信頼、友情
「三人? 瑠莉は?」
「彼女はたぶん……関係無い。彼女の様子が変わった事ある?」
零次は考える。瑠莉に変化はあっただろうか。自分はそんなに勘の鋭い男ではないが、瑠莉の様子に違和感を感じた事は無いはず。
「いや、無いな。だけど何なんだ? 様子が変わったって」
「そうね。ホワイトが会ったばかりと今は? 例えばレッドへのアプローチの仕方とか。彼女レッドの事好きみたいだし」
「…………そういえば」
引っ掛かる事があった。今では普通ではなくとも、馴れてしまった異質な事。
「ピンクがいた頃は瑠莉を……ブルーをライバル視してさ。色事で揉めるなってピンクが怒っていたんだ。だけど彼女が戦死して、グリーンが入ったら…………何故か共有しようとしていた」
ハーレムの容認。日本の法律では一夫多妻は容認されていない。ならばこの思想は異常に分類されるはず。なのに彼女はそれが正しいと言っているようだ。
「グリーンは?」
「…………同じだ」
「異常だと思わなかったの?」
冷静に、常識で考えれば異常だ。それでも優人ならあり得る、そう思っていた。
「優人は優しいし顔も良い。だから凄くモテるんだ。だから……」
「モテるねぇ。私は嫌なタイプだけど」
「ラン、今は余計な事言わないで」
ランの悪態にノアは諌める。
「……さて、やっぱりってとこね。ランが拐われてなくて良かった。もし拐われてたら、アームズレッド、熱海優人を溺愛、崇拝し、獣のように彼のハーレムの一員として生きてたでしょうね。しかも好意を持たない事が異常だと思うようになるくらいの……イカれた宗教みたい。勿論黒幕と繋がっているでしょうね」
「おい! 優人が洗脳でもしたって言うのか?」
ちゃぶ台を叩く。
「あいつは誰やりも優しくて正義感に溢れているんだ。異性との距離感はおかしいけど、色欲に負けるような奴じゃない!」
「……信頼しているんだ」
「当たり前だ。優人は幼なじみで何年も一緒にいたんだぞ。そもそも洗脳だなんて、出来るのか?」
「可能よ。だから疑っているんじゃない」
ノアは即答する。
「なっ……」
「こっちの地球に私達の技術を提供したって話したでしょ。それはユニットだけじゃない。技術の中に脳に直接情報をインプットさせるってのもあったんだ」
「脳に……直接?」
「本来は睡眠学習やアルツハイマーの治療を目的としていたんだけど、厄介な事に使い方次第で洗脳が可能なの。変更した常識や価値観を脳に植え付けてね。私達の地球では制限されてるけど、こっちは違う。人を捕まえて脳の中を、心を書き換える機械を制限する法律は……無い」
身を乗り出し顔を零次に近づける。黒い黒曜石のような瞳がじっと零次を見る、
「熱海優人はこの世で最も優れた最高の男性。女性は彼に恋い焦がれるのが当たり前、彼と道をたがえるのは悪。そんな常識をインプットすればああなるでしょ」
そして顔を離し苦笑する。
「じゃないとあんな言葉出ないよ。好意を抱いていない女性に精神科医を勧めるなんてね」
ノアには聞こえていたのだ。今朝の話しを、早苗が瑠莉に言った言葉を。
可能だと断言する姿に口ごもる。向こうの地球の技術を全て把握している訳ではないが、平行世界への移動を可能にするのだ、洗脳も難しくはないだろう。
「ブルーはお兄ちゃんとの関係もあるから、下手に頭をいじれなかったんでしょうね。ピンクは……ホワイトの変化から、在籍していた頃はまだ確立されてなかったんじゃない? で、邪魔だから殺して、その後洗脳が可能になったからホワイトとグリーンは……って感じ」
「……違う。そんな奴じゃない」
零次は信じれなかった。彼がそんな事をするような人間には見えない。愚直で正義感に溢れた被害者、騙されているだけなんだと思っている。
「ランは……まぁ、あの四人と比べて圧倒的にでかいからね。そういう女が欲しいんじゃない?」
「いやいや、寧ろ鈍感な方だぞ。二人に言い寄られても特に反応している訳じゃない。だから……」
「でもそれが
「!」
「観客がいると、何だかヒロイックな台詞が大げさでわざとらしいのよ」
「私もそう思う」
ランも同調する。
「お兄ちゃんが最初は私達を信用出来なかったように、知らないから私も彼をうたがってるの。当然でしょ?」
容赦ない追及に零次も反論が出来ない。彼女の言葉は客観的かつ優人の行動を鑑みたものだ。あくまで感情的、信頼、友情で判断している零次が覆せはしない。
「…………証拠は無い。それに一人でそんな事が可能か?」
「そうね、証拠は無いし一人じゃ不可能よ」
ノアが簡単に肯定した。思わず驚いて目が点になる。
「それにお兄ちゃんの知ってる彼が本当なら、誰かがお膳立てしているのかも。主人公みたいになるように……」
「そ、そうだ。だから……」
「だから日曜日、あの家を調べる。それで白黒はっきりさせましょ」
怪しいのなら調べれば良い、そして本当に裏があるのか潔白なのかはっきりさせる。それについては同感だ。
だが自分が信頼している者を疑われて良い気分はしない。
「勝手にしろ」
そう言い外へ出る。彼女の言い分は理解してるが苛立つ。話し続けても関係が悪化しかねないからだ。
零次はアパートの階段を下り外を見る。熱海家、優人の部屋の窓を。
「……優人はそんなんじゃないよな? 騙されて利用されてるだけだよな?」
そう信じたい。零次の知る優人はそんな男ではない。仮に早苗や真美の洗脳が事実だとしても優人は関与していないはずだ。誰かが優人を祭り上げているだけだ。
何度も自分に言い聞かす。
子供の頃から正義感が強く、一種の憧れすら抱いていた。誰よりもヒーローらしい男なのだと信じている。
「ねぇ」
不意に背後から声をかけられる。
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