決意表明
その日、静かな玉座にて異形の者達が集まっていた。その中心にいるカラス怪人と化した零次が緊張した様子で立っている。
彼の横ではノアが満面の笑みで付き添い、レイヴンは玉座で小さく微笑んでいる。
周囲からは期待の眼差し。長の末裔の帰還に心踊らせている。
「さあ、よくぞ決意してくれた我が孫よ。息子達亡き今、二人で我々の未来を切り開き皆を導くのだ。私の代は終わる。零次……いや、三世と名乗ってくれたのだったな。こちらに」
レイヴンに促され零次は前に出る。そしてレイヴンは杖を突きながら立ち上がると玉座を空けた。
「さあ」
ここはお前の席だ、そう告げている。
零次は手すりに触れ座ろうとせず立ち止まる。何か思い込むようにうつむき口を閉ざした。
「……お爺ちゃん」
「どうした?」
祖父と認められた事が嬉しいのだろう、レイヴンは笑っていた。しかしそんな彼の期待とは真逆の言葉に驚愕した。
「俺、ここには座れない」
「はい?」
開いた口が塞がらない。ノアも笑顔が凍り付き固まっている。
この席に座る事は、アンフォーギヴンの新たなリーダーとなる事だ。零次はそれを受け入れられなかった。面倒だとかそんなんじゃない。今の自分にはそんな資格が無いからだ。
零次は皆の方に振り向く。
「みんな聞いてくれ。俺は……この玉座には座れない」
全員がざわめき始める。誰もが新しい長の誕生を祝福に来たのに、当の本人はその気が無いときた。
零次は息を整え話し始める。
「知っての通り俺はあちらの地球で生まれ育ち、元アームズブレイヴァーの一人、アームズブラックだった。みんなの事を知らなかったとはいえ、多くの人を殺めていた。中には遺恨のある者もいるだろう」
何人かがそっと視線を逸らす。
「家族や友人が、あんなヒーローショーとして殺され続けていた。俺はそれに加担していた。そんな俺にこの席は相応しくない」
「だけど今、お祖父様の正当な後継者はお兄ちゃんなんだよ?」
「それはノアも同じだ。俺には……」
自分の手が血で汚れている、それも罪の無い人々の血で。そんな者が上に立つなんてあってはならない。
「だから俺は自身の罪を償う。必ず拐われた人々を救いだし、監督だなんてふざけた奴を止めてみせる。全てが終わって、それからだ」
辺りが静まり返る。零次の意見に賛成、反対どちらともとれる妙な空気だ。
誰もが待っている、レイヴンの判断を。零次をどう扱うのか、それは今の長であるレイヴンに決定権がある。彼が引退を優先するのか、それとも零次の意見を聞き入れるのか。ノアを含めた全員が待っている。
「……本気なのか?」
零次は強く頷く。どれだけ説得しようとも、今すぐこの席に座る事は無いだろう。レイヴンもそう感じていた。
「ケジメをつけたいんです」
ランのような者も必ずいるはず。そして何よりも自分自身が許せない。
アームズブラックとして戦っていた一年、何十人ものアンフォーギヴンを殺めてきた。その罪を償うのが最も優先すべき事だろう。
「わかった」
レイヴンは目を閉じ一息。残念そうに零次の手を握ると、周囲のアンフォーギヴン達に振り向く。
「聞いての通りだ。この席は暫く私が
反論する者はいない。ただ静かに頷いている。
不満や遺恨が消えるとは思っていない。自分の罪が消えたりはしない。そして何もしていないのに、彼らの上に立つなんて事は出来ない。
この悲劇の幕を閉じる。それが課せられた使命だ。
「ありがとう。必ず捕らえられた人々を助けよう。俺達アンフォーギヴンが平和に生きれる未来を掴みとろう!」
一人、また一人と拍手が増えていく。一歩ずつだが、受け入れられている。本当の仲間として歩み寄ろう。
そんな皆の意思を感じてか、離れた場所、柱の影で見ていたランは笑っていた。
「罪滅ぼしか。……少しは期待するかな。騙されてヒーローごっこするような奴だし」
そう呟きながら、人混みにまじっていった。
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