第13話 謎のイケメン!?
さて、事件だが、理土という胡散臭いだけの奴がいなくなったら警察は優秀なもので、すぐに犯人を検挙してきた。
犯人はダチョウの卵を食べる会の副会長を務めていた三年の、
電圧を調整するために投げ入れたのは、なんと二〇一九年のノーベル賞でも話題になったリチウムイオン電池だという。下流の浅瀬に流れ着いていた大量の電池に、島田の指紋がしっかりと残っていた。さらに自宅からは液化ヘリウムを保管するボンベまで出てきたというのだから、決定的だ。
ちなみにリチウムイオン電池でそれほど高電圧が確保できるのか。これに対して優弥は、近年問題になっている異常発熱を思い出せ、とアドバイスしてきたという。
リチウムイオン電池はその使い方を間違えたり、製作工程で不純物が入ったりすると、危険な電圧になるのだという。今回はそんな危ないケースの一つだったというわけだ。発見されたリチウムイオン電池は、外側が剥がされてかなり不安定な状態になっていたという。
「犯行方法は、超イケメンの男から聞いたらしい」
「へえ」
そう報告を受けて相槌を打つのは、なんと理土だ。報告しているのはもちろん長谷川。それは半年後のことではなく、三日後。予想よりも早すぎる。
「お前、ちゃんと藤木に報告しろよ」
「なんで俺?」
「他にいなかったんだよ。俺だって、お前の間抜け面なんてしばらく見たくなかった」
何という暴言。やはり、この刑事と和解することはないだろう。というか、どうして使いっパシリをさせられなければならないのか。非常に納得がいかない。
「いなかったって、出張でしょうかね」
「らしいな。メールしたら、今はアメリカだとかぬかしやがった。本当かどうか知らねえが、大学の中にいないのは確かだ」
「はあ」
あえてアメリカってことは、お前の報告なんて聞かねえぞという表れか。だとしても、ただのとばっちりである。
「そのイケメンなんだが」
「まだ続くんですか?」
「ああ。というか、こっちが重要だよ。学生同士の色恋沙汰の末の殺しなんて、別にどうでもいい」
「今、刑事として言っちゃ駄目なことを、さらっと言いましたね」
このポンコツ刑事と、声に出さずに罵っておく。そうしないと、自分にべったり貼られた役立たずの間抜けというレッテルが消えない気がする。
「あのな。普通ならばややこしくならずにすぐに終わる事件だった、って意味だ。実際、島田は殺すつもりはなかったと証言しているしな」
「はあ。っていうか佐藤って奴、浮気でもしてたんですか」
「ああ。五股だったらしい」
「凄いっすね」
「そうだな」
そんなに女性と付き合えるものなのか。というか、それって絶対に浮気がばれるだろ。殺されても仕方ないんじゃないか。そんな様々な思いが駆け巡るが、だから、こちらは事件の枝葉末節であるらしい。
「そうそう。その問題のイケメンこそ、藤木の謎の副業に繋がるんだからな。まあ、こっちとしては未解決事件が増えずに助かることだが、だからといって物理学者が民俗学やっていいのか。片手間とか言いつつ、あいつ、結構本業をサボっていると思うんだよね」
ここぞとばかりに長谷川は不満を吐き出した。はあ、そうですかと、理土は適当な相槌しか打てない。
「おい。お前もあいつの研究室に所属しているんだろ」
「まだですよ。来年、お世話になる予定です」
「そうなのか。まあ、いいじゃねえか。すでに奴のフィールドワークに巻き込まれたんだろ」
「ええ、まあ」
って、どうしてこの長谷川にまで言い包められなければならないのだろう。本当に理不尽だと思う。
「だったら、絶対に知っておくべきだ。いいか、自分が妖怪だと勘違いしている理系の馬鹿が一人いる」
「しかもイケメンなんですね」
「ああ。おかげで女の容疑者を大量に作ってくれるな。しかも、だ。男も心酔しやすいらしくて、こっちも多いってのが腹立つところだ。危険な奴ってのは、どうしてそう魅力的に映るのかねえ。刑事なんて煙たがれるだけなのに」
「はあ」
この人、すぐに話題が逸れるなあ。そう思ったが、要するに優弥が追い駆けている物理学者というのは、危険な香りのするイケメンだってことか。
うわあ、絶対に会いたくない。
というか、優弥も無駄にイケメンだよなあと、どうでもいいことも思ってしまう。
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