Where is justice?
「おい、今何て言った?」
静かな怒りだ。声に強い怒気が混じりライラノスを見上げる。零次もこんな声を聞いた事が無い。
「言ってやる、ヒーローごっこだとな。なぁに案ずるな。貴様らが道化であるのは私も知っている。いずれ解放してやろう」
嘲笑い挑発しているようにも聞こえるが、本心は違う。今の毘異崇党とアームズブレイヴァーの関係を言っている。彼らもヒーローと言う役者として利用されているのだ。それを止めるのは零次も目指している。
しかしライラノスの言葉は零次にも突き刺さる。彼も元アームズブレイヴァーだからだ。自分が犯した罪と道化っぷりは思い出すだけで吐き気がする。
「止めてくれ。その台詞、こっちも痛いんだよ」
「……失礼しました」
ライラノスも零次の過去わ思い出し口を閉ざす。沈黙の中零次は優人に目を移す。
「おとなしくしていろアームズレッド。そうすれば命までは取らない。正直、このまま撤退してほしいくらいなんだ」
「ふざけるな! 俺達に逃げろと? 地球を、人々を守るのが俺達の使命だ。そんな事……」
痛む身体に鞭打ち立ち上がる。手が震える、足に力が入らない。それでも己の正義を貫く姿は零次の憧れだ。
優人のようになりたかった。彼と肩を並べたかった。しかしそれはもう叶わぬ夢。二人の道は違うベクトルを向いているのだ。
「止めてくれ優人……」
誰にも聞こえないように小さく呟く。
今の姿を見たくない。醜悪な殺戮ショーの処刑人として利用されている姿を、幼なじみが正義とは真逆の行いをしているのが受け入れたくなかった。
本当の事を打ち明けたい。だが彼らが信じるか、そして黒幕が何か危害を加えないか。それが心配だった。
早く終わってくれと祈る。ノアの連絡をこれ程待ち望むなんて思ってもみなかった。
勿論それだけじゃない。この場の全てが零次の心を抉る。
「が……頑張れレッド!!!」
「負けないで!」
「俺達を守ってくれ!」
優人の姿に感銘を受けた人々が声援を送る。敵に向けられるなんえ心底惨めな気持ちだ。完全に悪役となっている。
皆に文句の一つも言ってやりたい。お前らの娯楽の為に何人の人々が犠牲になったと思っているのかと。毘異崇党として戦わされたアンフォーギヴン、戦闘によって破壊された街、全てヒーローショーの生け贄なのだ。
憤りに手が震える。
「う……ああ!」
「…………!!!」
一瞬気が緩み、重圧が弱くなる。瑠莉と椿が立ち上がろうとした。
「止めてくれ。戦う意味は無いんだ……」
再び重圧をかけ押さえ付ける。
こんな事の為に戦っているんじゃない。仮面の中で嘴が軋む程噛み締める。自分達は悪なのではと錯覚してしまいそうだ。
勿論こんなのは幻覚。それなのに胸が痛い。
こちらの人間だったからこそ解る。自分達がどんな姿をしているのか、どう見られるのかを。こんな異形の怪人と彼ら、どちらの言葉を信じるか、どちらが善なのか。考えるまでもない。
羨ましいの一言が心に引っ掛かる。声援を受け立ち上がるヒーロー。人々の為に命を懸ける気高さ。どれも零次が目指したものだ。
もう彼と同じ場所には立てない。このいかれたショーを破壊しなければ日常にすら戻れない。
「まだまだ……! お前らに地球を渡すか!」
もう彼らを見てられなかった。盲目的に己の信じる正義を手に立ち上がり、その真逆を強いられている姿に。
零次の気持ちを察したのか、ライラノスが立ちはだかる。
「三世様、奴の手足を凍らせて拘束します」
「頼む」
ライラノスの手に冷気が溢れる。優人の手足に氷を纏わせようと近づく。
しかし優人は恐れず一本の鍵を取り出した。
「まだ……終わりじゃない!」
「?」
零次は見た事の無い鍵だ。メサイアユニットに刺し変身する鍵に似ている。しかしそこには超の一文字が彫られていた。
「スーパーアームド・オン!」
『バトルフォーメーション・アップグレード』
ユニットに刺した瞬間、炎が巻き上がりライラノスを吹き飛ばす。
それは炎の竜巻。優人を中心に空へと巻き上がる炎が夜の街を照らしている。
炎の中から人影が現れる。アームズレッドだ。しかし彼のスーツには金色の線が血管のように走り少しだけデザインが違う。
驚いているのは零次達だけじゃない。アームズブレイヴァー、全員が優人の姿に驚いている。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びと共に炎が意識を持っているように優人に纏わり付く。炎が粘土のように形を変え、スーツの上から鎧となって装着された。
竜だ。竜の頭部を型どった胸部装甲に手足もより堅牢に増設されている。背中からは炎を模したマントが広がり、熱気を広げながらなびく。
「何……だよそれ?」
目が点になり開いた口が塞がらない。
より一層派手に、力強さを増した姿のアームズレッドが立っていた。
竜の鎧を纏った新たなヒーローの登場に人々は沸き上がる。そこに期待と興奮が混ざりあい大きな歓声となった。
「レッドなのか? すっげぇ!」
「レッド様、なんて神々しい……」
「レッド……!」
彼らだけではない。真美と早苗はうっとりとした視線を。瑠莉は希望を手にしたように安堵の声を漏らす。
そして皆の期待に応えるように、優人は高らかに新しい力、その姿の名を名乗った。
「爆炎の勇士! スーパーアームズレッド!」
それは新しい絶望の名。追い詰められたヒーローのパワーアップという最悪のシナリオだった。
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