欲望の被害者
零次達はついに辿り着いた。いくつもの死を重ね造られた道の果て、分厚い金属の扉が現れる。
監視カメラで厳重に警備された廊下を進み、彼らは広い部屋に到着した。
「ここは……」
零次は言葉を失う。彼の見た光景は男性達が収容されていた場所とは違う異質さがあった。
例えるなら動物園。ガラスケースで個体毎に分けられ見せ物のように並んでいる。それぞれには紹介文のようなプレートが付けられ、混ざっている生物種や年齢、身長と体重にスリーサイズまで書かれていのだ。
そして何よりおかしかったのは、そこに収容されている女性達は皆妙に露出の高い服装をしていた。中にはコスプレじみた格好のものもいる。
何となくだが察してきた。彼女達に何を求めているのか、何をさせているのかを。
「そうか。彼女達は商品なのか」
「ええ。スポンサーも工場にきては、好みのアンフォーギヴンで遊んでいきます。怪人を造る事すら金儲けにされていました」
彼女達の利用目的は出産だ。妊娠、出産に至るプロセスを知らない年齢ではない。だからこそ理解してしまった。ここでどれだけ非道なおこないがされていたのかを。
「スポンサー……成る程な。ノア、熱海勘助を捕らえるだけで終わりそうにないぞ」
「そうね、まぁ予想通りだけども。っと」
誰かが叫びながら周囲を押し退け走る。アンフォーギヴン達の中でも巨体なカニ型の男性だ。
「サクラ、サクラ!」
彼は一目散に一つのガラスの前に立つと、その自慢の鋏で一撃で破壊。中に入ると変身を解く。カニのような甲羅を全身に貼り付けたような太った中年男性だ。
そこには少女が一人監禁されていた。
「パパ……?」
「ああそうだ、パパが助けに来たぞ。もう大丈夫だからな。一緒に帰ろう」
「パパ、パパぁ!」
抱き合う親子、感動の再開と言っても良い。ただ一つ、零次と同じくらいの歳の少女の腹部が不自然に膨らんでいる事を覗けば。
彼女だけではない。この部屋には妊婦がちらほらと見える。そう、工場なのだから造られたモノがあって当然だ。ただし、それはたまりにも冒涜的で倫理に反してしる。
だが閉口して見ているだけで終わらせられない。彼の行動が切っ掛けとなり、一斉に救助活動を開始する。ガラスを破壊し、家族、恋人を探し始めた。その中にはランの姿もあった。おそらく義姉と姪のを探しているのだろう。
そして女性を呼ぶ声が、助けを求める声が響く。
「姉さん、何処にいるんだ!」
「誰か手を貸してくれ、頼む」
またも周囲が騒がしくなる。だが同時に喜ばしい光景でもあった。抱き合い涙を流し再会を喜び合う。自分の手で救いだす。彼らの望みなのだ。
だからこそこの場所が憎たらしい。
「工場……工場か。本当、腹立たしい場所だ」
「私もちょっと、これはえげつないわね。私も捕まってたらここにいたのかも」
女性だからこそ抱く嫌悪感は零次のものとは違うだろう。しかし彼女の目には苛立たしげに怒りの炎が灯っていた。
零次の視線は助け出された女性達、その腹に移る。
「……なぁ」
「なぁに?」
「彼女達の……その、子供はどうなるんだ? 中には俺達くらいの子もいるぞ」
「…………」
ノアは口を閉ざす。言い難い事なのだろうか、零次の顔色を伺うようだ。
「そうね、まず全員…………中には堕胎可能な人もいるでしょうけど、産んでもらう事になるわね。産みたくない人もいるでしょうけど」
「子供が必要なのか。アンフォーギヴンの末裔として」
「当たり前よ。アンフォーギヴンは種の存続が困難なんだから、こっちの人類との混血児が確実に増えるチャンスなの。もちろん実母が引き取るのが一番だけど、受け入れないのなら養子に出してもらいましょ。子供が望めない夫婦はごまんといるんだもの、引く手あまたよ」
「利用する気なのか?」
「なら胎児は全員殺すのが正しいの? 少なくとも子供に罪は無いわ」
「…………」
反論は出来なかった。ノアの子供を利用するような態度に不快感はあるも、アンフォーギヴンの現状や子供の命を考えると間違いとは言えない。
「じゃあ私は転移ゲートを開いて回収するから。……お兄ちゃんの気持ちも解るけど、私は上に立つ者としてアンフォーギヴン全体の事を考えないといけないの。それはお兄ちゃんもなんだからね」
「それも…………そうだな」
時には冷酷な判断、全体の利益を優先する割り切った思考も必要なのだろう。
零次は一休みするように周囲を眺める。そうしているとランがこちらにやって来た。
「……ノアは?」
「移送作業中。ランはどうしたんだ? たしか姪と義姉がいるだろ?」
「ああ……」
肋骨のような、無数の鎌を重ねたような剣を肩に担ぐ。
「とりあえずお義姉さんは助けて他の人に預けている。かなりボロボロだったから……」
「そうか。姪は?」
「いなかった。まぁ、ここにいるのって出産可能な女性達みたいだし、あの子はまだ十歳のはずだから。別の場所にいるのかも」
「成る程な……ん?」
足音が聞こえる。それも一人、二人なんてもんじゃない。かなりの人数、それも重く金属がぶつかり合うような足音だ。
「山崎、妙な足音が聞こえるんだが?」
「足音? ……まさか。そうだ、この足音は警備ロボットです。もう再起動させたのか」
山崎の予想通り、零次達が入って来た方向、廊下に並ぶ機械の兵士達が赤い眼光を放ちながら歩いて来る。
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