第26話 ミッシングリンク

「ここの神隠しについてだが」

「は、はい」

 さて、海鮮料理を堪能し、もはやホテルが不気味だなんて気にならなくなった頃。

 すでにベッドで寝る長谷川を無視して、優弥は理土にそんなことを言い出した。どうやら情報を整理したいらしい。

 しかしそれ、夕飯でお腹いっぱいになった後にやるべきことだろうか。もう寝てしまって、翌朝やればいいのではないか。

 相槌を打ったものの、何とも微妙な気分になってしまう。

「ここの神様は、かなり怖いイメージで語られることが多かったようだな。まあ、多くの場合、こういう伝承は子どもに注意を促すために用いられるから、それは仕方ないんだろうが」

「ああ。そうですね。夕方に歩いていると山の神様に攫われて食べられちゃう、みたいなのもありましたもんね」

「そうだな。どこかで鬼のイメージが混ざっているようだが、神というのも生贄を求める性質があるから、元になった伝承はどちらなのか。気になる」

「はあ。つまり、鬼の話が先にあっていつの間にか神様にすり替わった場合か、元から神様は生贄を求めるタイプで、それが神隠しとなったかってことですか」

「そうだ。素晴らしい理解力だよ」

「ありがとうございます」

 褒められたので礼を述べたが、こんなことで褒められても意味がないよな、と思わなくもない。理土はあくまで優弥から量子力学を学びたいわけで、妖怪について学びたいわけではない。

「それはともかく、今回の事件にこの神隠しの伝承が関わっているのは間違いないだろう。問題は、どうしてそんな事件を起こしたのか、だ」

「安倍さんが唆した理由ってことですね」

「ああ。奴だって何もないのに事件を起こせるわけがない。つまり、それなりの土壌があってこそだ。前回の君が巻き込まれた事件だって、彼氏の浮気を懲らしめたいという動機がなければ成立しない」

「ああ。脅かしたかったって奴ですか。確かに目の前で炎が上がれば驚きますもんね」

「そういうこと」

 なるほどねえと納得してみたが、不思議な炎のせいで見惚れてしまい、その後犯人扱いされた理土としては複雑だ。どうやらそれは理土が優弥たちに関わるように仕向けるためものだったらしいが、だからって酷い話だ。

「つまり、高校生が連れ去られるような原因がすでにあった」

「ああ。被害者二人は同じ高校に通っていたというのも、おそらく関係があるんだろう」

「なるほど」

 妖怪を語っていたはずなのに普通に事件の話に戻れるところが凄いなと、理土は感心してしまう。しかし、高校か。イジメでもあったのだろうか。

「ううん。イジメだとすれば、二人が連れ去られた事件で解りそうなものだ。犯人は同じ高校生になるんだから」

「ああ、そうか。それに高校生が高校生を隠すって難しそうですもんね」

「そうだ。そして、今回は二人を山のどこかに隠しているはずで」

「車が運転できないと無理だと」

「そうだ」

 さらっと条件が絞り込めてしまったことに驚きつつ、なるほど、こういうのをミッシングリンクというのかと、理土は納得。つまり、この事件には神隠しを絡めて考えないと、永遠に答えに辿り着けないようになっているのだ。

「ああ。単純に発想していると、怪しい奴の犯行という漠然とした情報しか得られなくなるからな。まっ、ここまで解れば後は警察に任せてもよさそうだが、一応は度の場所かの特定には協力しないとな」

 優弥はそう言うと、まだ何か納得できないように腕を組んだ。もう事件はほぼ解けたようなものではないのか。

「確かに事件としては大分すっきりしていると思う。しかし、わざわざ夏輝はこの事件と五年前の事件をリンクさせようとしている。それが納得できなくてね」

「はあ」

 その五年前の事件について詳しく知らない理土は、曖昧な返事しか出来ない。夏輝の名前をなかなか聞き出せなかったように、ここにも厚い壁があるように思えていた。

「五年前、未だに解決されていないその行方不明事件の被害者はね、俺たちの同期だった。そして、夏輝と付き合っていた」

 しかし、優弥はまだカーテンの開いている窓を見つめて語り始める。ここまで巻き込んでおいて黙っているのはおかしい。そう判断してのことだ。

「同期、ですか」

「ああ。大学院でともに切磋琢磨する仲でもあった。彼女の名前は小林美莉こばやしみりといって、野崎君のいとこにあたる女性だ」

「えっ」

 まさかの蘭子にまで関わる人だったとは。いや、車の中で見せた寂しそうな顔を思い出し、それでかと納得する。

「そう。彼女が手助けしてくれているのは、俺に付き合っていれば美莉の情報が入るかもしれないって思っているからだ。それと、ちょっと特殊でね」

「特殊」

「ああ。まあ、それは後で説明するよ。ともかく、俺と夏輝、そして美莉の三人はよくつるんでいたんだよ。そして、事件は唐突に起きた」

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