過ぎ去った時間
地下へと進む零次達。距離はそう離れておらず、彼らは直ぐに次の目的地へと到着した。
ここもまた先程の工場よりも異質な場所だった。別のベクトルでおぞましい空気を滲み出している。
「山崎、ここが飼育場か?」
「はい。ここで未成年のアンフォーギヴンを育成しています」
困惑しているのは零次だけではない。ノアもこの場所に顔をしかめる。
「えっと、私にはここが……そうね、生体実験場にしか見えないけど」
彼女の言う通り、飼育場の言葉からは牧場のようなモノを想像していた。しかしこれは違う。無数の液体で満たされたカプセルが並べられ、そこに裸の子供達が眠っていた。口元には呼吸用のマスク、頭には機械のヘルメットを被せられている。
「このカプセル、破壊しても問題無いか?」
「大丈夫です」
「よし、皆カプセルを破壊しろ。子供達を急いで運び出せ」
零次の呼び掛けにアンフォーギヴン達は救助活動を初めた。カプセルを破壊し中の液体が床を濡らす。頭部に着けられた機械を外し意識を戻させ運び出す。
ノアは外したヘルメットを拾い観察しながら山崎の方に来る。
「ねぇ、これって
「まさかこれが洗脳装置?」
ノアが頷き、山崎も続く。
「そうです。これで子供達を教育していました。特に男の子は怪人としての演技と我々への忠誠心を植え付け、今後も毘異崇党が存続するように」
「成る程な。怪人として動くようにね。ノア、この子達を正気に戻せるか? 例えばもう一度装置を着けるとか」
「脳をいじくり過ぎるのは危険ね。根気よく教育していくしか無いかな…………あ」
何かを思い出し探すように周囲を見回す。
「お兄ちゃん、ランは?」
「そういえばいないな。たぶん姪を探してるんじゃないか?」
「…………!」
ノアが走り出しランを探し始める。
並び立つカプセル達、中に眠る新生児から中学生くらいの子供達。年齢順に並べられてるようで、奥に進む度に人間の成長段階を見ているようだ。
救助の手よりも早くノアは走り零次も後に続く。そして部屋の奥に三つのカプセルが立てられている場所に出る。そこにランがいた。
彼女の前のカプセルの中身、その人影は他のものより一回り大きく零次と同年代に見えた。
「ラン、どうしたの。ここには……」
ノアは思わず足を止め、零次も息を飲む。
ランがじっと眺めているカプセル、そこに一人の少女が眠っていた。歳は高校生くらい、ランに負けず劣らずのバツグンのスタイルをしている。
流石に全裸な同年代の少女がいれば、目のやり所に困っていた。しかし零次はある事に気付く。
「あれ? 彼女、なんかランに似ているような……。それに高校生くらいの子がこんな所に?」
高校生以上の年齢のアンフォーギヴンは収容場や工場に監禁されているはず。しかしここの三人は何故かこの飼育場にいた。
「彼女達は今日カプセルから出される予定の子達ですね。肉体的にも充分と判断されると移動になるのですが…………ぐっ!?」
山崎が説明をし始めると、ランはいきなり彼の首を掴み片手で軽々と持ち上げた。
彼女の手は怒りに震え、今にでも山崎の首に握り潰してしまいそうな勢いだ。
「ちょ、ラン! どうしたのいきなり」
「…………お前ら、ミナに何をした? ミナは……」
大きく息を吸い叫んだ。
「あの子はまだ十歳のはずだ! どうして私と同年代にまで身体が大きくなっているんだ!」
山崎を投げ捨て剣を突き付ける。無数の刃の間に首を挟み、ほんの少しでも引けば彼の首が切り落とされてしまいそうだ。
零次は急いでランを止めようとする。
「落ち着けラン。他人じゃないのか? 確かにこの女の子はランに似ているような気もするが」
「姪の顔を見間違えるものか。右目の泣き黒子だってある」
「…………確かに。私も写真でなら見た事あるけど、顔立ちとかそっくりだわ」
ノアも彼女がランの姪だと判断した。しかしいくらランの体型を考えても身体の発育が良過ぎる。
山崎は苦しそうに息を整えながらもランから視線を反らさない。何かを決意しているように。
「その子、何年前に来たんだ?」
「……三年前」
「となると七歳の頃か。とりあえず離してくれ……勿論話すから」
ランが剣を離すと山崎はゆっくりと立ち上がる。
「…………私は、この計画に参加した時にある物を開発した。人間にも使える成長促進剤だ」
「成長促進剤? って事は彼女にも?」
「そうだ、全員に投与されている。人間と同じ速度で成長するアンフォーギヴンを円滑に利用する為にね。この薬と充分な栄養があれば通常の三倍の速度で成長する。だから彼女の肉体年齢は十六歳くらいだろう。そこまで成長したから、今日カプセルから出されスポンサーの相手をさせられる予定だった」
唖然とし言葉を失う。
人間と同じ成長速度なら、現状のペースで世界中にアンフォーギヴンを出していればいずれ生産が消費を上回るだろう。しかし成長速度を上げられれば、それだけ大量の怪人を用意するのが可能だ。
ランの声が震えている。
「……元に戻す事は?」
「不可能だ。時間を戻す術は……どこにも無い。だが投薬を止めれば、加齢速度は通常に戻る」
「そう…………か」
ガックリと肩を落とす。が、直ぐに顔を上げ剣を握りしめた。とにかく彼女を救出するのが先決だ。
「フン!」
剣を振るい一撃で粉砕。中の液体が零れ、浮かんでいたミナの身体が落ちる。
ランは急いで彼女の身体を支え、仮面を外し優しく抱き上げる。
「…………う……あ」
意識が戻りゆっくりと目を開ける。
「ミナちゃん、私が解る? ランお姉ちゃんだよ」
「……ら…………ん……お姉……ちゃん?」
虚ろな目に光が戻っていく。意識も回復していき目の前の人物、自分の叔母ランの姿を認識する。
「そうだよ。私が解るんだね……」
目に涙を浮かべ抱き締める。強く、痛々しい程に。
「ママ……パパは?」
「…………! そう……だね。ママの所に行こう。お姉ちゃんが連れてってあげるから」
もう父はいない。そんな事は口が裂けても言えない。ただ無事だった母親の所へ、それしか考えられずにいた。
悲しいのはランも同じ。しかし彼女は何かに気付き顔を上げる。地震のように、一瞬建物が僅かに震動したのだ。
「…………上の封鎖が破られた。そんな、あれを破壊するなんて」
「ちぃ、そうなったらあいつらが雪崩れ込むぞ。ノア、子供達の脱出を急げ。俺が迎撃に向かう」
「うん」
急いで零次とノアは走り出す。
嫌な予感がする。施設に震動が伝わるような破壊力を持つ武器が使われた事、そんな力がこちらに向かっている事。それが何を意味するのか瞬時に察する。
アンフォーギヴン達を掻き分け入り口へ、そこから一瞬だけ聞こえた足音に確信する。ロボットじゃない、もっと軽い足音に。
「全員伏せろ! 敵襲だ!」
零次は弓を構えユニットの鍵を押し込む。それと同時に扉の向こうから五人の声が聞こえた。
『Boost』
「「「「「ブレイヴァーキャノン!!!」」」」」
「シュート!!!」
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