第16話 挑戦状
「しかし、機が熟したとして、どうしてこんなややこしいことをやっているんだ。それに」
優弥はそこまで言って、胡散臭そうに封書に手を伸ばした。そして、理土に断りを入れることなく開けてしまう。
まあ、宛名こそ理土だが明らかに優弥に来たものなので文句を言う必要はない。
「ん? 新聞記事だな」
最初に出てきたものを見て、長谷川が意外そうな顔をする。しかし、優弥の目は先ほどまでとは打って変わって真剣だった。
「どうしたんですか?」
「神隠しだ」
「えっ?」
「その事件が、か」
優弥の呟きに、理土と長谷川は何とか物を躱して優弥の持つ新聞記事を見た。それによるとP県のとある町で行方不明者が出ているのだという。それも二件連続だったということで、家出でも事故でもなく、事件に関係しているのではないかと警察は捜査を始めているとのことだ。
「P県か。ここから離れているが刑事課に知り合いがいる。ちょっと確認してみよう」
長谷川はすぐにスマホを取り出すと、P県で刑事をする知り合いに連絡を取った。こういう時、友人が警察官だというのは役立つなと、理土は素直に思った。
しかし、行方不明事件が神隠しだと、どうして優弥は思ったのだろう。しかも、この事件は誘拐事件ではなく行方不明であるらしい。
「詳しい内容についても入っているな」
優弥が新聞の切り抜き記事を理土に渡し、封筒の中を確認すると、他にもA4サイズの紙が三枚入っていた。一枚目は被害者二人について、二枚目はP県の地図、そして三枚目には古い新聞のコピーだった。それほど大きな記事ではないものが二つくっ付けてコピーされている。
「それって」
「五年前の事件だ」
「えっ」
日付が解らない記事だというのに、優弥はすぐに五年前だと断定した。その記事を見てみると、こちらも行方不明者がいるという報道記事だった。しかも不可解な状況での行方不明で、警察は事件と事故の両面から捜査していると書かれている。
「なるほど。これは、挑戦状だ」
「えっ」
「挑戦状だと。安倍からのか」
「ああ」
いつの間にか電話を終えた長谷川の問いに、優弥は重々しく頷いた。そして、電話の結果はどうだったのかと訊く。
「確かに少しばかり五年前に似ているな。最初にいなくなったのは吉田類。どっかの酒場にいる有名人と一緒の名前だが高校生だ。予備校からの帰り道にいなくなったという。最初は夜間徘徊か友人の家に泊まり込んでいるんだろうと思っていた両親だが、翌朝、高校から来ていないとの連絡を受けて拙いと気づいたらしい。今時の親にしては珍しく、子どもの判断に任せるタイプだったから騒ぎ出すのが遅かったってことみたいだな。
当初、警察は事故に巻き込まれた可能性があると捜査していたようだが、翌日、同じ高校の杉山真白という女の子が行方不明になっていると両親から通報があった。こうなると、俄然事件の臭いがしてくる。誘拐目的ならばすぐに両親に連絡がありそうだが、犯人が望んでいるのが身代金とは限らない。いつ殺人事件に発展するか解らないと、捜査本部が気合を入れて捜査しているところだという」
「発生から何日経っているんだ?」
「すでに一週間。警察が捜査していること、高校の周りを重点的に巡回していることもあってか、三件目は発生していない。ただ、おかげで手掛かりもゼロだ。まだ死体として出てきていないが、時間の問題ではないかと悲観的だ。
ただ、警察はどうして男子と女子なのか。ここが引っ掛かるみたいだけれどもな。こういうのって、性癖が絡んでいる場合が多いだろ。その場合は、どっちかに限られそうなもんだと首を捻っているらしい。もしくは、すぐに死体として出てきそうなものだとな」
長谷川の説明に、うわあと思ってしまう理土だ。それってあれだ。性的な目的で誘拐し、その後、用済みとばかりに殺すつもりじゃないかと疑っているということだ。もしくは人を傷つけることが目的で誘拐し、そして用済みになった死体は捨てるみたいな。どっちにしろ、最悪の場合しか思いつかないものだろう。
男女どちらかだったらというのは、ひょっとしたら、行方不明だった女の人が、何年かしてから犯人の自宅で発見されるみたいな、そういう場合も想定しているのだろう。しかし、その場合は殺されていないものの、返してくれる気はないってことで、事件としてはややこしいだろう。
どのみち、警察は非常に困っているわけだ。身代金目当ての誘拐ではないというだけで、最悪の想定しか出て来ないのだから、頭を抱えたくなる。が、どういう場合であっても決定打に欠ける状況でもあるというわけで、どうやって犯人を絞り出すんだとなっているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます