第42話 リンクする事件

 一度部屋にノートパソコンを取りに帰り、そして今、優弥と一緒に大学の学食の一角にいた。人が多い場所の方が聞き耳を立てられなくていいとの判断だ。

「まあ、この中に夏輝が紛れ込んでいたら終わりだけどね」

「それを言ったら、安全な場所ってどこにもない気が」

「そうなる」

 優弥は肩を竦めると、理土のノートパソコンと蘭子の部屋から出てきた機械を接続する。接続するためのケーブルは優弥が自分の研究室から持って来ていた。

「おっ、やはりパソコンで読み込めるようになっているな。しかし、起動するためのコードは君の声になっている」

「へえ。じゃあ、もう一回呼び掛けると」

「データが出てくるはずだ」

「解りました。蘭子さん」

 理土が呼び掛けると、パソコンの画面が忙しなく動いた。いくつものウインドウが表示されては消える。それを何度か繰り返してから、文書ファイルが開かれた。

「ハイテクですね」

「科学者らしい発想というところだな」

 優弥もこんな方法を取るとはと、少し驚いているようだ。しかし、無事に蘭子の手掛かりを得ることが出来た。

「最初は、五年前の事件に関してだな。野崎君が独自に調べたもののようだ。やはり、弁財天と女性の関係を論点とし、美莉がいなくなった理由も、誰かの手籠めにされたのはと考察している」

「い、言い方、他になかったんでしょうか」

 手籠めって、まあ、強姦よりは穏やかな表現なのか。どちらも同じ意味だけど。

 しかし、そうなると美莉は悪漢に襲われて連れ去られたということか。それこそ、前回の事件で考えたような、どこかに監禁されているとか。

「確かに前回の事件とも絡めた方がいいのかもしれないな。とはいえ、前回の事件は――」

「同性間の恋愛トラブルでしたが、殺す直前に似たようなことはあったらしいと、長谷川さんから聞いてます」

 やることはやっておくって、そういうことだろう。いつの時代であろうと、どんな関係のカップルだろうと、そういう発想というのは本能に根差すせいかなくならない。性的な衝動ほど、抑えがたいものはないということか。

 この際だからと、理土は長谷川から聞かされた情報を総て優弥に伝えた。

「なるほど。つまりは示唆的な事件だったというわけか。そうなると、その被害者の吉田の態度が急激に変化したのも、夏輝が何か吹き込んだせいかもしれないな」

「ああ、他の誰かと関係があるとか。君は遊びだとか」

「そうそう。何といっても夏輝もなかなかの男前だからな。よく、俺たちも付き合っているのではないかと、周囲から好奇の目に晒されたもんだ。自分が付き合っていると嘘を吐くことも可能だろう。そこからさらに操るのは容易いだろうし。それは加害者の八木にしても同じだろう」

 そう推測しつつ、思わず遠い目をしている優弥だ。

 確かに女子たちが喜びそうな話題だなと、理土も同情してしまう。しかし、優弥と同じくらいのイケメンが一緒に並んでいたら、まあ、そういう想像もしちゃうよなと思わなくもない。

「君、今、失礼な発想をしただろう」

「い、いいえ」

 ぎろっと優弥に睨まれ、滅相もないと理土は全力で首を横に振る。が、それは肯定しているのと変わらず、優弥に盛大な溜め息を吐かせることになる。

「何もなかったからな」

「わ、解ってますよ。というか、安倍さんは美莉さんとお付き合いされていたんでしょ。疑う余地ないじゃないですか」

「ああ。とはいえ、どこまでの関係だったかは知らないけどね。美莉から告白したようだし、美莉はぐいぐいと押し通すタイプで、夏輝も断るのが面倒だったというところだ」

「そうなんですか?」

 意外だなと思ったが、蘭子の血縁関係だと思えば、あり得るかと思い直す。

 名前からの印象と神隠しでいなくなったという二点から、理土が勝手に儚げな女性をイメージしているに過ぎない。

「ううん。美人だったし、長い髪が特徴的な女性ではあるね。野崎君と違って背も高かったな」

「へえ。つまり、男性の目を惹くタイプってことですか?」

「まあね」

 そこでようやく、話が事件の話題に戻った。つまり、誰かが美莉を襲い、連れ去ったという可能性についてだ。

「ううん。それが真相として、どうして蘭子さんが」

「そこだ。ここで本当にただの悪漢だったのかという問題が出てくる」

「そうですね」

 もし上野で蘭子が何かを察知できたとすれば、それはすなわち人間の仕業ではないということになる。それに、現実問題として五年もの間、美莉の手掛かりは一切ない。

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