共に行こう

 零次の部屋へと二人を押し込む。疲れたように肩を落とす零次とノア。そしてランは複雑そうに視線を逸らす。

 彼女の気持ちは二人とも理解はしている。零次にいたっては仇だからか罪悪感もある。更に優人の行動にも非はあろう。それでもあれ程キレ散らかすのはやり過ぎだ。


「ラ~ン~?」


「……ごめん。もっとスマートに断るべきだったわ」


 項垂れるランの姿に反省の色が見える。ノアはこれ以上は何も言うまいと思っていたが、文句の矛先が優人の方へと向かう。


「ねぇお兄ちゃん。あいつ、何なの? ナンパ野郎ってレベルじゃないでしょ」


「でもいつもあんな感じでさ、距離感もバグってんだよ。しかも無自覚でモテるしさ」


「…………実在するんだ、そんなの」


 まるで漫画の主人公のような優人の存在に頭が痛い。非現実的な男に呆れて物が言えなかった。

 その時ノアから電子音が聞こえる。


「ん。ちょっとごめん。電話だ」


 手をかざすと赤い光の板が展開。それを指でなぞり耳に当てる。


「私よ、何かあったの? ………………わかった、早急に対応を。護衛メンバーの選定もお願い。あと近隣地域に定住している人達の確認と連絡も」


 深刻そうに目の色を変える。電話先の相手に指示を飛ばしながらチラリと零次を見る。ランも何かを察したのか顔を上げてノアとアイコンタクトをした。


「三世もここにいるから、ランを連れてすぐに帰る。ええ、今日中にやりましょう」


 電話を切り深刻そうな面持ちで零次の方を向いた。


「どうした? また毘異崇党として戦わされてる人がいたのか?」


「違うよ。実はまだ私達アンフォーギヴンがこっちの地球で生活しているのは知ってるよね?」


 アンフォーギヴンは初期は地球に許可を得て住み、こちらの人類と交わり遺伝子の回復、元の人間への回帰を目的としていた。しかし毘異崇党として戦わせる為に拐われるようになって、今は秘密裏に定住いる者が何人もいる。


「ああ、前に聞いたな」


「実はその一人が見付かっちゃったらしいの。家族で私達側の地球へ保護の要請が来た」


「まずいな……」


 家族を人質に強制する、それが奴らのやり口だ。家族全員で保護を求めるのは当然だろう。


「でも家族も納得してるなら重畳だ。お互い同じ人類なんだから、どこでもやってけるはずだ」


「そうとは限らないよ」


 ノアの表情が曇る。


「そうなのか?」


「うん、半分くらいは……ね。やっぱり家族が私達アンフォーギヴンな事を嫌悪する人はいる。中には正体を話したら通報されてって人もいるわ。今回は理解してくれたみたいだけど」


「成る程な」


 少しだが理解出来る。今は擬態しているがノアやラン、純血のアンフォーギヴンはまさに亜人とも呼べる姿をしている。その容貌を不気味がる人は少なからずいるだろう。そもそも元々が同じ人類だと信じるのかも不明だ。

 もし伴侶がアンフォーギヴンだったら。受け入れる者もいれば拒絶する者もいる。中には自分の子さえ異形との間だからと攻撃する人だっているかもしれない。

 それは瑠莉や優人もだ。

 零次は人間と違わぬ姿をしているも、身体に流れる血には違う。一度ユニットを装備すれば、自身の中にある獣が姿を現す。

 狡猾で貪欲なカラスの怪人が。

 だからこそ納得した。事情を知らなければ自分も、自身の姿に嫌悪していただろう。


「やっぱりいるんだな、そういう人。残念だけど当たり前だな」


「そうね。人質の中にはアンフォーギヴンを恨んでる人もいるかも。巻き込まれ被害者だし。人質の為に命を投げ捨てる人の想いはあっても、相手は……ってのもね」


 一方的な愛情。元々は相思相愛だったとしても、何かの切っ掛けで崩れる事はあるだろう。

 しかし崩れない事もある。


「それでも俺達を受け入れてくれる人はいるんだろ? だったらその人達の事も助けなきゃな」


「そう、だから……」


 ノアは真っ直ぐ零次の目を見る。


「力を貸して、お兄ちゃん」


 零次は笑う。


「当たり前だ。その為に俺はここにいる」


 強く頷く。それはとても頼もしく感じた。

 そんな二人の様子にランも決心したように話し掛ける。


「ノア、私も護衛部隊に入れて」


「え? でもランの管轄外じゃない。私の側近なんだから」


 ランはあくまでノアの側近。ここにいるのもノアがいるからだ。

 しかしランの決意は硬い。


「解ってる。けど私はきちんと見極めたいの。こいつを、信じられるのか。私達のミカタなのか。本当に償う気があるのかを……」


 ノアは口を閉ざしランの目を見る。

 彼女の気持ちも知っている。だからこそ頭ごなしに否定する事は出来なかった。想う所があり、零次の事を受け入れようとしているのだろう。


「……そうね、きっと保護希望者が増えるだろうし人手は欲しいかも。お兄ちゃんもかまわないよね?」


「お前の部下だろ。俺は何も言わないよ」


「ありがとう」


 少しだけランの表情がほぐれたような気がした。


「さて! 一旦向こうの地球に戻りましょ。そんで作戦会議と部隊編成ね。今夜中に片付けないと危ないし、忙しいから頑張ろう」


 光の円、転移ゲートを開き、零次とランを招き入れた。

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