スーパーアームズレッド
嫌な予感がした。何となくという曖昧な勘だ。しかし、立ち上がり新たな姿の優人に身体が警告を鳴らしている。
残念ながら今零次は身動きがとれない。ここで離れれば瑠莉と椿を解放する事になる。
ライラノスが右手に再び氷の突撃槍を形成し前に出る。
「三世様、私が奴を抑えます」
「やれるのか?」
「無論。奴の太刀筋は見切っております。装備の出力が上がった程度、出鼻を挫いて見せましょう」
力強く頷く姿に少しだけ安堵する。自信満々な声に期待も膨らむ。
「よし。ラン、ノアに連絡だ。ゲルローブルも万が一の時はお前だけ逃げろ」
「わかった」
「うう……」
不安が滲み出ているが、今は彼を信じよう。優人を対処してくれる事に。
ズシリと重い足音を響かせてライラノスは槍を突きつける。
「我こそは族長親衛隊が一人、ライラノス! スーパーアームズレッド、いざ尋常に勝負!」
張り合うようにライラノスの名乗った。相手は自分だと示すように。
優人もそれに応え手を掲げた。炎が溢れ一直線に伸びる。それを振り払うと優人の手には一本の刀が握られていた。赤熱化した刃に炎のように波打つ峰、業火を直接刀の形にしたような美術品とも言える宝刀だ。
「真炎丸……」
刀を振るうと炎の軌跡が輝き優人を照らす。どこか神秘的な雰囲気すら感じてしまう。人々を魅了する英雄そのものだ。
「受けて立つ!」
宣言と同時に飛び出した。身体から吹き出す炎が推進力となり、一気に距離を詰め刀を振り上げる
今までとは段違いのスピードだ。
「ハッ!」
「ぬぅん!?」
ライラノスは刀の軌道を読んでいた。それでも受けた衝撃、振るう速度どれもが圧倒的。あと一歩遅れていれば受け止めるのも不可能だった。
でたらめなパワーだ。今まで原付だったのに、いきなり大型バイクに変わったかのような変化に驚愕する。
「くっ……だが中身は同じ! 武具の性能だけで勝てると思うな!」
「違う!」
炎の刃と氷の槍が何度もぶつかり合う。その度に熱気が周囲に飛び散り、打ち付けられた刃が少しずつ槍を溶断していく。
「俺は仲間達の想いとみんなの応援を受けている。お前みたいな私利私欲の為に戦う奴とは違う!」
槍が真っ二つに切り落とされた。切り口は溶け水が滴り、空中で蒸発していく。
「いいぞレッド!」
「やっちまえ!」
後退るも踏ん張り、優人への応援をかき消すようにライラノスは叫ぶ。
「侮るな小僧。私はレイヴン様の一族に忠誠を誓った忠臣! 邪な下郎と一緒にするな!」
全身から冷気を噴出し、今度は両手に突撃槍を形成。更に鎧の表面から氷が広がり、より一層分厚く堅牢になる。まさにサイの氷像だ。
怒涛の連撃。槍を振るう度に熱されたアスファルトが冷え周囲の気温を下げていく。お互いがぶつかり合う度に気温が上下し空気が歪む。
「失せよ!」
刀を受け流した隙に、力任せに蹴る。当たるかと思われたが、優人は足に乗り跳躍。後ろに大きく下がる。
「そんな盲目的な忠義に意味は無い。本当の忠義は間違えた道を正す事だ!」
「知った口を!」
槍を地面に突き立てる。冷気が流し込まれ、氷柱が上へと伸びながら優人目掛け走った。地面を剣山に変えるような勢いで、一メートル近い氷柱が迫り来る。
しかし冷静に、静かに刀を握ると横凪ぎに振るう。刃から炎が吹き出し氷柱を一掃した。
更に上段に構え一直線に振り下ろすと、今度は炎の刃が放たれライラノスに直撃する。
「…………! フン!」
一瞬全身が燃え上がったかと思えば、気合いだけで炎は凍り付き剥がれ落ちた。
「……三世様、申し訳ありません。どうやら加減できる相手ではなさそうです」
殺さぬよう、大怪我を負わせぬよう注意を払いながら戦っていたがそんな余裕は無い。彼の経験が、戦士としての勘がそう告げている。
「ライラノス? まさか……」
「殺しはしません。ですがあの腕ごとメサイアユニットを破壊します。処罰は後程如、何様にでも受け入れます!」
零次の答えも聞かずライラノスが駆け出す。周囲の声援、優人を応援する声が彼に立ちはだかるも怯みはしない。彼にとって自分が善であるからだ。
「我が全霊の一撃、受けるがいい!」
「勝つのは俺だ!」
二人は同時にユニットの鍵を押し込む。一撃必殺の技を繰り出す為に。
『Boost』
『必殺チャージ!』
ライラノスが槍を突き出す。先端から冷気が溢れ、全身を包むと彼自身が巨大な氷の槍となった。
「ぶち抜けぇぇぇ!!!」
『Deathblow』
「勝負だ!」
優人もユニットの画面を押し、溜めた力を解放した。
『レッド! 超バーストフィニッシュ!』
メサイアユニットの軽快な声も、今や煽るような嫌な声にしか聞こえない。正義という名の悪意の傀儡が殺意の塊となって迫り来る。
「でぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
刀を振り上げ炎の渦を放つ。周囲を焼きつくしながら灼熱の螺旋がライラノスと衝突した。
一瞬の拮抗。巨大な氷槍と炎の渦がせめぎ合うも彼の足が地面から離れる。
三桁は超える質量が宙を舞う。その異様な光景に皆が空を見上げた。
「とどめだ!」
優人が飛翔する。全身から炎を噴射し、マントは赤く輝く翼となる。
「負けられぬ! 我らアンフォーギヴンの未来の為に、私は負けられないのだぁぁぁぁぁぁ!!!」
負けじと氷の翼を広げ、冷気の噴射で強引に炎の渦から脱出。表面は溶け、水滴が炎の光を反射し輝く。その姿は槍と言うよりも、ロケットやミサイルのようだ。
「烈火一閃!!!」
刀を掲げ振り下ろす。炎の刃と氷の槍がぶつかり合ったが、優人の刀は槍を溶断しながら突き進み、ライラノスごと両断した。
上空で真っ二つなる巨大な氷槍。落下するように着々する優人。そして爆散する
「あ……」
零次が最期に見たのは地に落ち、真っ二つになったワイルドユニットの残骸だった。
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