I am a Hero.

 意味が解らない。零次の知っている優人はこんな事をしない。人の命を奪うなんて事は絶対に。

 それなのに彼は何の罪悪感も感じていないように、自身の行いを肯定し平然としていた。ただ一つ、父親である勘助にだけは違った。


「で、父さん。何て奴を選択するんだよ。二人が無事だったから良かったものの、怪我したらどうするつもりだったんだ」


「優人……」


「父さんはどう思ってんのか知らないけど、俺は別にヒロインなんかいらないんだよ。一緒に戦う仲間は……悪くないけど、正直瑠莉と零次がいれば充分なんだ」


 まだ熱が冷めない刀身を弄びながら勘助に近づく。陽炎が空気を歪め、優人の姿が揺らいだ。


「ごめんな二人とも。父さん俺にハーレム願望があるって思ったのか、それともその方が主人公らしいからか。あんなのを用意して、結局やったのは二人を傷つけようとしただけ。本当、余計な事してくれたよ……なっ!」


 勘助を蹴る。床を転がり彼の鼻から血が垂れた。


「父さんのやってる事は良いよ、アンフォーギヴンを利用するのは世界の安定に役立ってる。けども俺の大切な幼なじみを殺そうとしたのは許せないな」


 優人の言葉に零次は耳を疑う。彼の言葉は勘助の言葉を肯定しているのではない。


「まさか優人、知ってたのか? 俺達アンフォーギヴンの事を」


「ああ、椿からな。けど零次の事は知らなかった。まさか零次がレイヴン三世だったなんてな」


 勘助が椿を睨む。


「貴様ぁ! 何を勝手な事を!」


「半年くらい前、俺から聞いたんだよ。父さんが何かやってるのは感づいてたけど。まさか工作員がこんな近くにいたとはね」


 優人は笑っていた。その笑みが不思議だ。何故、どうして笑ってられる。零次の知ってる彼なら許すはずがない。


「どうして……どうして知ってて戦い続けたんだ! 沢山の人が、アンフォーギヴン達が犠牲になってるんだぞ!」


「え? だって人間じゃないじゃん」


 当たり前のように、間違いなど無く、寧ろ零次の憤りの方がおかしいと言っているような声。


「平行世界だとかよくわかんないけど、人間じゃないんだから仕方ないだろ。肉食うのと同じ、生きるのに必要で感謝すべき犠牲だ」


「優人……まさか零次の事も?」


「いやいや、誤解するなよ瑠莉。零次は人間だろ? 俺達と一緒に育ってきた仲間だ。ちょっと生まれが特殊なだけの……な?」


「?」


 矛盾している、言う事全てが。今さっきまで人間ではないとアンフォーギヴンを切り捨てたのに、零次は別だと言う。

 瑠莉には優人が解らなくなった。彼の言葉をどう捉えれば良いのか。何を意味するのか一つも。


「だから零次、安心してくれ。俺がお前を守る。お前を化け物だなんて呼ぶ奴は俺が許さない」


「優人……」


 この言葉は確かに聞きたかった。アンフォーギヴンである事を受け入れ今までのように接して欲しかった。だけどその真意は違う。自分だけじゃない、アンフォーギヴンそのものを受け入れて欲しいのだ。

 そんな想いは彼には通じない。理解した。優人は優しい男なのだ。

 だから真美と早苗を殺められる。だから他のアンフォーギヴンを人間扱いしない。


「優人、お前正気か?」


「正気に決まってんだろ。それに今すっごく嬉しいんだ。零次がアンフォーギヴンの仲間なら、今後はもっとスムーズにヒーロー活動がやれる。父さんはいらなくなるんだ」


「そもそも、そのヒーローってのが全部まやかしなんだ。俺達がやってきたのは……」


「間違い無く世界の為になっている」


 やけに自信満々に言う。間違いではない、正義だと優人の中では断言されていた。

 疑問に口を閉ざす面々を諭すように優人の声は穏やかだ。


「人間ってのは悪い出来事を誰かのせいにしたがる。それが宗教の悪魔だ。そして悪を討つ神にすがり助けを求める。今の状況がまさにそうじゃないか!」


 楽しそうに、子供のように次第に声が弾んでいく。


「毘異崇党って人類共通の敵が現れた。人間同士の戦争が無くなり、事件が起きても誰かに責任を押し付け攻撃もしない。俺達ヒーローが悪を倒す事でみんなの希望となる」


 零次の方へと握手を求めるように手を差し伸べる。


「だから零次がアンフォーギヴンを管理するんだ。だってあいつらのリーダーなんだろ? 父さんみたいに汚い金稼ぎをしなくても良くなる。そんでまた一緒にアームズブレイヴァーとして活動しよう、瑠莉と三人で。人類が手を取り合う平和な世界を創ろう!」


 言葉が通じていない。何もかもが自分の都合の良いように解釈されている。見ている世界が違うのだ。自分勝手な正義を押し付け、小綺麗な言葉とヒロイックな台詞を並べているだけ。

 我こそが英雄、世界を護るヒーロー。そう盲信している。

 あまりの身勝手さに零次の拳が震える。


「ふざけるな! そんな、そんな事でアンフォーギヴン達が犠牲になれと?」


「何を怒ってるんだ? 牛や豚を食べる人を怒らないのと同じだろ。だからいただきますって命をくれた事に感謝の言葉を忘れない。それと同じさ。アンフォーギヴンにも感謝している」


「こいつ……」


「信じられない? なら」


 視線を勘助の方に移す。手にした刀には再び炎が燃え上がる。


「零次の敵、悪党を潰そう」


 刀を振るい、炎を勘助に向かって投げた。

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