第6話 イメージが崩れる

 それにしても、一応、文句を言いつつもちゃんと調査しているらしい。これもまた不思議なところだ。

「ま、彼女は特殊だから」

「へえ」

 何がというのは、怖いので追及しないでおいた。勝手に秘密を聞き出して、後から蘭子に蹴られるのも嫌だ。

 こうして河原では特に何の発見もなく、理土は二度目のキャンプを、何故か優弥たちと行うことになる。

「火が出たのは夜だからな。夜までいなければ意味がないだろう。そこから大学に戻るのは面倒臭い」

 というのがキャンプの理由だが、優弥がアウトドアをするというのに驚かされる。いや、妖怪研究をやってるというのも驚くが、インドア派のイメージがあるし、見た目からはそういう印象を受ける。

「確かに、大学生まではインドア派だったね」

「あ、やっぱり」

 テントを立てながらその点を確認すると、あっさりと認めてくれる。

 ということは、妖怪研究を始めてからアウトドアもするようになったということか。しかもテントを張る手早さから、慣れているのが解る。

「そうだな。それまでは興味はあるものの、深入りするもんじゃなかったってこともある」

「えっ」

「さ、次だ次」

 今、何か凄く意味深なことを言っていたぞ。そう思ったものの、逃げるように優弥が蘭子の元に行ってしまったので聞けなかった。しかし、こうやってアウトドアまでして妖怪を研究するのは、何か理由があるらしい。それだけは確かだ。

 だから、理土の話も聞いてくれ、こうやって検証してくれるのだろう。残された理土は、まだ固定されていなかった部分を固定しながら、何があったのかと興味が湧いてしまった。

「あれか。物理学者なのに妖怪に取り憑かれた」

「取り憑かれたんじゃないわ。あいつは飲まれたの」

「うわっ」

 テントを固定していた理土の独り言に答える声があって、思い切り驚いてしまった。見ると蘭子がじどっと睨んでいる。

「えっと」

「深入りしないでね。それだけ」

「は、はあ」

 急襲されて忠告されてもと、理土は興味がより増したのだが、蘭子の睨む目が真剣で曖昧な返事しか出来なかった。

「危険よ。今回のことも、一枚噛んでいるのかも」

「えっ」

 しかも、さらに興味をそそられることを言ってくれる。その人、一体何者なんだ。しかし、その質問は口からは出て来なかった。じっと睨む蘭子と、その背後で心配そうな顔をしながら見ている優弥に気づいたら、聞けなかった。

「晩御飯、手伝って」

「あっ、はい」

 そこで会話は打ち切られ、晩御飯の手伝いに呼ばれた。どうやら、優弥は自分が迂闊な発言をしたことに気づき、代わりに蘭子を送り込んできたらしい。いやはや、この二人の関係も気になるところだ。どう考えても、ただの共同研究をしている研究室の准教授と大学院生の関係ではない。

「うわっ」

 しかし、食事の準備を先に始めていた優弥の手に持っているものに、理土は驚かされることになる。それは巨大な卵だ。ひょっとしなくても、それは明らかにダチョウの卵。それを持って来ていたから、さっきダチョウの卵を食べたのかと訊いてきたのか。

「食べたんだろうと思って手配したんだが」

「はあ。俺、まだ一度も食ったことないんですよね」

「ほう。ならばいい。俺もない」

「ですよね」

 こうしてサークル活動では一度も食べたことのないダチョウの卵を、何故か関係のない優弥たちとキャンプ場にて食すことになった。他の食材は普通のバーベキューで使うものだ。

 炭に火を起こすのは優弥がやることになり、理土と蘭子は食材を切る係となる。恐ろしいことに、食材を切って持ってくるという発想はなかったらしい。クーラーボックスには新鮮な野菜がごろごろと入っていた。肉だってでかい塊のままだ。これ、何人前なのだろう。明らかに三人前より多い。

「キャベツと玉ねぎ、それにピーマンを切って」

「はい」

「私はその間にトウモロコシを茹でるわ」

「了解です」

 しかし、その状態に蘭子は疑問もないようで、慣れた様子で指示を出してくる。どうやら、優弥のキャンプはこれが定番スタイルのようだ。

「そのまんま持って来るか」

「長期戦になった時のためよ」

「あ、ああ。調査だから」

「そっ」

 その謎はあっさり解明してしまった。つまり、これは一泊分の量ではない。そして、野菜を切って来なかったのは、数日に亘った場合に鮮度が落ちないようにするためというわけか。肉に関しては、塊で買った方が安かったというところだろうか。

「はあ。悉く藤木優弥のイメージが崩れていくなあ」

 手早くキャベツを食べやすい大きさに切りつつ、もっとお堅い物理学者かと思っていたのにと溜め息を吐く。もしくは貴公子とのあだ名に則した感じの、クールな人だとばかり思っていた。

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