決戦
壁際の破壊したカプセルに優人の身体が衝突する。ガラスが、機材の破片が散らばり倒れるが刀を杖に立ち上がる。
「適当……適当だと? 俺は人類の、地球の未来の為に戦うんだ」
「俺もだよ。アンフォーギヴンって言う人類の為にな」
「ハッ。人間? 馬鹿にするな。あんな人間がいてたまるか!」
優人の声が零次に突き刺さる。
「どこが人間だ。人間に似せたケダモノのくせに。俺は絶対に認めない」
「…………そう……か」
初めて毘異崇党を知った日を思い出す。零次もまた彼らを人間と見なしていなかった。異世界からの侵略者、怪物だと軽蔑していた。
自分も同じだから、起源と歴史を知ったから人間と認めただけかもしれない。それにこちらの地球で何人がアンフォーギヴンを人と受け入れてくれるかも疑問だ。
人間は自分と違う姿を嫌悪する。人種、民族の差別や争いの歴史が証明している。優人の考えはある意味人間らしい見解だ。
だけど聞きたくなかった。彼の口からは絶対に。
「それに人間なら人々の未来の為、世界平和の為に働ける事を光栄に思うべきだ。協力するべきだろ」
「協力と呼べないからこうやって争うんだ。どこまでも自己中で自分本意だな」
「黙れ!」
『必殺チャージ!』
メサイアユニットの鍵を押し込む。桁違いのエネルギーが優人の全身を駆け巡る。零次も黙ってやられる訳にはいかない、続くようにワイルドユニットの鍵を押した。
『Boost』
耳に残るような電子音声。お前を潰す、そんな意味を持つ一言。
感情も無い、意思も気迫も、心を持たない道具の声。それが今は虚しく憎たらしい。言葉ですらない、ただ殺意を告げる記号。
『レッド! 超バーストフィニッシュ!』
放つのは巨大な炎の竜。床を黒焦げにしながら、気温を赤道直下の国々のように煮えたぎらせながら、零次は腐りきった正義の炎に立ち向かう。
『Deathblow』
迎え撃つ黒い光を輝かせる弓、その刃で受け止めた。
熱い、暑い。羽毛か焦げる臭いがする。爪が焼けただれる音がする。鎧が赤く加熱される。
抗った。友だった者の怒り、憎しみ、我が儘が牙を向く。
「う……ぐっ!」
重くのし掛かる炎。全身を焼く敵意。耐えたのは数秒。大きく開いた顎が零次を飲み込み、炎の渦へと誘う。
広がる火の手、炸裂する爆炎。零次の姿は爆発の中へと消えた。
優人は肩で息をしながら刀を下ろす。
「ハァ、ハァ……。零次、友達だと思っていたよ。本当に残念だ」
遠巻きに見守っていたノア達がどよめく。まさか、そんな、零次の安否が絶望視される。
「俺もだよ」
爆煙の中から声が聞こえた。
黒い翼を羽ばたかさせ煙を吹き飛ばす。爆心地にカラスの怪人が力強く立っている。
零次は生きていた。しかし鎧はボロボロ、あちこちの羽毛が焼け満身創痍だ。
「焼き鳥になるとこだったぞ」
「そうかい。生焼けが嫌ならしっかり火を通さないとな。次は無いぞ」
再びユニットに手を伸ばした。しかし優人は刀を落とす。
「うっ……」
呻きながら膝を付く。身体中の力が抜けていく、スーツが重くのし掛かる。
反動だ。強大な力の負荷に限界が訪れたのだ。
「前と同じ。性能に身体が着いていけず、反動に耐えられないようだな」
「く……そ。いや、俺はヒーローだ。こんなもん乗り越えてやる!」
吹き出す炎は消え、ふらふらとした足取りで立ち上がる。拳を握り一歩前に歩く。
零次も応えるように使い物にならなくなった弓を捨てた。
「「!!!」」
二人は同時に走り出し拳を突き出した。お互いの顔面を殴り合う。
零次の仮面、右半分が砕ける。黒い羽毛が、人間とかけ離れた風貌の、カラスの顔が露出する。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!」
「くたばれぇぇぇ!!!」
それでも零次は止まらない。赤い鎧をひたすらに殴り、拳と拳をぶつけ合う。泥臭く子供じみた我武者羅な殴り合い。二人は無我夢中で拳を振るうだけ。
武器は不要。己の力だけの喧嘩のようだ。
殴る度にお互の鎧に亀裂が走り、肉と骨を潰しながら血を吐きなおも止まらない。命の削り合い、どちらかが倒れるまでの死闘。
だが先に流れを変えたのは零次だ。
「ふん!」
右手を掴み受け止めた。怯んだ隙に首を掴むと、優人の身体を持ち上げ走る。そして壁に叩き付けると削るように引きずり回した。
摩擦で火花を散らし、壁をえぐり機材に衝突しながら優人の身体を引きずる。
「く……ど、退けぇ!」
やられっぱなしは癪だと零次の脇腹を蹴り跳ばす。急に来た横からの衝撃に零次も手を離し転んだ。
転がった道は赤黒い線が残り、嘴から血反吐を滴しながらも零次は立つ。
「優……人……」
「黙れ。その顔で、化け物の顔で、零次の声を出すな。俺を呼ぶな!」
優人も立つが零次よりもダメージが大きい。もう立つのがやっとだろう。
「人類の、地球の平和を邪魔するな。俺が実現するんだ、護るんだ!」
「そんなハリボテの平和に意味は無い。偽物の悪党、偽物のヒーロー、そんな嘘だけで創った平和なんかで何も護れやしない!」
『Boost』
鍵を再び押した。
心臓が跳ねる、血流が加速する、身体が悲鳴を上げつつも溢れ出す力を右足に集中させる。そしてボロボロになった翼を広げ高く飛翔した。
『Deathblow』
「でぇりぁぁぁ!!!」
黒い光を纏った跳び蹴り。自分の身体を矢にした全力の一撃だ。優人には避ける事も防ぐ事も出来ず、零次の蹴りが直撃した。
「カハ……」
足の光は膨れ上がり黒い光球となって全てを飲み込んだ。
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