異形の会談

 机に本棚、ベッドが一つの窓すら無い質素なフローリングの洋室。部屋の隅には木製の安楽椅子が置かれ、一人の少女が座っている。

 歳は十代前半から半ばくらい。おかっぱ頭の小柄な少女だ。モノクロの甚平に丈の短いミニスカートと風変わりな服装をしており、身体の至る所を金のアクセサリーで着飾っている。

 ここが彼女の部屋なのは一目瞭然。しかしそこに違和感があった。

 何故なら彼女は人間ではない。背中からは黒い四枚の翼を生やし、スカートからも尾羽が見える。正に鳥人間と言えるだろう。

 少女は椅子によりかかったまま手を耳に当てる。掌から赤い光の板が携帯電話のような型をとっていた。


「…………そう、お兄さんが。残念だけど憎しみに囚われないでね。本当の敵が誰なのか決して見誤らないで…………お願い」


 悲壮感のある暗い声で誰かと通話している。相手の兄、その訃報を話しているようだ。

 声色も暗く、相手をいたわるように気遣っているのがわかる。


「うん、うん。大丈夫、きっと私達がどうにかする。…………必ず見つけ出して償わせるから。ありがとう、期待しているからね」


 通話を切りため息を一つ。光の板は消え少女は天井を眺めていた。

 すると話し終えるのを待っていたかのようにベルの音が響く。


「…………もう、何なのよ」


 苛立たしげに指を鳴らし再び光の板を手元に浮かべる。それを撫でると板にスピーカーの絵が描かれた。


「何? 私今とっても機嫌悪いんだけど」


「お休みの所申し訳ございませんノア様。ですが緊急事態でして……。すぐに会議室へ来ていただけませんか?」


 焦っているのか、相手の男性の声が震えている。


「…………わかった。直ぐに行くから」


 再び通話を切り椅子から立ち上がる。壁に掛けられたマントと鳥の嘴の形をした冠をかぶった。そして部屋の出入口に備え付けられた機械を操作すると、扉が自動的に開き中は赤い光が渦巻いている。

 少女、ノアは躊躇い無くその渦に入って行く。その先は暗く広い部屋だった。中央には長方形の机が置かれ、既に十二人もの人々が集まっている。

 しかしそこにいたのもノアと同じく純然たる人間とは言い難い存在だった。

 腕がカニのような爪となっている者、ネコのような耳と尻尾を持つ者、下半身がヘビとなっている者。誰もが人間に他の生物を混ぜたような異形の集団だ。

 その中でカブトムシの角を生やした中年の男性が席を立ち一礼する。


「お待ちしておりましたノア様」


「前置きはいらない。早く要件を言って。あんたが急かすって事は相当の事でしょ?」


 ノアは上座に座り足を組む。彼女の風貌のせいか、妙に小生意気な空気を醸し出していた。

 どう見ても周りの者は彼女よりも歳上かつ威厳のある人物ばかり。そんな彼らが幼い少女そのものであるノアに頭を垂れる姿があまりにも異質だ。

 だが彼女は平然としており周りも上位の存在として従っている。彼女達にあるのは上司と部下、その関係だ。


「で? 何があったの?」


「はっ。では全員こちらをご覧下さい」


 カブトムシ男が手をかざすと全員の目の前に黄色い光の板が展開される。


「こちらは一時間前に地球にて掲載されたネットニュースです」


「ニュース? それがどうし……」


 そこに描かれたニュースを読んでいくノア。次第に彼女の顔色が変わっていき、周りも少しずつざわついていく。


「メガビート。これは本当なのか?」


「調査した結果、怪我の事以外は事実です。ノア様、これは朗報ですぞ」


 カブトムシ男、メガビートはニヤリと笑う。

 ノアも顔を伏せ肩を震わせる。必死に堪えようとしているが我慢の限界だ。


「フ……フフフ。フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


「ノア様、これは……」


 ノアの高笑いに釣られるように周囲も興奮している。期待に胸を膨らませ浮き足立っていた。


「杞憂だったとは、こんなにも馬鹿だったとはな。我々も地球も。だがこれならやれる! 我々アンフォーギブンの道が開かれた!」


「おお……まさか!?」


「ついにその時が来たのですね?」


 ノアが立ち上がり大きく深呼吸する。


「これは早くお爺様に伝えなければなるまい」


「陛下もお喜びでしょう」


「うむ。愚かな連中は本当の価値も知らず、我らの楔を己の手で引き抜いた。もう躊躇する理由も無い! さて、これより我らが祈願、回帰計画の再開を宣言する!」


 沸き上がる部下達。歓声が室内を満たす。


「我らの願い、我らの未来。今一度掴みとろう!」


 拍手喝采。全員が席を立ち喜びに震えていた。希望に満ちた光輝くような気分だろう。思い思いに今後の計画を話し始める。


「よし、早急に技術局に連絡してユニットのメンテナンスを依頼せねばなるまい」


「フフフ、実に愚かなり地球」


「それよりも出迎えの準備をだな……」


「ああ……ついにお目にかかれるのですね」


 そんな夢うつつな彼らをノアはにこやかに眺める。しかし次第に顔つきが険しくなっていき、大きく咳払いをした。

 すると全員が話しを止めノアの方へと振り向いた。


「皆嬉しいのは解る。私も同じだ。しかしまだを示してくれるかも不明なのだ。兎に角今は準備を進めなければならない」


 周りを見回せば、全員がノアの言葉に耳を傾けている。


「まずは監視等がいないか身辺調査だ。そして出迎えるメンバーも選定しなければな。焦らず順番に……な?」


 彼女は再びニュースに目を移す。

 アームズブラック引退。そう書かれているのを見る度に胸が踊るようだ。


「待っててね…………お兄ちゃん」

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