転移ゲートが開かれた。

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