第35話 真相は?
「警戒心を抱かれずに連れ去れるって点では、人気者であるのは有利だよな。ちょっと声を掛けて、付き合ってくれって言うだけでいい」
「はあ。で、動機は?」
「本命は最初にいなくなった男子生徒だったらしい。が、やらかしてからヤバいと思い、隠すために、自分によく付き纏っていた女子生徒を殺したそうだ」
「ええっと」
「ま、端的に言えばゲイだったんだよ、その先生。これがまあ藤木みたいにイケメンでね。俺は三輪に思わず三回も聞き返したほどだ。女の方じゃねえのかって。が、違った。
何でもまあ吉田って生徒とそれなりに恋仲となっていたようだが、思春期の男の心なんて秋の空もびっくりなほど変わりやすい。晴れていたかと思えば次の日には台風みたいなもんでさ。
急に八木を嫌悪するようになり、さらにこれ以上付き纏うならばゲイだって学校中に知らせてやると、こう脅してきたそうだ。で、まあ、その日は話し合いをしようとしただけだったらしいが、あれこれあって殺しちまったらしい」
「あ、あれこれ」
「そこはほら、詳しく聞かない方が身のためってやつ」
「――」
ふと、優弥との会話を思い出し、ぶるっと震えてしまう理土だ。男同士だからって性的に安全とは限らないというやつか。ちょっとは身体を鍛えておいたほうがいいのかもしれない。
「まあ、犯人も腹立っての行動だからな。やることはやっちまった方がってなってるよな」
「結局言ってるじゃないですか」
「詳しくは言ってないだろうが」
理土の指摘に、長谷川はにやりと笑う。この男、理土が具体的に考えているのを見抜いて言ってきたのだ。やっぱり性質が悪い。
「ま、そういうこと。で、死体をどうしようかと悩んでいる時に、ある男に会ったらしい」
「あ、ある男」
「そう、安倍だ。そのイケメンの八木をもってしてもイケメンと言わせていた」
「はあ」
どうして、変人って無駄にイケメンなんだろう。
理土はそこが最も疑問だ。今後、芸能人以外のイケメンを見たら、あまねく色々と疑ってしまいそうになる。
「死体を隠したいならば、神隠しに見せかければいい。すでに自分がある程度の下調べをしてあるから、お前は指定された場所に隠すだけでいいと言われたそうだ。ついでにあれこれバレたくないのならば、女子生徒も殺せと助言してきたらしい。最低だよな」
「ええ」
それはもう色々と。
理土は激しく頷いた。
しかし、未だ安倍夏輝に関してイケメンであることと、優弥の大学の同期であることしか解っていないのだが。せめて顔写真くらいはないのか。
「顔写真ねえ。これが一枚もないんだよ」
「マジですか」
「ああ。なんせ変人藤木の上を行く変人だ。妖怪絡みのことを調べていただけあって、写真に姿を撮られることを極端に嫌っていたらしいぞ。ほら、昔の人は写真を撮ると魂を取られるって信じていた、みたいな。
藤木に言わせるとちょっと違うらしいんだが、まあ、写真は残ってないな。高校を特定して卒アルを見るってくらいの手しかないが、それだと人相が変わっている場合があるしな」
変わる奴は丸っと変わるからなあと、長谷川は実感を込めてしみじみと言った。おそらく刑事として、そういう場面によく出会うのだろう。
まあ、理土だってよくニュースで卒アルの犯人の写真を見せられて何の意味があるのかと疑問に思う。三十過ぎの男の十代の写真なんて、本当に意味がないと思う。
「そうそう。もうおっさんだからな。藤木を見ていると忘れそうになるけど」
「ああ。藤木先生は芸能人と同じく、あんまり年を取ってるって印象がないですもんねえ」
「そうだろ。羨ましいような羨ましくないような。ま、安倍も似た系統のようだがね」
「へえ」
だったら卒アルも役に立つのではと思うが、とはいえ、やはり優弥だってしっかり大人であるという印象は受けるので、違って見えることだろう。高校生と成人では、やはり体格や顔つきが違うものだ。
「まあ、そういうわけで、安倍の人相に関しては諦めろ。取り敢えずイケメンを見つけたら警戒しておけ」
「ラジャー」
「で、事件の方だが、八木はあそこの祠に神隠しの伝承があることはおろか、あそこに死体を隠しに行くまで、祠があったことすら知らなかったらしい。それもそのはずで、八木は高校教師としてここに赴任するまでは隣の県に住んでいたという。
だから、真っ先に神隠しを疑った藤木の立場は、今回のように最初から警察が関わっていなければ、かなり怪しい状況だったってわけだ」
「な、なるほど。あえて藤木先生をおびき寄せるために」
「そう。どうやら安倍は、藤木の周囲に関して完全に知っているわけではないようだな。俺をさらっと無視してくれているし」
「ですね。でも、俺には目を付けた」
「そりゃあ、理学部物理学科の学生を調べればいいだけだろ。元から人数はそれほど多くないって、藤木から聞いているぞ。そっから絞り込むくらいの手間暇は掛けるだろうよ。あちこちで、犯罪者の後ろに現れられるくらいなんだから」
「ああ。でもそれなら尚のこと、どうして長谷川さんに無関心なんでしょうか」
「さあねえ。奴の興味を惹かないだろうよ。警察なんていくらでも誤魔化せるって思っているみてえだし」
腹が立つと、ここでようやく頼んでいたコーヒーを呷った長谷川だ。ホットコーヒーは当然のようにぬるくなっている。
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