レシピ14 ネガティブ錬金術師とキレイな水

 行き詰まった。


 あれから4日間、文献を調べて構想を練って試してみたが、どうにも思った様にいかない。鑑識石を使った眼鏡を試しに作ってみたが、やっぱり掛けた瞬間に視界を覆い尽くす情報の多さに倒れそうになった。てゆーか前が見えなかった。


 どうにも何かが足りない気がする。

それと貯蔵庫の食料がそろそろヤバい。量的な事ではなく、品質的な問題だ。

クレーヴェル曰く、この世界にも季節の変わり目はあるみたいで、今は春くらいの陽気だ。床下の貯蔵庫はちょっとひんやりする位だが、やはり限界がある。肉も変色し掛かってるし、野菜もしおっとしてしまってきている。


 気分転換を兼ねて、冷蔵庫でも作ろう。



「たしかこの本に……あった」


 本棚の大量の本の中から、緑の表紙の本を取り出す。生活雑貨などの作り方が多く載っている本だ。

その中に確か、完全密封の箱の作り方が載っていた。これに冷気を通せば冷蔵庫の仕組みとしてはオッケーだろう。冷気を発生させる科学的なアレコレを考えなくても、この世界には魔法や不思議アイテムが沢山だから楽で良い。


二重底の形式にして、下に冷気を発する冷却石を敷き詰めて、設置したファンを回して箱中に冷気を行き渡す。ファンを回すのは磁石を金属の渦に入れた物だ。中学の理科で発電の基礎と習った気がする。多分。合ってる。まぁ回ったから合っていたとしよう。


 ん?ちょっと待てよ。これで適温に保てれば”発酵”も出来たりする?

オレは小さめの保管庫を複数作った。これで熱を発する鉱石の数を変えて、色んな温度を試してみよう。


 あとはそうだ。水道……水の安定供給の手段が欲しいな。

今現在の水の取得方法は、クレーヴェルの魔法か町の井戸からのくみ上げだ。

それも人がいない時間を見計らってこっそりだし、そもそも井戸水のくみ上げは重労働で、家まで運ぶのも大変で毎回そんな量も手に入れられず、出来るだけ節水している。

 出来れば水道が欲しい。蛇口を捻れば即水とか、本当に現代社会は便利だったなと遠い目になった。


どうにかキレイな水をこの家まで持って来れないか……。

水道を通すにしても、井戸からだと町の人にバレる可能性が高い。

そうなると口の達者なおばちゃん連中に水泥棒とか言われて、町中の人から石を投げられるかもしれない。

この世で一番怖い人種は、おばちゃんだと、オレは知っている。


『ヤッホー☆ 遊びに来たよ、トモヤ~』

「来たな、悪の妖精」


 大体2~3日に1回、昼時になると、この暇の権化である陽気な妖精がオレやクレーヴェルの作業のジャマにやってくる。

どれだけ暇なのか。そして友達がいないのか。……いけない、これはブーメランだ。


『何よぉ、こんなに可憐な妖精が遊びに来てやってるのよ? 普通はもてなすでしょ?』


 確かに妖精は珍しかったしキレイだが、こう頻繁に来られると慣れるし、ノリが軽すぎて有難みにも欠ける。

おまけにこちとら妙な呪いまで掛けられているのだ。歓迎する道理が無い。


『ちょっとちょっと! 私本当にすごい妖精なのよ!? 魔法力だって右に出る者無しってやつなんだから!!』


「魔法ならクレーヴェルだって使うし……精霊なんだから精霊魔法も使えるし」

『精霊ほど精霊魔法は使えないけどさ! 私自分で魔法作ったりもする、魔法研究家でもあるのよ!? その筋ではかなり有名だったりするんだから!!』


 魔法を作る……?


「それって、どんな効果のものかって自分で考えたの作れるって事?」


『おっ、やっと興味持ったわね! ふふん、そうだよ~、古今東西ありとあらゆる魔法を極めた私でこそ出来るんだからっ』

 シルヴェールはその可憐な顔が見えない位ふんぞり返った。心の底から残念な妖精だと思う。

「じゃあさ、遠くにある物を転移させるのを持続させる魔法とか使える?」


『転移魔法の持続? んー……持続は魔力供給が必要だけど…………出来るわよ』


「本当!?」


 うわあマジか!!

すごい!ファンタジーすごい!妖精すごい!テンションだけで余計な事しかしない存在だと思っててゴメン!!


『何か不条理な賞賛を受けた気がする……』

 気のせい気のせい!

「それよりさ、シルヴェール、オレやりたい事があるんだ」


 水の転移について説明すると、シルヴェールは「水なんて魔法で出せばいいじゃない」と不思議顔だ。これだから天才は。

オレは魔法が使えないし、クレーヴェルにたびたび頼むのも悪いじゃないか。

それに魔法で出す水って……そもそもキレイなのか?という疑問も残る。飲食に使う時は必ず1回煮沸消毒してたけどさ。


 魔力の提供については、魔力を”貯めて”おく装置をオレが作った。

魔力を循環させて消費せずにそこに留まらせる仕組みだ。それを水を受け取る装置の傍に設置し、必要な時だけ魔力を流す。


『水は町の井戸から転送すれば良いの?』

「うーん、それでも良いんだけど、どうせならキレイな水が欲しいな。

 シルヴェール知らない? キレイな水が出る所」

『キレイな水ね……知ってるけど、かなり遠い場所にあるのよね』

「遠すぎると出来ないの?」

『……っ! 出来ますけど!!?』


 おお、何か勝手に自爆してくれた。分かりやすい妖精だ。

人間と付き合うよりよっぽど楽かもしれない。



 早速転移魔法で目印を設置に行ったシルヴェールの帰りを待つ間、準備する。


最初に設置してあったこちら側の受信側の装置が何だか淡く光ったので、クレーヴェル協力の元、魔力を流してみると、水が出た。

すごい!シルヴェールは自信満々だったが、いざ出ると感動するな。


しかもこの水、すごく冷たくて透明度が高い。試しに一口飲んでみると、ただの水のはずなのにすごく美味しかった。 

良い料理には良い水が使われるとは聞いた事があるが、これは本当に料理の味が格段に上がりそうだ。


 早速、先ほど用意していた果実をすり潰した物と蜂蜜を共に鍋で火にかけ混ぜ、粉末の粉を入れる。あとは冷やすだけなので、桶に張った水の中に浸けて冷やした後に冷蔵庫もどきに入れた。水に余裕があるとこんな事も出来ちゃうぜー!


近いうちにお風呂も入りたいなぁ。ずっと体を拭くだけだったから、日本人としてとても恋しい。



 それから1時間ほどして、シルヴェールが疲れた顔をして現れた。


「シルヴェールおつかれ。水出たよ」

『当たり前じゃない! あ~~~もう本当に遠かった。疲れた~~~~』

『くだらない事にばかり魔法を使っているから、鈍ったんじゃないのか?』

 クレーヴェルってシルヴェールに何か冷たい。

ちなみにクレーヴェルはオレ達の相談の間は魔法を使って家の掃除をしていた。


「お礼って程じゃないけど、その水でゼリー作ったから食べよう」


 冷蔵庫からプルルンと冷えた赤透明のおやつを出す。うん、ちゃんと固まってるな。ゼラチンも成功したみたいだ。


『ほあっ!? 何それ何それ!? かわいい! 冷え冷え!?』

「ゼリーっていうオレのいた世界では一般的なおやつ。ベイルの実で作ったから、ちょっと酸っぱいかも」


 クレーヴェルも人型になって食卓に着く。食べ物を摂取する必要性は無いのだが、味に興味があるらしい。


「うわ、うま……」

『めっちゃ美味しい! やばいコレ! トモヤこれでお店開けるよ!?』

『本当ですね! マスターは料理の才能も有ったんですね!』


 いや、ゼリーで店は開けないだろう……。と思ったが、これは確かに美味い。ベイルの実はクランベリーとかよりちょっと酸っぱくて、甘みが少ないのでどうなるかと思ったが、甘さは控えめだが美味しい。

しかしこの美味さは水の力だ。お水すごい。そして妖精万歳。


 そうか、材料にばかり目を奪われていたが、過程や中和剤の様な普段気にしていない当たり前の物に目を向けるのも大事かもしれない。


 うん、良い気分転換になった。明日こそは鑑識アイテムを完成させるぞ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る