レシピ31 ネガティブ錬金術師とレシーバー
『えー、それもう気にしてなかったじゃない。それにこないだココルアクの雪解け水転送してあげたじゃない』
人の人生にデバフかけといて、妖精は全く悪びれずに胸を張った。
そんでもってココルアクの雪解け水って名前だったのか、あのキレイな水。
確かにあの水は生活に錬成に食事にと重宝してる。
「でも、そもそも性格的に合わない。
妖精の呪いは思ったより効果あるし、スキル化してレベルアップまでして困ってんだ」
『え、スキル化したの?』
シルヴェールが詳しく話を聞く気になったみたいで、作業机の上の小瓶に腰かけた。
『どんな風に? いつから??』
「どんな風にって……」
説明するのが面倒だし、この世界の常識と自分の知識では食い違う事が多いから、上手く伝わる自信が無い。見てもらうのが一番だ。
「シルヴェールは【鑑定】スキル持ってないの?」
『無いわね~』
「じゃあコレ使おう」
そう言ってオレは鑑定石を取り出して、詐称ネックレスを付けずにそのまま手で覆う。
表示されたステータス画面をシルヴェールが興味深そうに見てる。
『面白いスキルばっかりね~。軟弱!ウケる!!』
そこ見せたい訳じゃ無いから!的確に人の嫌な部分刺激してくるなコイツ!
『ほうほう! パッシブスキル化してるコレね。
これは何?【女子力】って』
「知らない。友達に商人には女子力が必要だって講義受けたら付いてた」
『サブスキルかな』
「サブスキル?」
初めて聞く言葉だ。
『メインのスキルに付随する形で効果が表れるスキルの事よ。
例えば魔法で言うと、氷魔法には水魔法が付随するわ。水を操る力がアップすれば、それだけ氷を操る力も強くなるし、逆もしかり』
なるほど。つまり男にモテる【
『スキルは色々あるからね。お互いに効果を出すのも沢山あるよ』
あ、そう言えば
「オレは【マナ
無意識にマナを使っていたので、錬成がすごくやり易くて効能が上昇する事もこないだ分かった。
『そうね。正直マナを操作できるスキルなんて聞いた事無いけど、それが出来るなら錬金術もやり易いでしょう。あとコレも見た事無いけど』
シルヴェールが指差したのは、クレーヴェルも見た事無いと言っていた【深淵思考】だ。
『【並列思考】ってスキルはあるのよ。同時にいくつもの思考を可能にするスキル』
へぇ、便利そうだけどオレには向かなそうだな。
『あとは【演算】とか【思考加速】。早く考えて行動に移せるのね』
もしかしたら元の世界での暗算名人とかめっちゃ頭良い人とか、こういうスキル持ちだったのかもしれないなと思いながら、シルヴェールの話を聞く。
クレーヴェルの方が物腰柔らかで賢そうだが、何て言うか世俗に興味が無いのか、こういう話はあまり聞けない。その点シルヴェールは趣味が創作魔法と言うだけあって、見た目に反して研究者気質の様で嬉々として喋っている。
『前に「深く考えるのは錬金術師に向いてる」って言ったじゃない?』
ああ、あの褒め言葉じゃなかったやつ。
『あれ本当にそうだからさ、【深淵思考】って【錬金術】のサブスキルなんじゃない?』
「え」
スキルって≪特殊能力≫くらいの意味かと思ってたけど、≪性格≫とか≪考え方≫も入るの?
『【深淵思考】で考えた色々な可能性を【マナ|操作(コントロール)】で【錬金術】に反映出来るって事で、3つセットなんじゃないかな』
「なるほど、スキルのレベルが上がると、サブスキルが付いたりもするんだな」
それで【
オレが感心していると、シルヴェールは目を丸くして羽をばたつかせて飛んだ。
『は? いや、聞いてた?今の話! そんな簡単に付かないってば!』
あれ?そういう話じゃなかったっけ?
『トモヤは色々規格外ね~。異世界人って皆そうなのかしら?』
「シルヴェールは今まで異世界人に会った事無いの?」
長生きしてるのに。
『話には聞いた事くらいはあるけど、会った事は無いわね』
そうなのか。クレーヴェルの口ぶりだと、ちょいちょいいるのかと思ったけど、そうでも無い様だ。
もう少し異世界人の事を聞こうとしたその時
ビ―――――!ビ―――――!ビ―――――!
突然けたたましいサイレンが鳴り響いた。
『何事ですか!!?』
オレもシルヴェールも驚いたが、別の部屋にいたクレーヴェルまで飛んできた。
『シルヴェール!? またお前か!』
『違う違う! 濡れ衣よ! 私も何なのか分からないの!!』
シルヴェールを見るや否や犯人認定をしているが、シルヴェールはずっとオレと話していたから違う事は分かっている。
こっちの世界では聞いた事が無い様な警告音みたいな…………あ。
「これだ」
オレが作業机の引き出しから取り出した物に、視線が集まる。
『何ですか、それ』
緑色した手のひらサイズの平たい物。
「冒険者ギルドで渡されたんだ。出してる依頼が達成されたら教えてくれるんだって言ってた」
どうやって知らせるんだろうと思ったら、こんな爆音が鳴るとは思わなかった。ここが町外れだったから良い物を、ご近所迷惑甚だしいぞ。
こうやって音で知らせるってフードコートのレシーバーを思い出すな。
それにしても、音ってどうなんだろう。こうして離れた場所でも鳴るって事は、何かしらの電波をキャッチ出来る仕組みではあるみたいだ。確かに光るだけじゃ見てないと意味無いし、小さい音じゃ聞き逃す事もあるからな。
元の世界だったらメールか電話だよな。こっちの世界だと皆が文字を読み書き出来る訳じゃないから、メールは無理かな。
それなら音は音楽にして、色が変わるとか……
『人間のギルドではこういうのが配られてるのね。1つの魔石を分けて反応させてるのかしら』
「そんな事出来るんだ」
なるほど、受信系じゃなくて追随反応か。
『ちょっと中見せてよ』
「そうだな、オレも見たい」
そう言って工具箱を取り出し、蓋を開ける。シルヴェールの言うとおり、魔石が入っているが他の部品も色々ある。ゴーグルを装着して【鑑定】モードに切り替えて、部品を1つずつ鑑定していく。
「この部分がさっきの騒音を出してた所みたいだ」
『ふむふむ、でもちょっとうるさすぎよね』
「シルヴェールもそう思う? すぐに気付いて良いけど、気分は良くないよね。もっと気持ち良い音楽とか流せば良いのに」
『それ良い! この魔石で反応の仕組みは出来てるから、ココだけ変えちゃお!』
「いや、でも表面上も分かる様に変えたいな。色が変わるとか」
『なるほど、音を聞き逃しても分かる様にしとくのね。この材質って何かしら?』
【鑑定】アイ発動。
「んーと、″シガンキの木″と"カネーリ石"みたい」
カネーリ石って鑑定石作った時も使ったな。
『カネーリ石なら水系の魔力流すと変色するわよ』
おお、じゃあ魔石が反応したら水系魔力を流す装置を一緒に入れれば良いのか。
創作魔法が趣味のシルヴェールの力を借りれば、鬼に金棒だった。
オレ達は陽が沈むまでに目的の物を作り上げた。
「出来た! これで送信側の魔石から力を送られれば、緑から赤に変色して30秒音楽が流れる!」
『私の魅惑の妖精ソングがね!』
音源も楽器も無いので、即席でシルヴェールに歌ってもらった。確かに妖精にふさわしい美しい歌声だったが、自分で言っては台無しだ。残念妖精とはシルヴェールの為の言葉だな。
しかし心地よい達成感と疲労感、そして空腹がオレを包む。
「無事完成したし、ご飯にしよっか。
手伝ってくれたから今日はシルヴェールも食べて行って良いよ」
『言われなくても食べて行くわよー!』
そんな満ち足りたオレ達に、ずっと気配消してたのかって位空気だったクレーヴェルが一言で空気を凍らせた。
『それでその、ギルドからの貸し出し品はどうするんですか?』
『「あ」』
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