第34話 発見
「まだ何とも言えないな。ともかく、祠に向かおう」
優弥は断定を避け、三輪に先導してくれと頼んだ。
「解りました。長谷川、危険があってはいけない。後ろを頼む」
「おう」
こうして刑事二人に挟まれての移動が始まった。
とはいえ、祠はすぐそこだという。その言葉通り、五分ほど木々の間を進むとこじんまりとした社ともいえる祠があった。ちゃんと木造の小さな建物があり、格子戸の上には注連縄もあった。だが、その注連縄は何年も替えられていないのだろう。随分とくすんでいる。
まるで町と同じだ。時間がどこかで止まってしまっている。
「この様子からして、三輪さん達が遊んでいた頃は、まだ手入れをする人もいたというところのようですね」
「ああ。そう言えば、花が活けてあることもありましたね。となると、神隠しを知る世代の誰かでしょうか」
「そうでしょうね。ここを神隠しの神様が棲む場所と仮定するためには、詳しく知っている必要がある。寺が町中に移ってからも、それなりに信仰されていたのでしょう。年齢によって車を運転しなくなったのか、歩いて山を登れなくなったのか、ともかく、この祠の世話は途絶えたというところでしょう。さて」
問題は祠ではなく、神隠しとして消えてしまった高校生だ。周囲をぐるりと回ってみるが、誰かがいる様子はない。
「あっ」
しかし、祠の裏でとんでもないものを見つけてしまった。それは掘り返された跡だ。理土の声に他のメンバーもその跡を見つけ、そして押し黙る。
「ともかく、応援だ」
「ああ」
長谷川の指示に、三輪は沈痛な面持ちで頷くのだった。
結果から言うと、あの掘り返された下から行方不明になった二人が死体となって発見された。
そこからはもう大騒ぎだ。当然、神隠し云々なんて言っている暇はなくなった。優弥たちは詳しく聞かれては面倒と、三輪に後のことを任せてさっさと退散する羽目になった。後はP県警に任せるしかない。それが一番だった。
「で、犯人はやっぱり二人の高校の先生だったよ」
「だから、どうして俺に報告するんですか」
一週間後。
理土は長谷川に捕まり、ただいま学食で向き合っている。三時という中途半端な時間だが、学食の中はそれなりに混んでおり、遅めの昼食を食べている学生や、理土たちのようにコーヒーを呑気に啜っている連中もいる。
「解るだろ。あいつが聞くと思うか。それに、今回は安倍の野郎が自ら呼んでおいて、事件の結末は死体を発見しただけだぞ。藤木が、それをどう考えているのか。聞くまでもない。また、犯人にされそうになったってことだ。となると、事件に関してこれ以上の情報は受け取らねえな」
「――そ、そうなんですか」
「そうだよ。今回はスタートから俺が関わっていたし、向こうに知り合いがいたからそんな事態は回避されている。だが、万が一警察がいない状態で神隠しを捜索し、さらに遺体を発見なんて状況になってみろ。犯人かどうかは別として、確実に警察の厄介になる。なんせ、犯人しか知りようのない死体の隠し場所を特定しているんだからな」
「そう、ですね」
すでに身をもって体験している理土は、何とも言えない苦い気持ちになった。どうして、夏輝は優弥を嵌めるようなことをしたのか。それが解らない。
「思うに、目障りなんじゃないか」
「目障り?」
「そう。つまり、安倍が考えていた以上に藤木は優秀ってことだろうな。物理学しかしていなかったはずの男が、あっさり自分と同じ考え方を手に入れた。このままでは邪魔になる。そう思っているのかもしれねえ。だから、お前を使って動かし、危機に陥れようとしたのかもしれん。
が、そうなると俺が関わっていることを奴は知らねえってことか。ま、無理もない。俺も安倍を直接知るわけじゃねえし、変人藤木に友人がいるなんて、俺だって想像できない話だ」
「な、何気に辛辣ですね」
友達なんですよねと聞きたくなる意見だ。
だが、確かに優弥にたくさん友人がいるとは想像できない。同級生、つまり大学の同期と仲が良かったというのはすんなり理解できるとして、高校の頃から付き合っている友達がいるとは、なかなか想像できないところである。長谷川のように文系出身の友人がいるなんて、なおのこと想像できないだろう。
「そういうこった。って、お前だって十分に酷いことを言っているぞ」
「うっ。まあ、ともかく、真っ先に藤木先生が疑われるほど、事件は混迷していたってことですよね」
「そうだよ。だってな、藤木の予想したとおり、二人を殺した犯人、
「なっ」
確かに嫌われているか人気者かのどちらか。そういう推測は聞いていたが、まさか人気者の方だったとは。
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