友情決裂

「……ブルー、余計な事をするな。ノアを護るのは私の仕事なんだ」


「別に。私は自分の意思で椿を止めただけ。それに……」


 ちらりとノアを見る。


「友達の従妹を危ない目に会わせる訳にはいかないから」


「フン」


 一方椿は拘束を解こうと暴れ踠く。しかし水の塊を弾く術は無く、追撃でランの牙が噛み付く。例えるなら巨大な獣の口の中、どれだけ抗おうと抜け出す事なぞ不可能。

 邪魔者はいない。残るは優人一人。


「零次、優人を止めて。また三人で……」


「それは出来ない」


「え……」


 元の三人に、戦いとは無縁だった頃に戻りたい。それが瑠莉の願いだったが、零次は受け入れなかった。


「もう元には戻れない。俺も、優人も」


 一歩、また一歩と優人の前に進む。

 後戻りは出来ない。お互い歩み寄り平和的に解決するボーダーラインはとっくに越えている。話し合いも相互理解も不可能。優人を放置してはまた同じ事を繰り返す。アンフォーギヴンに平穏は絶対に訪れない。

 お互いに感じていた。目の前にいるのは幼なじみじゃない。敵だと。


「怪人め。地球の平和の為、お前を倒す」


「悪いが優人、ヒーローショーは終わりだ」


 足を止める。その瞬間、優人は新たな鍵を取り出しメサイアユニットに刺し込んだ。


「スーパーアームド・オン!」


『バトルフォーメーション・アップグレード』


 優人の身体が炎に包まれ駆け出す。竜のような鎧、炎を模したマント。スーパーアームズレッドに変身すると同時に零次も弓を振り上げた。


「アームズレッドぉぉぉ!」


「レイヴン三世ぇぇぇ!」


 つばぜり合いになり衝突する刃。お互い押し合い睨み合い、火の粉が散り力と力がぶつかる。二人の力は拮抗し一歩も退かない。


「許さない、許さないぞ! 瑠莉を騙し地球の敵になった事を、俺達を裏切った事を!」


 刀から炎が吹き出し零次を押し飛ばす。大きくバランスを崩しそうになるが、爪を床に食い込ませ耐える。


「それが、人の命を弄ぶ奴の台詞か! 俺や瑠莉を裏切ったのはお前だろ」


 後ろに跳び距離を離す。右手から光の矢を生み出し放った。

 矢は優人に向かって真っ直ぐ飛ぶが、彼は軽々と切り払い防いでしまう。


「俺は人の命を弄んでいない」


「弄んでるだろ。俺達アンフォーギヴンも人間だ!」


 翼を広げ足を浮かせ重力の向きを変えて突撃。弓を横凪ぎに振るう。優人は反応し防ごうとするも勢いの乗った一撃に弾かれる。

 一瞬無防備になった顔面を殴り、優人は床を一度バウンドし吹っ飛んだ。

 しかしダメージは小さいのか、即座に受け身をとり起き上がる。そして仕返しとばかりに炎の斬撃を飛ばした。

 零次も矢を放ち相殺、爆風が吹き荒れる。


「何が人間だ、どう見ても人間じゃないだろ。だが人間でなくても、その命を利用してきた責任はとる。その為のアームズブレイヴァー、ヒーロー達だ。世界平和の礎なんだ。罪を背負う覚悟はある!」


 あまりも馬鹿げていて、いい加減で、めちゃくちゃな言い分に頭が痛くなる。彼の言葉は出鱈目だ。まるで物語の主人公のような、格好つける台詞を繋げているだけにしか聞こえない。


「ふざけるなぁ!」


 炎の斬撃と光の矢が再び衝突する。


「そんな独善に巻き込むんじゃねぇ! 罪を背負うだなんて、カッコつけて自分に酔ってるだけだ。人の命で遊んでるだけなんだよ」


「ふん。アンフォーギヴンにだけは言われたくないな!」


 爆炎の中から優人が飛び出す。マントは炎の翼となり跳躍。右足が真っ赤に燃え、自身を矢と化し蹴り抜く。

 対し零次も足に黒い光を纏わせ上段回し蹴り。お互いの蹴りが正面がぶつかるも、今度は零次が押し退けた。

 零次は一瞬ふらつくも踏ん張る。


「何が言いたい」


「知ってるんだぞ。お前達が地球の人々を利用しているのを。人類を苗床にして侵略している事を」


「違う。アンフォーギヴンが生き残る為に協力してもらったんだ。共存しようとしていたんだ。同じ人間として……その結果が俺だ!」


「言い訳は地獄で言ってろ侵略者め!」


 刀を真上に掲げ円を描く。刀身の炎はいっそう燃え上がり、赤く輝く刃となった。炎の塊とも言える刀を振るい、火の粉を撒き散らしながら迫り来る。


「この……馬鹿野郎!」


 零次は飛んだ。炎の刃が振り下ろされるよりも速く、優人の懐へと。腕を掴み制止し押さえ付ける。


「見た目だけで、自分勝手な価値観で……」


 押さえ付けたまま首を引く。


「適当な正義を振りかざすなぁ!」


 頭突きが炸裂。零次の仮面にひびが入り、優人の額も陥没する。

 ふらついた隙、零次は跳ぶと足で……爪の伸びた鳥の足で優人の頭を鷲掴みにし、空中で一回転しながら投げ飛ばした。

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