第20話 昭和レトロな喫茶店
「初めは警察署で会おうってことになってたんだが、人数が多いからな。喫茶店に変更になったよ」
というわけで、知人の刑事、
「町中を見ていても思いましたけど、過疎が進んでいるって感じですね」
車がその純喫茶の駐車場に停まるのを待ちつつ、理土は思わずそんな感想を漏らした。どこを見ても灰色の感じがする。そう思ってしまうほど、色んなものが古びて煤けているように見えた。駐車場にもう一台停まる自動車まで灰色なんて虚しい。
「こういう場所は多いよ。若者が減っている証拠だな」
それに対してフィールドワークであちこちに行く優弥は、珍しくないと断言した。それはそれで悲しい事実だ。先ほど車内でしていた、地方分権が進まない理由をまざまざと見せつけられる。
「さて、来てるかな」
長谷川は慣れた調子で喫茶店のドアを開けたが、理土は一人だったら絶対入れないなと思う佇まいの喫茶店だ。
まず、オープンしているのかどうかが解り難いし、さらに値段も不明だ。外にあるメニューだと思うポスターや食品サンプルは、日に焼けて退化し、何が何だか解らなくなっている。さらに周囲に蔦。もはやホラーだ。汚れた赤レンガの壁がまた、怖さを助長する。よりによって曇っているものだから、余計に怖い。
「何をもたもたしているんだ」
「す、すみません」
思わず
「わざわざすまねえな」
「いいよ。この謎の状況が解けるかもしれないんだったら、情報をリークするくらいは安いもんだ」
長谷川がそう挨拶を交わす、がっちりした体格の男性が知り合いの刑事の三輪だった。刑事ってみんな雰囲気が似てくるのだろうか。長谷川とどことなく似ている。
「で、そっちが」
「そうそう。この美形が言ってた変人大学准教授の藤木だ。横のちっこいのが助手の野崎、あの後ろでぼおっとしてるのは大学生の倉沢だ」
なんとも的確に特徴を掴んだ紹介をする長谷川だ。それに三輪は苦笑したが、よろしくと慣れた調子で挨拶をしてきた。類は友を呼ぶ。そんな言葉がふと浮かんでしまった。
「ま、座って。都会のスタバみたいに気の利いたメニューはないけどさ」
そう言って三輪は全員に席を勧め、さらにメニューを差し出してきた。確かに気の利いたメニューはないだろうが、久々に見たなというメニューに、思わずしっかり選んでしまう。
「じゃ、ウインナーコーヒーで」
「渋いな。他は」
理土がウインナーコーヒーを選び、蘭子はメロンソーダー、他はアイスコーヒーとなった。どこにいたのか、店の奥からのそっとおばあさんが出てきて、注文を紙に控えて再び奥に戻っていく。
やっぱり一人ではこの店には入れない。というか、あのおばあさんが出てきたところで驚いて、飛び出してしまいそうだ。
「で、今回の事件に、その安倍って男が絡んでいるかもしれないと。その場合だと、普通に捜索しても駄目だってことだったな」
「ああ」
協力を取り付けるにあたり、長谷川が予めあれこれと説明してくれていたようだ。三輪はどうなんですかと、すぐに優弥に確認する。
「ええ。間違いありません。今回の場合だと、神隠しのように偽装しているはずです。町中の、それも誰かの家にいるかもしれないという可能性は捨てた方がいい」
「なるほど。となると、山狩りですかねえ。とはいえ、ここは見てもらっても解る通り、四方を山に囲まれていましてね。山狩りをするのだとすれば、ある程度の当たりをつけないと」
「ええ。そのために、ここまで来ました」
優弥がそう言うと、三輪はほっとしたような顔をした。
「お願いします。なんせこの村で連続誘拐事件なんて、警察署始まって以来だと大騒ぎでしてね。というわけで、捜査本部は実に混沌としていまして」
「都会でも大騒ぎになるよ。となると、怪しい奴の家は捜索し終わったところというわけか」
「ああ。聞き込みとしてそれとなく探っただけだが、該当する場所はゼロだな。他にも廃墟になってるような場所は覗いてみたがなし」
だからお手上げなんだよと、三輪は盛大な溜め息だ。この事件が起こってから一週間。すでに打つ手が尽きたという感じがしていた。
「どうぞ」
そこに先ほどのおばあさんがコーヒーを運んできた。それがテーブルに並べられるのを待ってから、優弥がちょっといいですかと訊ねる。
「なんでしょう」
「私、こういうものなんですけど、この辺りに神隠しの伝承ってありませんか」
優弥はすかさず、何の専門か書かれていない大学の名刺を取り出して訊ねる。おそらく、聞き取り調査をしやすいように自前で用意しているやつだろう。そうでなければ理学部と印字されているはずだ。
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