会議中
零次達が撤退した後、アームズブレイヴァーの基地にある一室。待合室に五人は集まっていた。
今回は今までに無い異常事態だった。レイヴン三世の登場、ターゲットの撃破失敗。ロボット兵の排除をしただけで逃げられてしまった。
こんな事は初めて。被害の大小はあれど、着実に勝利してきたのだ。
だからこそ瑠莉は責任を感じていた。
「ごめん、私が取り逃がしちゃって」
自分の責任だと瑠莉はうつむく。声も元気が無く落ち込んでいる。
敵の逃走を許すなんてあってはならない。地球を狙う侵略者を倒し人々を守るのが使命だと教えられていた。そしてそれを忠実に実行してきた。
失敗と言えるのかは疑問だが、生真面目な瑠莉にはショックだった。
「いや、瑠莉だけの責任じゃない。手分けして探してたんだし、遅れた俺達も……なぁ?」
優人もフォローし励まし、周囲にも同意を求めた。すると皆口々に瑠莉を励ます。
「そもそも私が撃ち落とせれば良かったんです。瑠莉さんは悪くありません」
自分もだと早苗が呟き、真美は瑠莉の肩を叩く。
「大丈夫だって。次は全員揃ってブッ飛ばしてやろうぜ。な、椿」
椿、そう呼ばれた見慣れない人物がいる。髪をアップにまとめた長身の女性だ。顔や首、身体のあちこちに傷跡のある目付きの鋭い彼女がアームズイエローなのだろう。
彼女は死んだ魚のような生気の無い目で顔を上げる。
「同意。確実に
あまりにも淡々とした感情の希薄な言い方だ。表情一つ変えず、機械かと錯覚するような冷たい雰囲気をしている。
「だな。瑠莉の一撃を簡単に防ぐだなんて、相当な実力者だからな。でも、俺達五人が揃えば無敵だ」
優人の笑みに真美と早苗がハートマークが見えそうな勢いで抱きついていた。瑠莉はその風景に失笑しか出ない。
そうしていると自動ドアが開き勘助が入って来た。神妙な面持ちで異様な空気を滲み出している。
「皆、待たせてすまない。やっと会議が終わってな。今後の方針を説明しよう」
軽く咳払いをしメンバー全員を見回した。誰もが勘助の言葉を待つ。
「上層部はレイヴン三世と名乗った毘異崇党は上位の存在だろうと判断した。今後、出現した場合は最優先殲滅対象とする。一対一は避け五人で協力し確実に仕止めろ」
「「「「了解!」」」」
皆が頷く中、瑠莉だけは黙ったままだ。何かを考えているようで首を傾げている。
「あの……」
恐る恐る手を上げる。
「そういえばあれは……どうして仲間を拐っていったんでしょうか? 何なら人数が増えて、私達と戦うのに有利のはずです。そもそも戦う気は無いって言ってました」
「それに関しては、恐らくあのアルマジロ型毘異崇党が罪人、もしくは独断での出撃だったのではないかと考えてる。確保が最優先だから、ブルーとの戦闘も避けていたのだろう」
「まぁ……そうかもしれませんね」
なんとなくだが理解した。本来味方である者を強引に連れて行く。あの怯え様から見て瑠莉も勘助の言い分が正しいと納得はしている。
だが心の隅っこで違和感がどうしても拭いきれない。本当にそうなのか、そもそも彼らが同じ組織なのかと。毘異崇党とは違う第三勢力の可能性もある。
しかし証拠が無い。あくまで想像の域だ。
そんな瑠莉と違い優人は少しばかり高揚している。
「上位って事は、あいつらもまだまだ手加減してたって事か。でも上を叩けば戦況を有利に出来る。みんな、絶対勝とう」
「ええ、その通りです優人様。わたくし達が揃えば敵はありません」
「だよな! 前よりあたしらの戦力は上がってるんだ。やれるやれる」
少々楽観的だが悲観的よりもマシ。瑠莉はため息をつきながらも笑って頷いた。
そんな中、勘助だけは一切笑っていなかった。
「希望を持つのは悪くないが油断に繋がる。レッド、お前にこれを渡しておく」
「これは?」
上着から何かを取り出し優人に手渡す。それは超の一文字が彫られた鍵だ。
「アームズブレイヴァーの強化形態、その変身アイテムだ。非常に強力で制御が難しい。だがレッド……いや優人、お前なら必ず使いこなしてくれると信じている」
「父さん…………ああ! やってやるさ」
受け取った鍵を握りしめる。
「すっげぇ! なぁあたしにも使わせてくれよ」
「ダメですよ真美さん。これは優人様のですから。ですが流石は優人様ですね。このような最新装備を託されるなんて……」
瑠莉はじっとその鍵を物欲しそうに見詰めている。
「……司令、あれって一つしか無いんですか?」
「すまいが一つだけだ。ただ共有は可能だから君にも使える。しかし先程言ったように制御は困難だ。今は優人にしか難しいだろう」
「そうですか……」
今回のようにはなりたくない。もっと強くなりたい。しかし今は……そう考えるともどかしかった。
騒がしい部屋の中で、一人椿だけは蚊帳の外にいる。何を考えているのか、感情の欠片すら見せない無表情な顔で優人達を見ている。
見守っているような、監視しているような。そんな不思議な視線を向けていた。
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