レシピ39 ネガティブ錬金術師と時空魔法

 夜遅くに帰宅した後、すぐに着替えて眠りについた。

 目が覚めると、既に薬の効能は切れていて、太陽の位置もいつもより高め。クレーヴェルも起こさずそっとしておいてくれたらしい。

諸々の出来事に脳の処理が追いつきそうにないので、ひとまず全てうっちゃって腹を満たす事にしよう。

そう思って階段を降りて1階のキッチンに行くと、なぜかお馴染みになっている妖精が勝手にハチミツティーを飲んでいた。


『おそよう、トモヤ~。

どうしたの? そんな好きな子の家にお泊りしかけて前より仲良くはなれた感じではあるけど、方向性が違う上に別の面倒事が大きくなったみたいな顔をして』

「見てたのかお前」


『なにが?』

 監視されていたのかと思ったが、落ち着けオレ。

相手は恋愛魔法なんぞ作る恋愛脳妖精だ。適当におもしろそうな出来事思い浮かべて言ってるだけだ。その面白そうな出来事の当事者のオレって……。

『マスター、既に昼近いですが、何か食べられますか?』

 クレーヴェルが出してくれた助け舟に乗って頷く。と言っても、作るのはオレだけど。

クレーヴェルも料理をしようと思えば出来ない訳ではないが、食材集めの時と同じく味に興味が無いため、何と言うか、腹が膨れれば良いでしょう?って食事なのだ。

まぁこちらの世界に来てから、欲しい物は自分で作るしかない状況にも慣れたし、錬金スキルのおかげか料理も結構楽に出来たりするから良いんだけど。


 キッチンの棚からパンを取り出して切って、竈にライターで火を付けてフライパンを熱してから、卵とベーコンを入れる。

もう1つのコンロで鍋に切った野菜と調味料を入れて簡単なスープを作る。

ああ、味噌汁が食べたいなぁ。ジャンクフードは大好きだけど、無性に和食が食べたくなる事がある。やっぱり故郷の味って懐かしい物なんだなと思う。でも発酵庫は作ったものの、味噌も醤油もすごく時間が掛かるんだよな、確か。この世界で探そうにも、オレの行動範囲が狭すぎて限界があるし、数年はお預けかぁ。

 ため息交じりに固いパンをスープに浸してから口に入れた。量をあまり作らなかったのは、昨日は色々ありすぎて食欲もイマイチだったからだ。


『ねぇねぇ、アレどうだった? レシーバー? 怒られた?』

「あ」

 後半の衝撃で前半の出来事を忘れ掛けていたが、そう言えばシルヴェールと改造してしまったレシーバーを返したのも昨日だ。

「いや、何かお金出して買い取ってくれた」

『え、そうなの? ラッキーじゃない』 

『ラッキーとかいう問題じゃないでしょう。もう少し考えて行動してください、2人とも』

 クレーヴェルのお小言を聞き流しつつベーコンに齧り付いて思い出す。

そう言えば……


「何かシルヴェールの歌で、痛みが和らいだらしいんだけど」

 あのけたたましい音の代わりに簡易的に入れたシルヴェールの歌。

それが流れた事により、傷だらけの冒険者や片頭痛持ちのイーサンさんが痛みが無くなったって騒いでた。

『そりゃそうでしょう。あの時歌ったのは《やすらぎの歌》だったもの』

 そういうのがあるらしい。

妖精の特殊スキルって事か?納得しかけるオレに、クレーヴェルが待ったをかける。

『いや、おかしいだろう。実際聴いた訳ではなく、マスターが作ったロクオンキでしたっけ? それに記録した歌でしょう? それで効果は出ないでしょう』

 ん?

『そう言えば、そうね。あれ? なんでだろ?』

 妖精と精霊が揃って首を傾げる事が、オレが分かる訳無いので朝昼兼用ごはんを食べ終わる事に専念する。てゆーか


「色々考えながら作ったから、また付与アイテムになったんじゃないの?」

 今までの事を考えると、それしかないのだが。

『っ! た、確かにその可能性は……』

『え、ちょっと待って、それすごくない? トモヤって付与魔導具作り放題なの?』

「そう言う訳じゃないけど、今回のとかは後で妖精の歌を入れたその効果が発動しただけだから、オレはあんまり関係無いよ」

 オレが何も無い所から《やすらぎの歌》の効果を付け加えた訳じゃなくて、あくまでシルヴェールの歌が付与されただけなんだから。

『いやいや! 十分すごいわよ! 妖精の歌の効果がアイテムで得られるとか!』

『そうです! 魔石に魔法を封じ込めるのとは訳が違いますよ!?』

 ちっこいの2人がえらく興奮して圧倒される。


 今まで作った物で言うと、シルヴェールに協力してもらった水道とかも似た様な構造だったと思うけど。それを言うと、2人は首を振る。

『魔石は元々魔力の籠った石だもの』

『マスターはあのロクオンキを作るのに魔石は用いていませんし、妖精の歌は魔法とはまた別のモノですから』

「魔石は最初から入ってたじゃん」

『それはレシーバーの連動用魔石でしょう?』

 うーん、よく分からん。

 魔力とマナもちょっと違うらしいし、マナは世界中にある生体エネルギーの波動なんだっけ?だからそこかしこに漂っているみたいなイメージだった。そういったチカラを留めて必要な時だけ使おうと思ったらやっぱり、循環させておくんだろうとは考えていたので、マナ操作コントロールでそれが実現したのだろう。マナは全てに通じるのだから、魔法もスキルも関係なかったのかな。

 そうだ、魔法。


「あのさ、それより魔法について聞きたいんだけど」

 昨日マリエルに触りだけ教えてもらって、オレにも使えたりするかなーと思ったのだ。

『それよりって……これは相当大事な話なんですが……』

『まぁそれは後々研究していけばいっか~。

 それに魔法の事なら! この世界一の魔法使い妖精シルヴェールちゃんにおまかせよ!』

 渋るクレーヴェルを押しのけて、シルヴェールがハジケてる。

「人間の魔法使いの子に聞いたんだけどさ、普通の魔法が陣と呪文と自分の魔力で発動するって」

『そうね』

「それで精霊魔法は、世界のマナと同化して力を使うって」

『あら、人間の子が精霊魔法について知ってたの? 珍しいわね』

 マリエルは世界最高峰の魔法学校に通ってるらしいし、勉強家だからな!オレは自分の事じゃ無いけど、ちょっと誇らしい気になった。

「マナ|操作(コントロール)の使えるオレだったら、精霊魔法使えたりしないかな?」

 オレの隠しきれない期待を含んだ疑問に、妖精と精霊は目を何度か瞬いた後に顔を見合わせた。

『…………』

『…………』

「…………無理な感じか……」

 一瞬で悟ったオレに、クレーヴェルが慌てて言葉を重ねた。

『いえ、違います! 可能性は無い訳じゃないんです!』

『ただ精霊魔法って、マナだけの問題じゃないからね~』

 それって無理って事なんじゃないか……。どうせオレみたいなミトコンドリアは、異世界に来ても魔法ひとつ使えないよ。時空の渦に巻き込まれた時に体に付いたマナの力使うだけで精いっぱいだよ……。


『マスター! まだ無理と決まった訳じゃありません!

 毛布に行かない!せめて食事の片付けと歯を磨いてから……いや、話を聞いてください!』

 はしごに足をかけ作業室に行こうとするオレをクレーヴェルが引っ張って留めようとする。言う事がいちいちオカン臭い精霊だ。

『精霊魔法に限らず、魔法には適性がいるんです! それが無いとどんなに魔力があってもその魔法は使えないんです』

 適正?

『魔法の属性は主に五属性に分かれます。それぞれの属性に魔法があって、適性が無ければその属性の魔法は使えません』

 火なら火の属性が無いと陣と呪文を使っても発動しないって事?

「五種って?主にって?」

『火・水・木・土・風、の5つですね。この五つの属性はお互いに相乗効果があったり弱まったりします。

 主に、と言うのは五属性を組み合わせて出来る属性や、それにまったく属さない”無”属性の魔法もあったりするからです』

 ふうん?組み合わせ次第で可能性無限大とか、絵の具みたいだ。


『適性属性を調べる魔法、私使えるわよ?』

 シルヴェールの申し出にオレは飛びついたが、クレーヴェルは渋顔で『今回はやけにノリ気ですね、マスター』を呟いていた。

いや別に!魔法使ってみたいとか、魔法が使える様になったらマリエルに近付けるかもとか全然思ってねーし!?


 シルヴェールが呪文を唱えて出したのは、空中に浮かぶ水だった。円形に広がって浮いてる水がどんどん大きくなって、洗面器位の大きさになった。

『この水に指を浸けて……うん、もういいわ』

 実は酸性で指がジュッといかないかと一瞬身構えたがそんな事は無く、ものの3秒で引き上げて良いと言われた。

 それからまた、シルヴェールが何か呪文を唱えると水が揺れ出した。

『ここに出てくる色の種類で、属性が分かるの。赤なら火属性、青なら水属性ね』

「属性がいくつかあったら?」

『属性の分だけ色が出てまだらになるわ』

 なるほど、色が多ければ多いほど属性が多いのか。ドキドキしながら水面を見つめる。……見つめる。……………………見つめる。


 水面は、無色透明のまま渦を巻いている。


「…………これ、いつまで待てば良いの?」

 まさか。まさか…………いや、期待なんてしてなかったけど…………

『……10秒もすれば終わるわ』


 もう経ってる!!!!!!


 はい!魔法使える可能性終了!!!!異世界色ゼロ!!!!!!



 こんな時まっさきに慰めてくれるクレーヴェルも何も言わない。あまりの事に言葉を失っているのか。そもそも魔力はあるのに魔法使えないとか、何だよそのステータス。バグじゃねーか。

こっちが落ち込んでいるのに、シルヴェールはいつまでも現実を見せつけるかの様に水面を消してくれない。

「……もうそれいいよシルヴェール……オレもっかい寝るから適当に帰っといて……」


 オレが寝室に向かおうとすると、またしてもクレーヴェルがオレの襟を引っ張った。ぐえ。何だよもう!落ち込んでるんだから食器位片付けてくれても良いじゃないか!融通の利かないオカンだな!違った、融通の利かない精霊だな!

『と……トモヤすごい! これすっごいわよ!! ちゃんと見て!!!』

『マスターおめでとうございます! 魔法が使えますよ!!』

「はぇ?」


 ちゃんと見ろと言われても、オレには何の色も見えない。最初にシルヴェールが出した無色透明のままの水面だ。

「透明だから、適性なしって事だろ?」

『ちゃんと見てよ! ただの透明じゃないでしょ、右回りに渦が巻いてる!!』

「…………だから?」

 どう見ても、指を入れた事による波紋かシルヴェールが揺らしてるからじゃないか。相変わらず色は無い。


『無色は無属性で、右回りに渦巻くのは【時空魔法】の適正です』


「時空魔法?」


 オレは首を傾げた。

 時空の溝に落ちたオレに何か関係してるのかな?そもそも時空。とは?


『すごいわよ! 時空魔法の適正持ちなんてそういないもの! その上人間! レア! 超レアよトモヤ!!』

『確かに、聞いた事がありませんね、人間の時空魔法使いなんて』

 いや、マナ操作コントロールの時もそんな事言ってなかったか?

「それって何が出来るの?」

『主に時間の操作ですね』

 操作……止めたり戻したり進めたりって事?

『まぁそうだけど、それに追随する全ての物を動かさないといけないから、すごい魔力と思考力がいるって聞いた事あるわ』

 確かに、時間を自由自在に出来たらもはや何でもアリだもんな。という事は、時間を動かす範囲を狭めればどうにかなる…………ハッ!味噌としょうゆ!!!


 オレは弾かれた様に冷暗所にある保温庫に駆け寄った。

「クレーヴェル! 精霊魔法の使い方教えて!!」

 オレの突然の行動に驚きながらも、勢いに押されてクレーヴェルが答えてくれた。

『対象の属性の存在を意識して、世界にあるそれに身を委ねる形で、効果をイメージするんです』

 オレの場合は精神体じゃないし、【マナ操作コントロール】があるから、とにかく【時間】の存在を意識して進めるイメージをすれば良いかな?

 この発酵保温庫の中の時間だけを進める。時間、時間……時計の針が回るイメージで……あとはえっと、空気中の成分の発酵と変化……………………


「……ぶはっ!」

 息を止めていたつもりはないのに、息苦しさと共に頭がクラクラする。何だコレ。酸欠?

『魔力切れです! もう止めてください!』

 クレーヴェルに言われて気付く。これが魔力切れか。あ、魔力が切れたって事は、魔法を使えたって事だよな?

フラフラの体で保温庫を開けると、そこには見覚えのある色と匂いを醸し出す物体が…………


「やった―――――――――――!!!!」



 夕飯は味噌汁だ!!!!




『『……そういう使い方で良いの(んですか)?』』






名前:アイハラ トモヤ

年齢:14

職業:錬金術師・商人

身体:軟弱・健康

資格:商人(駆け出し) 


スキル:妖精の魅了ピクシーチャームLv2

    マナ操作コントロールLv2

    錬金術Lv3

    深淵思考Lv2(↑)

    女子力Lv1

    時空魔法Lv1(NEW)


固有スキル:マナの手



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