人との差

 氷の道は緩やかに下降し地上に向かうように進んでいく。それは目的地である中学校だ。

 空の進んでいると声が聞こえる。人々の好奇心に満ちた声だ。


「呑気だな。いや、平和って言えば良いか」


 零次は人々を見下ろしながら呟く。

 誰もが楽観的に考えていた。毘異崇党が出てもアームズブレイヴァーが倒してくれる。そんな観客のような気持ちが人々にはあるのだろう。

 あまり良い気分ではなかった。以前は声援と思って快く受け取っていたが今は違う。嘲笑うような好奇の視線だ。

 そんな事を考えているとライラノスの声で現実に引き戻される。


「三世様! 近くに降ります。空では我々が自由に動けず飛行する敵が来ると危険です。ここからは地上を歩いて向かいましょう」


「そうだな。よし、行くぞ」


 もし戦闘ヘリでも持ち出されればどうにもならない。零次一人なら落とすのも簡単だが、彼らが狙われれば逃げ場が無い。

 了承し氷の階段は地上、住宅街のど真ん中へと降りた。零次も翼を羽ばたかせながら着地、周囲を警戒する。

 離れた所から声が聞こえ、近くの家の窓からこちらを見る視線もある。


「では花形家の皆さん、近くの中学校が待ち合わせ場所になってます。追手も来るはずなので、ゲルローブルの側を離れないでください。旦那さんは娘さんをしっかり」


「あ、ああ」


「走るぞ」


 零次を先頭にライラノス、花形家、ゲルローブル、ランが続く。

 道行く人々の声はあれど、意外な事に追手は無かった。不気味な程順調に進んでいる。

 まさかノアが見付かったのか。そんな嫌な予感がしたが、万が一の場合は救助の要請があるはずだ。

 ふと連絡しようと思ったが、こちらに近づくサイレンの音に気付く。


「三世様、この音近づいていませんか?」


「警察だ。それに……取り囲んでいるな」


 四方八方から聞こえるサイレンの音。どんどんその網を縮めるように近づいてた。


「ラン、後ろは?」


「来てる。でも警察なんかで止められると思ってんのかしら」


「油断はするな。……っと、お出ましか」


 一斉に足を止める。彼らの進行方向に三台のパトカーが道を塞ぎ、警察官達がこちらに銃を向けている。


「止まれ! 人質を解放しろ!」


 彼らから見れば零次の方が誘拐犯に見えるのだろう。思わず失笑してしまう。


「そう見えるわな。ゲルローブル、花形家の皆さんを保護しろ」


「はーい。ちょっと失礼」


「「え?」」


 ゲルローブルは三人を舌で巻き取ると、口を開き飲み込んでしまった。相手は銃を持っている。流れ弾に当たる可能性を考えると妥当だろう。

 それにこの方が派手に動ける。


「さてと。あんたらに敵意は無いが、邪魔をするなら覚悟しろ。ライラノス」


「お任せを」


 零次は弓を構え、ライラノスは右手に氷の突撃槍を作り出す。

 そして一歩ずつゆっくりと威嚇するように二人は警察官達歩み寄る。


「撃てー!」


 零次達に恐れるように発砲。一斉に放たれた弾丸が二人に当たる。

 しかしそれは豆鉄砲でしかなかった。零次の身体に響く乾いた金属音。痛みも無く触れた程度の感覚しか無い。

 文字通り敵ではなない。敵と認識する必要性すら感じさせない戦力差。絶望が歩いている。


「無駄だ。怪我したくなければ立ち去れ」


「う、うおぉぉぉ!」


 一人の警察官が必死に撃つ。しかし零次には掠り傷一つつけられず弾が切れてしまった。


「退け!」


 警察官を掴み投げ捨てる。そして次々と銃を切り落とし蹴り飛ばす。

 戦いにすらならない。一人一人虫を潰すようにあしらい気絶させる。力を使う間でもない。それ程の差があった。


「ヌン!」


 ライラノスが地面を突き刺すと無数の氷柱が生えパトカーを粉砕。爆発四散した。


「あ、あああ……」


 警察官達は腰を抜かし後退る。勝てない止められない。障害にすらならない。それを理解した瞬間、戦意が抜け恐怖が身体を支配する。


「この程度で戦意を失うとは、軟弱者め。それでも法の番人か? 市民の護り手か?」


「そう言うなライラノス。それよりも……」


 零次は何かを感じたように正面を真っ直ぐ見据える。破壊されたパトカーの先、足音が聞こえる。人々の黄色い歓声に混じりながら。

 そこから現れる五人の人影、その後ろに続く無数の声。


「ノアは来ないって言ってたがな。私は来ると思っていたぞ」


 アームズブレイヴァーだ。するとその姿を見た警察官の一人が叫ぶ。


「頼む、助けてくれ! あのカエルに市民が囚われている! 救助を手助けしてほしい」


 そう言うとこちらをちらりと見る。ニヤリと意味深な笑みを向けながら。


(成る程な。あの警察官は誘拐犯の一味。保護と言いながら拐う気か)


 アームズブレイヴァーには知られてはならない。だから利用する。漁夫の利を狙っているようだ。


「解った、俺達に任せろ。行くぞみんな!」


 優人の声に応え全員がメサイアユニットを構える。


「「「「「アームド・オン!!!」」」」」




『『『『『バトルフォーム、アームズブレイヴァー』』』』』


 鍵を刺し変身。五人の身体が光に包まれその姿を変える。人々の声を受けヒーローが立ち上がった。

 しかし零次達からすれば英雄だなんて格好良いものじゃない。悪意に利用された被害者であり加害者だ。


「炎の勇士、アームズレッド!」


「水の勇士、アームズブルー……」


「森の勇士、アームズグリーン!」


「氷の勇士、アームズホワイト!」


「砂の勇士、アームズイエロー」


「武神戦隊!」


 レッドの声に続き、彼を中心に四人がポーズをとった。


「「「「「アームズブレイヴァー!!!」」」」」


 今まで自分があちらにいた。イエローのいた場所にいたのは自分だった。

 外から見ると不思議な気持ちになる。懐かしいような恐ろしいような。今彼らが敵である事が何よりも苦痛だった。

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