黒幕とは
その頃、零次は瑠莉と共に優人の部屋を訪れていた。
一人で寝るには広すぎるベッド。大きなテレビと机には零次、瑠莉、優人で撮った写真が飾られている。
三人がパーティーを抜けて集まった理由、それは瑠莉がこっそりと声をかけたからだ。
「で、どうしたんだ? 急に俺達だけ呼んでさ」
部屋の主、優人は不思議そうに自分の席に座る。その隣には零次が立ち、瑠莉は二人と向かい合うように腕を組み立っていた。彼女の肩にはバッグがかけられている。
「うん、ちょっと二人にだけ先に相談したい事があってね。実はここ最近、気になる事があって調べていたの」
「気になる事? それに俺と優人にって?」
瑠莉は躊躇うように視線を落とす。そして決意するように深呼吸をした。
「もしかしたら毘異崇党……そもそも私達の戦いって仕組まれたものなのじゃないかな」
零次は硬直する。まさか瑠莉がと驚き、同時に期待に胸を膨らませる。
「おいおい、そんなはずがないだろ? あいつらが地球侵略にきてるのは、自分から言ってるじゃないか」
逆に優人の対応は軽く見ているようだ。おそらく大体多数の人々が彼と同じ感想を抱くだろう。それだけ毘異崇党は自らを侵略者とアピールしていたのだ。
「確かに普通はそう思う。確たる証拠も無い。けど、レイヴン三世の言動と調べた結果を見ると、どうもおかしいのよ」
そう言い瑠莉は零次に気付く。
「あっ、レイヴン三世ってのは……」
「知ってる。ニュースで見た」
「よかった。説明は省くね」
勿論嘘。そもそも自分がレイヴン三世だ。ふざけてもそんな事は言えないが。
「で、これが私が疑った情報」
バッグから印刷した紙の束を手渡した。そこにはよくわからない数字と名前が書かれている。日付と一部はお金に関する事、そして海外の会社の名前なのは解ったが、これが何を意味するのか零次どころか優人も解っていない。
「ごめん瑠莉。これ何?」
「さっぱりわからんぞ」
「これは毘異崇党が出現してからの被害状況と、株とか日本の経済のデーターよ。結論から言うけど……」
緊張しているのだろう、息を吸い心を落ち着かせる。そして覚悟したように話し始めた。
「日本は……毘異崇党が出現してから経済が活性化している。毘異崇党が出たおかげで国が豊かになってる」
「は?」
「…………」
零次は黙って瑠莉の話しに耳を傾ける。
「毘異崇党が海外の企業を襲撃、そのおかげで日本の企業が穴埋めをして儲けていて今も増加している。他にも最近じゃインフラ整備会社の需要により雇用の増加してるわ」
「つまり日本が儲けられるような動きをしていると? そうなるように毘異崇党が襲撃し、アームズブレイヴァーは隠れ蓑として討伐をしてる……って言いたいみたいだな」
瑠莉は強く頷いた。
「いやいや、それは結果論だ。そもそもまだ毘異崇党が出ていない国だってある。そこなんか被害無しで日本以上に儲けてるじゃないか」
優人の言葉も間違いではない。確かに瑠莉の言う通り、日本は儲けているが被害を受けていない国もある。そうなれば一番怪しいのは被害の無い国だ。
「それも考えた……けどメサイアユニットの原型を開発したのは日本だよ。そこも怪しくない?」
「……零次はどう思う?」
「俺は……」
もしかしたら今本当の事を全て話してしまえば。そう考えたがノアと相談もせず暴露するのはまずい。そもそもノアは勘助だけでなく優人も疑っているのだ。
「瑠莉の言い分には一理あると思う」
可能性は高い。それに言い方は悪いが、国が黒幕なのは零次にとっても望ましい結果だ。熱海家の二人を疑わずにすむ。
だから同調した。しかし優人は異を唱える。
「俺達の……もしかして父さんも疑ってるのか?」
「……少し」
「そんなはずは無い!」
優人が叫ぶ。
「企業が被害を受けて日本に需要が? そんなの外国のヒーローが弱いからだろ。戦死者の人数を見れば明らかだ」
「それは……」
二人はピンクの事を思い出す。戦死者の数は確かに少ない。零次はこの戦いが見せ物だと知ってるが瑠莉は違う。
「被害にあってる人達はどうなんだ! 本当に俺達の戦いが仕組まれているなら、その人達に何て言えば良いんだよ!」
彼の言葉は零次にも突き刺さる。ヒーローショーの為に犠牲になるているのはアンフォーギヴンだけでは無い。毘異崇党として破壊活動を行った被害者達もだ。
「今全ての悪の元凶である毘異崇党がいるから、人々は無意味な悪意や非難を他者に向けていない。そして俺達アームズブレイヴァーが希望の光として存在しているんだ。そうさ、今世界は強大な困難に直面し、それを乗り越えようとしている」
強く説き伏せるように、演説のように二人に話す。
「だから俺達がもっと強くなって平和を創るんだ。瑠莉だって父さんや自分の戦いを信じたいだろ?」
「そうだけど……」
瑠莉は自分の予感を信じたくないようだ。それは零次も理解している。自分達の行っていた戦いを否定するような行為だからだ。
だが彼女は悩んでいる。何を信じれば良いのか、何が正しいのか決めかねている。
「もし陰謀があるならそれもぶっ壊せば良いんだ。それに正直零次も一緒にいてほしかった。なぁ、またアームズブラックとして戻ってくれないか?」
「!」
零次の手を取るも、心臓が嫌な鼓動を鳴らす。
アンフォーギヴンとして生きる決意をした道と真逆の道。戦いを止めるのではない、続け被害を広げる選択肢だ。
「父さんの説得も任せてくれ。六人で地球を守ろう!」
「………………ごめん」
零次は手を離す。
「俺はもう部外者なんだ」
二人に背を向けて手を振りなかまら部屋から出る。背後で優人が引き止めようとするも、その言葉を聞き入れはしない。ただ瑠莉だけは彼の振る右手を見ていた。
部屋を出ると階段を下り始めるが、途中で足を止めて上を見上げる。
「優人、お前は何を見ているんだ? 正義を盲信しているだけなんじゃ……」
彼が関与している予感は失せた。しかしその代わりに悲しさが胸に込み上げてくる。
正義感の操り人形だ。
黒幕によって祭り上げられている正義の味方の形をした人形。それが熱海優人、アームズレッドの実態なのだろう。
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