第47話 スタートに戻る

「おそらくは。ただ、それだけだと長谷川が刺された理由が解らない」

「ああ、そうですね。背後からぐさっと男に刺されたって話でしたけど」

「男、か」

 それが引っ掛かるなと優弥は腕を組む。

 ひょっとして男じゃなくて大柄な女だったとでも考えているのか。

「いや、そうじゃない。ひょっとしてそいつが五年前の犯人ってことはないかって思ったんだよ」

「えっ」

 ここでまた五年前の事件に繋がるのか。それにびっくりしてしまう。

 しかし、夏輝も正確に五年前の事件を解かなければならないと言っていた。それはつまり、今回の事件に絶妙に絡み付いているということか。

「そういうことだな。上野を根城にする誰か。これを特定する必要があるみたいだな。そしてそれは、夏輝が追っていた龍に関係するはずだ」

「な、なるほど」

 総ては繋がっていたというわけで、しかも追い掛ける対象もスタートに戻ったというわけか。

 理土は大丈夫かなと思わず天井を睨んでいた。




「で、結局は裏切っていねえってことね」

「今のところは」

 翌朝。

 そのまま優弥の家に泊まった理土は、そのまま優弥とともに長谷川の元を訪れていた。

 昨日、最もショックを受けていたようなので、まだ大丈夫だろうという報告をするためだ。それと、夏輝がうろついているようなので、危険だと伝えるためでもある。

「危ないのはお前の方だろ。あっさりと家に侵入されているんだぞ」

「そ、そうですけど」

「しばらくは俺の家に泊まらせるから大丈夫だ。それもよりも、病院だからって安心しきるなよ」

 ぐぐっと詰まる理土と違い、優弥はこっちはちゃんとやっていると主張。そして、理土は今、この場でしばらく優弥の家に厄介になることが決定してしまう。

 優弥の家は一軒家で、しかも一人暮らしだ。理土一人が厄介になっても邪魔ではないのだろう。

 何でも両親は数年前からアメリカに移住してしまって、そのせいであの家に住んでいるのだとか。それまでは大学に近いアパートを借りていたのにと、これは昨日の夜、愚痴ついでに聞いた内容だ。

「で、五年前の犯人と俺を刺した犯人が同じかもしれないって。そんなのあるか?」

「まあ、完全に一致するかは別として、関係者であるのは間違いないだろうね」

「何だよ。また、訳の分からんことを言いよってからに」

 お前の話は毎回一度で理解できないんだよと、長谷川は悪態を吐く。しかし、その顔は昨日よりも格段に元気だ。にやっと笑って見せる余裕もある。

 が、自分を刺した犯人と五年前の犯人に繋がりがあると知り、複雑な気分であるようだ。

「そう。この繋がりがあるというのは、わざわざ夏輝が報せに来たことだ。ここを回避して考えることは無理なんだよ」

「なるほどねえ。で、お前に直接言うと刺される可能性があるから、この倉沢のところに行ったと」

「刺すわけないだろ」

「ふん。どうだか。意外とキレると怖いからな、お前」

 注意しろよと指摘され、優弥はむすっとしてしまう。

 ということは、過去にキレてヤバかったことがあるのか。恐ろしい情報をゲットしてしまった。

「それはともかく、犯人は男で間違いない」

「まあ、誘拐事件とも絡むわけだからな。前回みたいな特殊ケースじゃない限り」

「ああ。今回は弁財天というヒントもあるからな。間違いなく男だ」

「そうなのか?」

「まあね」

 そこで優弥は、問題はこの先だと顎を擦った。もしヒントを素直に考えて、神話時代のことを絡めて考えるとなると、犯人は非常にややこしい人物だということになってしまう。

「ふうん。どうしてだ」

「それを解説すると本が一冊書き上がるほどだ。要約して言うと、弁財天として今伝わる神様はその昔、貴人の相手を務める女性だったということだ」

「ああ。めかけみたいな」

「そういう解釈で間違いない」

「なるほどねえ。それじゃあ、男しかあり得ねえか」

 長谷川は複雑だねえと、剃れないせいで伸びてしまった髭をじょりじょりと撫でた。ということは、連れ去られた美莉の運命は推して知るべしだ。

「そういうことになる。そしてそれこそ、夏輝が妖怪になるという決意を固めた理由だろう」

「はっ? そんなことも繋がるのか」

「もちろんだ。現在、妖怪として伝わる多くのものは、かつて虐げられた人々である場合が多い。河童にしろ鬼にしろ、一本だたらにしろね。彼らは朝廷から、要するに権力者から睨まれる存在だったんだ。逆らう者は人ではない。これが権力者の理論だよ」

「へえ。そういうものなのか。まあ、妙に人間臭いよなって思うことはあったが」

 長谷川はそう言って感心しているが、理土なんかは目から鱗の事実だった。

 だって、妖怪は妖怪ではないのか。人間は尻子玉なんて狙わないし。まあ、尻子玉が何なのかも知らないけれども。

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