第5話 真面目に検証

「じっと炎を見ていたからだろうね。よく放火犯は炎を見つめているものみたいだし」

 運転している優弥がそんなことを指摘してくる。

 くそっ、どう足掻いても理土には不利にしかならないらしい。

 そうしている間にも順調に車は進み、問題のキャンプ地へと到着した。大学から約一時間半で着くという立地条件のため、うちの大学生はよくお世話になっている場所だ。今日もあんな事件があったというのに、いや、あんな事件があったからか、大学生のグループがキャンプしていた。

「やっぱり九月となると、山の中は涼しいですね」

 後部座席から飛び降りた蘭子は、背を伸ばしながら山の空気を肺一杯に吸い込んでいる。その姿はやっぱり可愛らしい。

 それに九月とはいえ、青空が広がり爽やかな空気が満たされていて、絶好のキャンプ日和となっていた。あんなことがあったものの、理土も何故かワクワクとしてしまう。

「事件があったのは一か月前だったっけ」

「はい。前期試験が終わった後に、キャンプするから来ないかって誘われて」

「ふむ。で、ここでダチョウの卵は食べたのか」

「いいえ。普通にバーベキューでしたよ」

「ほう」

 そこ、サークル名に拘ってないのかと、優弥はちょっと残念そうな顔をする。が、理土はどうして山の中でダチョウの卵を食べるという発想になるんだと、そっちが疑問だった。わざわざ山の中でバカでかい卵を食う必要なんてどこにもない。それは暇人であろうと同じだ。

「まあ、ともかく、川の近くに行ってみましょう」

 あまり乗り気ではないはずの蘭子がそう言い、テントを張る場所を確保してから、先に川の様子を見に行くこととなった。前回は川の近くにテントを張れたものの、今は事件があったので封鎖されているためだ。

「ふむ。一般的な河原だね」

 そして、河原にて。優弥は特に何かおかしいところはないなと言いつつ、土を採取したり何かを測定したりと余念がない。何もないんじゃないのかとツッコミたくなるほど真剣だ。

「見た目に何ら差異がないからといって、ここに何もないと結論付けるのは早計だからな。ちゃんと測定はするよ」

「へえ」

「感心していないで手伝ってくれ。この試験管三本に川の水を入れて」

「了解です」

 試験管ってところがただの妖怪調査じゃないな、そう思いつつも理土は言われたとおりに川の水を汲みに行った。その途中、この辺が燃えていたんだよなと周囲を見渡すが、やはり、燃えそうなものは見当たらなかった。ごつごつとした石が落ちているばかりで、全く燃えそうにない。河原の向こう側には森林が広がっているものの、川からは距離があった。

「磁気に異常はないな。放射線量も自然界に存在している量としては普通。やはり、人為的トリックだろうな。土の中にリンが多く含んでいれば怪火の可能性も出てくるが、継続して燃えていたという点を説明するには至らないだろうし」

「かなり理詰めなんですね」

 こう、妖怪研究家というと、妖怪が出るというだけで盛り上がり、勝手にわいわいと妖怪の姿を思い浮かべるものではないのか。

「それはただの愛好家だな。研究していない」

「そ、そうですか」

「それに、俺は怪異と科学の境界線ははっきりとさせておきたいんでね。多くはトリックだと説明できるものだし」

「へ、へえ」

 ますます解らないなと、理土は首を捻るしかない。しかし、真面目に検証してくれるならば理土としては文句がない。さらさらと流れる川は見た感じ綺麗だが、生物は棲んでいないのか、魚なんかの姿はない。ざぶっと手を突っ込んで川の水を汲んでみると、ちょっと濁っていた。

「土が入ったんだろう。もう一本は慎重にな」

「はい」

 一本目はこのままでいいと受け取ってしまうところも、何だか意外な感じだ。しかし、どういう風に分析しているのか。全く解らないので指示通りにやるだけだ。

「あ、本当だ。上の方だけを掬うと透明」

「当然だ。こんな山奥の水が汚れているのとなると、別の問題が発生してくる」

「で、ですよね」

 環境問題に発展するかと、理土は納得。もう一本も慎重に水を掬い取って、ようやく採取が終わった。

「が、生き物がいないのは気になるな。ふむ。なるほどね。さて、後は夜になる前にキャンプの準備だな」

「はい」

「野崎君。何か見つかったか」

 そこで周囲を勝手気ままに歩いていた蘭子に問い掛けると、

「異常なし。でも、充電池が落ちていたわ」

 という報告があった。その蘭子も優弥のように何やらしゃがみ込んで何かを見ている。一体何を見ているのだろう。

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