怪人工場
「工場? 何だそれ?」
言い換えれば怪人工場と言った所だろう。そんな物があるのだろうか。
「正確に言うと牧場……かな。頭にくるけど」
口調は静かだがノアからひしひしと怒りが感じられる。
「……世界中で戦わされていれば、いつかはアンフォーギヴンは滅んでしまう。敵役が無くなって困るならどうすれば良いと思う? 作れぱ良いのよ。量産すればね」
彼女の言いたい事が頭に浮かぶ。牧場と言い直した事も察した。
「まさか子供を産ませているのか?」
小さく頷く。予想した最悪の応えだ。
「誘拐した女性のアンフォーギヴン達に……。それに人質であるここの人間達も利用してね」
「人間を? 何でだ」
「ハーフでもユニットがあれば変身できる。お兄ちゃんだってそうでしょ」
「だけど人質に危害を加えるなんて。それに同じ人間だろ」
一瞬ノアの顔が不快そうに歪められる。
「悪役として殺した後なら人質として価値無い。それに開放すればヒーローごっこがバレるじゃない」
つじつまが合っているせいかおぞましい事を想像してしまう。これ以上聞きたくない、想像したくないと頭が拒絶している。
「あいつらは……アンフォーギヴンとここの人間との間に子供を産ませ、悪役として教育、最期はヒーローに敗れて死亡させる。完全に家畜扱いよ。捕らえたアンフォーギヴンも人質もみんな……」
「もうたくさんだ!」
こんな非道な事に加担していたのかもしれない。それだけで零次の心は抉られるように痛い。
嘘だと願いながらも親密に話すノアの言葉が耳から離れない。
ランも顔を上げ零次を睨む。
「そもそもあたしらも
「ええ。私達はあくまで突然変異した人間、平行世界の人類。同じ存在なの。まぁ……」
ノアは嘲笑うような、怒りと憎悪も入り雑じった複雑な表情で呟く。
「本当に化け物なのはどっちかな」
その一言が全てだ。人として静かに生き、次の世代を繋ぐ為に全力を注ぐアンフォーギヴンと、人質をとり彼らを見せ物として利用する人類。どちらが本当の外道、悪なのかは明らかだ。
「ねぇお兄ちゃん」
ノアの手が零次の頬をそっと撫でる。
「まだ工場の所在地は解らないの。でも見つけて囚われた人達を助けないといけない。だから助けて、私達を」
「俺は……」
吐き気で頭がくらくらする。こんな事が、彼女の言葉が嘘だと思いたい。侵略者達の策略だとはね除けたい。
しかし嘘ではないかもしれないと心の片隅で思っている。毘異崇党との戦いにはいくつか不審な点があるからだ。
まずメサイアユニットの存在。あんなオーバーテクノロジーがこの数年で急に実現されたとは考えにくい。地球の技術だけで作れるとは思えない。
それに毘異崇党の行動にも疑問がある。彼らは破壊活動をするも、全て表立った派手なものばかり。まるで見付けろと言ってるかのように。更にブレイヴァーキャノンや必殺技を放つ時、攻撃を避けたり防ぐような行動をしない。それこそ愚直に正面から受けるような動きだ。
本当に彼らは自ら命を投げ出すよう命じられているのだろうか。大切な者の命を盾に強いられているのだろうか。
もし自分がその立場だったら、躊躇い無く自らの命を差し出すだろう。
心が揺れていた。
ノアだけでなくランも揺さぶりをかけてくる。
「あたしらを信じるなら、罪悪感があるなら協力して。あたしは兄の仇をとりたい、人質されてる姪を助けたい」
頭が痛い。
カラスのような怪人となった自分。アームズブレイヴァーの戦いの否定。悪意の根元。昨日からいろんな事が頭に詰め込まれ脳をかき混ぜられるような不快感に吐きそうだ。
「帰ってくれ」
絞り出すような、苦痛にまみれた声だ。
苦悩が零次の心を侵食していく。聞かなければ良かった、知らなければ幸せだった。そして嘘だと言って欲しかった。
夢なら覚めてくれ。
誰を信じれば良い? 何が本当なのか誰か教えてくれ。
そして願わくば自分は人間だと証明したい。
零次の憔悴しきった様子にノアも手を離す。
「帰るよラン。今日の説得はこの辺にしておく」
「解った」
ノアはランの手を取ると手を真上にかざす。するとあのマーブル色の光の円が図上に展開された。
「お兄ちゃん。アームズブレイヴァーが本当に大切な仲間なら、彼らにこれ以上罪を重ねさせないで。私達を信じて」
そう言い残すと光の円が落下、二人の身体を飲み込み姿を消した。
一人取り残された零次はその場にへたりこむ。身体は震え力が入らない。
「…………お父さん、教えてくれ。ノアの言ってる事は本当なのか? 俺は何者なんだ? 俺は……」
拳を強く握る。爪が皮膚に食い込み血が流れる程に。
「何の為に戦ってたんだ?」
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