かつての仲間
「…………アームズブレイヴァー。やはり来たか」
「当たり前だろ! それよりも拐った人をどうするつもりだ!」
「余計な事をべらべらと……。が、まぁ良いか」
文句を言いたいがこれは自己責任だ。彼らを連れ回していた。周りからは誘拐に見えよう。少なくとも今の状況は囮としては最適だ。
「アームズブレイヴァー。悪いが……答える気も無いし、今日は少し痛い目に会ってもらう」
下手に花形家の正体を話しては危険だ。アンフォーギヴンが社会に紛れているのを知られては混乱を招くだろう。世界で魔女狩りのような事が起こるに決まってる。
零次は弓を構え、対するようにアームズブレイヴァーの面々も武器を取り出す。
「ラン、ゲルローブルの護衛を任せる。二人とも防衛を優先しろ」
「オッケー」
「お任せあれ」
「ライラノス。我々で抑える。人数が劣る分、複数人相手にするぞ」
「はっ」
こちらも戦闘体制となり緊張が走る。観客も息を飲む中、誰が先陣を切るのかと静まりかえる。
その時だ。
「頑張れアームズブレイヴァー!」
子供の声が火蓋を切った。
「破ッ!」
先に動いたのはライラノスだ。サイらしく槍を構え突進する。一歩進む度にアスファルトに亀裂が走り、重厚な見た目を裏切るような猛烈なスピードで突撃した。
対するはブルー、瑠莉が先に駈ける。元々足は五人の中で一番速い。スピード勝負なら彼女の独壇場だ。
「アームズブルー! いざ尋常に勝負!」
ライラノスが踏み込み槍をなぎはらう。本来は突き刺す武器だが殺傷するのを避ける為だ。
氷の塊を力任せに振るう。瑠莉の槍を狙って。
しかし彼女は跳躍しライラノスを飛び越える。
「何?」
瑠莉はライラノスを見ていない。彼女の狙いはゲルローブルだ。
「待て!」
「ライラノス、後ろだ!」
追いかけようとするライラノスの背を氷の弾丸が襲う。それを読んでいた零次は矢を放ち撃ち落とした。
「申し訳ありません三世様」
「背を見せるな、死角からホワイトに狙われる。二人とも、そちらに行くぞ」
「もうっ!」
ランが剣を構える。背後にはゲルローブルが喉を鳴らし、唾の塊を瑠莉に吐き出した。
唾液を回避しながら接近、槍を振るうとランに止められつばぜり合いとなる。
「あんたの相手は私だ。魚に水が効くと思うなよ」
「あら? 牛かと思ってたわ」
火花を散らす二人も気になるが零次にそんな余裕は無い。
隙を見せれば早苗の狙撃が。そして何よりも……
「「でりゃあ!」」
炎を纏った刀と巨大な鎚が迫る。優人と真美が飛び掛かる。
優人の刀をライラノスがいなし、真美の鎚を零次は避ける。二人は足止めだ。
「イエロー!」
「了解」
イエロー、椿がゲルローブルに迫る。追えば背中から撃たれるか、ライラノスが三人を同時に相手にしなければならない。
完全に分断された。しかしこの状況は零次にとっても望ましい。分散させれば最強の武器、ブレイヴァーキャノンを使えないのだ。
幸いランはゲルローブルの援護を受けながら瑠莉と椿を同時に相手している。ライラノスも優人を圧倒していた。
「後は……!」
早苗の援護射撃を迎撃しながら真美の攻撃を流す。
彼女を自由にしてはいけないのを零次はよく知っている。右手には黒い光の矢が次々と生成され、早苗の援護を徹底的に潰した。
そのせいで優人は完全に実力差のあるライラノスに圧され、ランとゲルローブルも膠着状態に持ち込んでいる。
まずは時間稼ぎだ。今の内にノアが転移を済ませるの隙を作る。
「くっ……」
「ホワイト、あたしと二人でこいつを潰すぞ」
「解りました。レッド様、今暫くお待ちを」
流石に零次の存在が邪魔になったのだろう。二人が狙いを集中させる。
だがそれも零次の狙いだ。ゲルローブルに集中されるのが一番危ない。
それに零次は知っている。彼女達の戦法を、実力を。
「覚悟しろカラス野郎!」
「ブルーから逃れられたようですが、わたくし達は甘くありません!」
「!」
氷の弾丸が一斉に放たれ、その後に続くように真美が突っ込む。
弾丸を飛んで避けると地面が凍りついた。相手を凍らせ動きを封じ、そこを真美が叩く。これが彼女達の鉄板だ。
零次は翼を羽ばたかせ宙を浮き、ゆらゆらとした動きで狙いを定めさせず矢を放つ。
不思議だ。以前なら二人を同時に相手するなんて不可能だった。しかし今ではどうか? 身体が思ったように動ける。攻撃が見える。矢の威力も申し分ない。
アームズブラックであったら迎撃なんて不可能。寧ろ既に敗北していた。
「どうしたどうした!? 私はまだ本気ではないぞ!」
挑発するように地面に降りる。二人は明らかに焦っているようだ。
優人は技術も力も上回るライラノスに手も足も出ず、ランも奮闘している。状況はアームズブレイヴァーが不利と見て間違いない。周囲の人々からも不安そうな声が聞こえる。
その上挑発されては彼女達の激情を誘うのは簡単だ。そもそも二人の気は短い。零次の挑発に簡単に乗った。
「嘗めやがって!」
「後悔させてやります!」
早苗は銃身に氷の刃を形成、二人が同時に襲い掛かる。
「っ!」
振り下ろされた刃と鎚を受け止める。流石に重い。足にまで衝撃が伝い亀裂が走る。
(お、重っ……)
なんとか耐えたものの、このまま押され続けるのは危険だ。
重圧をかけるか弾き飛ばすか。それとも抑え込むか。何が最善手か頭を動かす。
しかし悠長に考えてる時間は無い。
零次は全てを知っている訳ではなかった。全員の実力を、相性を。何が起こるか誰にも解らない。ましてや命を懸けた戦場だ。ほんの小さなミスや油断が状況を変える切っ掛けへとなる。
先に動きがあったのはランの方だ。
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