怪人となった日
静まり帰る現場。警戒し今にも攻撃を再開しようとするアームズブレイヴァーの面々。しかし零次に争う気は微塵も無い。
「武器を収めてほしい。私は争う気は無い」
「その証拠は? 俺達が変身を解除した瞬間、襲ってきてもおかしくない」
「ならそこで見ていろ。用があるのは……むしろ彼だ」
そう言ってアルマジロ怪人の方に向かって歩き出す。彼も一歩ずつ後退りながら震えていた。
「そのベルト、ユニットを捨てろ。そして祖父の下へ帰るんだ。こんな茶番劇で命を捨てはならない」
「……私は」
唇を噛みしめ俯く。彼が何を思っているのか、察してはいるも今すぐどうにか出来る問題ではない。ただ、ここで無駄に命を散らす方が見過ごせなかった。
彼は知らない。ここで命を懸けて息子を守っても無駄な事を。守った子もやがて同じ運命を辿る事を。
そんな話し合う二人の様子に瑠莉も混乱している。
「レッド、何なのあれ? 敵意が無いようにも見えるけど」
「…………」
優人は押し黙りじっと二人を見ていた。彼の表情はマスクで隠れており読めない。何を考えているのか、それを知る術は無かった。
しかし何故か瑠莉には優人が焦っているような、平常心が保たれていないような気がした。
「みんな、とにかくアルマジロ野郎は倒す。あの鳥男は……捕まえるんだ!」
「させるか」
彼の言葉を聞いた零次は速かった。アルマジロ怪人に向けて一瞬で距離を詰めたのだ。
「場所を変えよう」
腕を掴むと空高く跳躍。一瞬空中で静止したかと思うと、弾丸のようなスピードで飛び去ってしまいとても目で追えはしなかった。
「ホワイト、撃ち落とせ!」
「……ダメです、もう射程外に。なんてスピードなんでしょう」
「くそっ!」
悪態をつく優人を余所に、瑠莉は空を見上げながら違和感に胸がざわついていた。
何かがおかしい。この戦いに変化が起こるような、そんな予感があった。
零次は自分よりも重く大柄な人物を運びながら、異常な速度で空を飛ぶ。身体が真横に落下するようで奇妙な感覚だ。
町から離れ、人影が見えなくなる。そのまま零次は廃れた工場に突撃。天井を突き破り侵入する。
アルマジロ怪人……否、そう呼ぶのは彼に失礼だ。被害者である男は力強くで零次を振りほどくと、丸まって地面に落下する。幸い頑丈な鎧に守られて無傷のようだ。
零次は翼を羽ばたかせながら砂を飛ばし、ゆっくりと降り立つ。
「…………さて、貴方は監視されているのだったな、そのベルト……ワイルドユニットの紛い物から」
「わ、私は……」
彼は怯えている。零次にではない。彼をけしかけた人物にだ。
「貴方を助けに来た。だからもう一度言うそれを」
『ヴィランユニットだよ、レイヴン三世』
突如男のベルト、ヴィランユニットから声が聞こえた。恐らくボイスチェンジャーを使っているのだろう。機械のような無機質な声だった。
『やれやれ。三世……って事はあのカラスジジイの孫かな? 全く、以前から嗅ぎ回ったりちゃちな邪魔をしてきた事は知っていたが、今回は許せないな』
「貴様が黒幕か」
『黒幕だなんて人聞きの悪い。僕の事は監督と呼んでくれたまえ。最高のヒーロー番組の……ね』
反吐が出そうだ。こんな悪趣味な芝居は見たくない。そしてそれを仕組んだこいつらを絶対に許せない。
「外道が」
『化け物に言われる筋合いは無いかな。ただここに移動してくれたのは感謝しよう。アームズブレイヴァーの面々に聞かれたくないからね』
「化け物はお前だろ。聞いてるだけで腸が煮えくり返るよ、悪魔め」
『気色悪い怪物の分際でよく言うね。ああ、そうだ吾妻君』
男がびくりと身を震わせる。
『任務変更だ。本来はイエローのかませ犬になってもらう予定だったが、アンフォーギヴンの重役が来てくれたのはありがたい。彼を殺せ』
「!?」
『断ったらどうなるか解るだろ? 君のような化け物と結婚する異常性癖の女のように、息子がスムージーになってしまうよ。また君の目の前でミキサーにかけてやろうか?』
何を言っているのか理解してしまったのが嫌だった。この人物は彼の目の前で妻を殺したのだ。それも恐ろしく残酷な方法で。
「……も、申し訳ありません。私は……お、俺は息子を!」
「ああ。父親として正しいよ。だから止める」
目に涙を浮かべる彼に対抗するように拳を握り構える。争いは避けられないだろう。
(人質はいるが、ノアの話しなら
確信は無いが、このままやられる訳にはいかない。
彼を止めなければならない。それが出来るのは自分だ。
「悪辣な劇はここで終わらせる。俺が……幕引きだ」
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