正体

 全員の視線が零次に集まる。優人だけではない。真美も早苗も、そして勘助もが驚愕の表情を浮かべる。

 周りの表情で零次は今までバレてなかった事に少し安堵しつつも、瑠莉が察したのに頭を悩ませる。

 しかしここは腹を括るべきだろう。こちらの意見を、優人と瑠莉を信じさせるにはこれしか無い。優人さえ味方に引き入れれば、真美と早苗も信じるかどうかはともかく敵対はしないはず。

 ただ一つ。自分の正体を明かせば、二度とこの地に立つ事は不可能だろう。あの日常は永遠に失われるだろう。

 だがそんな事は覚悟の上だ。このユニットを自らの意思で手に取った時から決めている。アンフォーギヴンとして、もう一つの地球の人として生きる事を覚悟している。

 零次はユニットの鍵を引き抜く。身体が光の球に包まれ、そこから一人の少年が姿を現す。零次は変身を解いた。


「いつから気づいた?」


「さっきの一言が決め手、司令って呼んでたし。あと手の怪我とか。それと……後ろにいるのノアちゃんだよね」


「そうだよ。まっ、顔見れば解るか」


 零次の背後からノアも顔を出す。

 この状況を優人達以上に驚いていたのは勘助だ。彼からすれば見ず知らずの異形よりも父である自分を信じる。多少無理のある言い訳でも手玉にとれる。そう思っていたが、相手が零次となれば話しが変わる。彼の言葉に耳を傾ける可能性が高いからだ。


「で、零次。本当なの?」


「嘘は一つもついていない。言った事が事実だ。俺達アンフォーギヴンがどんな扱いをされていたか、そして俺達が何をしてきたのか。全部本当、俺達がやってきたのはただの人殺しショーだったんだ」


「…………司令、いえ……勘助さん。何か反論は?」


「………………」


 瑠莉の目に疑いの色が見える。零次の事を完全に信じている訳ではないが、一考する価値はあった。幼なじみの言葉を真っ向から否定するなんて事はしない、それだけ彼との信頼がある。

 勘助の頬に冷や汗が流れ、零次はそれを見逃さない。


「毘異崇党なんて異世界からの侵略者なんかいない。俺達がやっていたのは人殺しなんだ。人質を取られ無理やり演じさせられていた!」


「違う! そうだ、零次君はスパイだ、君達を惑わす為のな。信頼を得て利用する為に」


 息を荒げながら反論する。必死に優人へ、瑠莉へ説得する。


「私を悪人に仕立て上げ、内部から崩壊させるつもりだ。優人、お前は私を信じるよな? 瑠莉君、冷静になって考えろ、零次君は裏切り者なんだ」


 瑠莉は迷い優人は呆然としている。特に優人は驚きただ立ち尽くし頭を抱えていた。


「嘘だ……零次が? そんな、そんなのって……」


 ぶつぶつと呟く姿に真美と早苗は心配そうに一瞥、椿は相変わらず機械のように立っているだけ。

 

「司令は上の状況を全部見せたか? 見せてないよな。何故なら上は仲間の女性達の商品棚だ。そいつは彼女達に身体を売らせていた。そして産まれた子供達をここで育て商品として、新しい怪人として利用していた。ここは怪人を社会に適応させる施設じゃない、怪人を造る工場……牧場なんだ!」


「違う!!!」


 勘助は力の限り叫ぶ。零次の言葉を遮り、自分の主張を押し通すように。


「ここは人類に助けを求めた毘異崇党を地球で暮らせるよう支援する施設だ。敵と見なされているから今まで秘密にしていた。何なら証拠の映像だってある、データはいくらでもある」


「どうせ偽造品でしょ? アームズブレイヴァーを呼ぶんだから、予め用意してたんじゃない? それに私達は……ほら」


 ノアも笑いながら手をかざす。指輪から光が放たれ頭上に映像を映し出す。もちろん彼女達の救助活動の様子だ。再会に涙を流す者、傷ついた恋人を労る者の姿を。

 その映像に瑠莉は釘付けに、勘助は苦々しそうに睨む。


「それこそ作り物だ! 椿、奴らを排除しろ!」


 椿に命令するも彼女は動かない。彼女の視線は優人に向き、勘助よりも優人の命令を待っているかのようだ。そんな様子に苛立ち拳を震わせる。


「っ! 真美君、早苗君! なら解るだろ? 誰が正しいか、討つべき裏切り者は誰かを」


 娘、そう呼ばれた事にハッとする。彼女達が心酔する優人の伴侶として認められた、二人のねじ曲げられた精神は何を優先すべきか思考を切り替える。


「へっ! 当たり前だぜ。優人を惑わすカスはあたしらが潰してやる!」


「お任せくださいお義父様。カラス狩りはわたくし達が!」


 二人にとって零次の事なぞどうでも良い。優人の父、勘助の言葉が絶対。それに万が一零次の言葉が真実なら優人は傷つく、だからこそ武器を手に外敵の排除を最優先とした。


変身コンセプション!」


 零次もそれは予想していた。彼女達は自分を信じない、優人が「零次を信じる」そう言わない限り必ず。

 変身と同時に早苗が発砲。発射された氷の弾丸は零次の心臓を狙う。

 心臓を穿ち内側から氷塊と変化させる凶悪な弾丸。一直線に迫る弾を変身した零次、レイヴン三世は軽々と真上に弾き、着弾した天井が凍りつく。


「ははは。テメーは本当に邪魔だったからな。ブッ殺せるのをずっと待ってたんだ。まさか人間じゃないなんてな、嬉しい誤算だぜ」


「ええ。優人様の踏み台として生きるな見逃して差し上げても良かったのですが……。やはり足手まといかつ敵となるのなら容赦しません」



「っ、みんな戦闘た……」


 にじり寄る二人の前に立ち、指示を出そうとするノアを零次は制止する。手を出すな。そう彼が態度で語っていた。


「避難を最優先にしろ。あいつらは俺がやる」


「……出来るの?」


「やるさ。じゃないとこっちが殺される。彼女達はまともな心は持ち合わせていないからな」


 彼女達にあるのは殺意のみ。もう手は抜けられない、犠牲者を出す訳にはいかない。そして罪は自分が背負うべきだ。


「来い! 変身解除で終わると思うな!」


「ほざくな雑魚ブラック。怪人になったからって調子に乗るな!」


 駆け出し脳天をスイカのようにかち割ってやろうと、鎚を大きく振り上げ飛び掛かる。

 まともに食らえば無事ではない。そんな破壊の一撃に零次が反応するよりも早く、水の奔流が真美を背後が突飛ばした。


「へ……る、瑠莉さん!?」


 後ろを向いた早苗は驚く。そこには変身し槍から水流をはなった瑠莉がいたからだ。


「私は零次を信じる。正直、私達の活動そのものが疑わしかったからね」


 そして槍を握りしめ優人に向かって叫ぶ。


「優人、あんたは誰を信じるの!? 前も言ったでしょ、変だって。零次の言ってた事は私の考察と繋がっている。父親を信じたいのは解るけど、私は無理だ」


 槍を早苗に向けたまま勘助を一瞥する。そこには驚きと怒りが入り雑じり額に青筋を浮かべる男がいた。

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