償い
その日の夜、仕事を終えた山崎は一人夜道の中、スクーターを走らせていた。
暗い道をゆったりとした速度で自宅へと向かう。明日からは休暇、家でゆっくりしようと考えていた。
彼が家に向かう帰路はいつもの光景だった。木に囲まれた日中でさえ薄暗い場所。そんな道に異変が起きる。
急に現れたマーブル色の光の円。ブレーキを握るも間に合わない。
ぶつかる。そう思い目をつぶるも、衝撃は無くスクーターは停車する。
「…………何だ?」
もしかして幻覚かと恐る恐る目を開ける。そこは真っ暗な闇が広がっていた。スクーターのライトの先すら見えない深淵だ。
「一体…………何処なんだここは?」
「ようこそ山崎副所長」
「っ!」
後ろから聞こえるしゃがれた男の声に振り向く。
すると天井に光が灯り玉座に座るカラス怪人が姿を現す。その両隣には弓を持った二メートルはあるカラス怪人と黒い翼を広げる少女の姿が。
「あ、ああ……」
スクーターを放り出し尻餅をつく。
そこにいたのは零次、ノア、レイヴンの三人。そして零次は震える山崎に歩み寄る。
「ここが何処だか、貴様は理解しているだろ? 山崎副所長」
「お前はレイヴン三世。そうか、ここは平行世界の地球。アンフォーギヴンの本拠地だな?」
「そこまで知っているのなら話しは早い」
零次が指を鳴らす。すると暗がりから獣の呻き声が聞こえ山崎を取り囲む。
アンフォーギヴン達の群。哺乳類に爬虫類、昆虫に鳥類と多種多様な異形の怪人が彼にどす黒い憎悪の目を向けている。
山崎は諦めたように目を閉じる。
「…………そうか、私が見付かったか。なら好きにしろ」
「ほう?」
覚悟を決めたような、それでいて何処かホッとしているような目だ。
「私は君達アンフォーギヴンに何をしてきたのか理解している。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。私は……」
「いや、それは許せん」
沸き立つ周囲を制止するように、レイヴンが静かに口を開く。
「山崎光雄。貴様は死に逃げようとしている。己の罪の意識から逃げる為にな」
「…………」
「わしの目の黒い内は貴様は死なせん。死は償いではない」
「なら……」
「言っておくが、今や我々は工場の場所も把握している。この意味が解るな?」
零次の言葉にハッとする。
「あら、何を驚いているの? 貴方を拐ったのだから知ってて当然じゃない」
「そういう訳だ」
弓を鼻先に突き付けた。
「我々は工場を襲撃し、囚わられた者を救い出す。償う術は一つ、我々に協力する事だ」
「…………出来ない」
普通なら当然の反応だろう。しかし零次は彼がどんな扱いをされていたのか見ている。
山崎の襟を掴み持ち上げ、真っ直ぐ目を見つめる。
「あんたはそれで良いのか? 俺達アンフォーギヴンだけじゃない、そっちの人々も犠牲になってるんだぞ!」
沸き上がる感情に口調が戻る。
「俺達は知ってるんだぞ。あんたが熱海勘助からどんな扱いをされているのか。このままで良いのか? 利用されて蔑まれて、あんたは罪の意識もあるんだろ?」
「だけど彼は友達だ。裏切るなんて……」
「友達なら止めろよ! 俺も止めたい人がいる。これ以上罪を重ねて欲しくないんだ」
零次はおもむろにユニットの鍵を抜き山崎を投げ捨てる。すると彼の姿は元の少年へと変わる。山崎と変わらぬ人間の姿に。
「君は……アームズブラック? まさか、そんな……」
「そうだ、俺だ。なら解るだろ? 俺はアームズブレイヴァーの皆を止めたい、司令を止めたい、世界中で起きている無意味な戦いを止めたいんだ」
「それは……」
「
ユニットに鍵を刺し、再び怪人へと変身する。黒銀の鎧が妖しげに光を反射し、大きな嘴のある仮面が山崎を見下ろす。
「もう一度聞く。あんたはどうしたい? あの悲鳴と傷ついた人々を見て、そのままで良いと思ってるのか? あんたが吐いたのは演技だったのか? 罪の意識があるのはフリか?」
「わ、私は……」
仮面の奥底にある黒い瞳が問い掛ける。己の善悪をと良心を。
「私は、本当はあんな事をしたくなかった。アンフォーギヴンや人々が苦しむ姿を見たくなかった。こんな事の為に努力してきたんじゃない」
「ならばどうする? 俺が聞きたいのはそんな口先だけの台詞じゃない」
何が正しいのか、何が間違いなのか自問自答する。
「あいつを止めるのか、それとも止めないのか。二つに一つだろ! お前はどうしたいんだ!」
「…………!」
このまま歯が砕けるような力で噛み締める。やがて身体を震わせながら零次を見上げた。
「何を……何をすれば良い?」
選んだのはアンフォーギヴンへの協力。勘助を止める事だった。
彼の選択を喜ぶやうにノアは飛び上がり、山崎の後ろに降り立つ。
「とりあえず私達の質問に洗いざらい答えてもらうね。そこから段取りを組むわ」
「うむ。頼むぞ二人とも」
笑みを浮かべるノアと違い零次は口を閉ざし俯く。小さくため息をもらすと、黒い翼を広げ飛び立った。
「後は頼んだ」
「え、お兄ちゃん?」
慌て止めようとするノアの声を無視し、零次は何処かへと飛んで行ってしまった。
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