レシピ45 ネガティブ錬金術師とボールペン
イタイイタイイタイ!
ボールペンを見るのに集中しすぎて、手首変な方に曲げられてる!!
「あ……すまない。それを少し見せてもらって良いか?」
オレが涙目でもがいてるのに、ようやく気付いたイーサンさんが手を離して、今更静かに問いかけてきた。
もちろん手首より大事なボールペンではないので、快くお渡しした。
「軸部分は木製ですけど、中は変わった素材ですね。この部分は……」
「そこを押すとペン先が出てきます」
「! これは……アシェラ、何か書く物を」
「ここに」
イーサンさんに言われる前にスッと紙を差し出すアシェラさんマジ有能過ぎて震えた。美人で気品があっておっぱい大きくて仕事出来るとか、チートすぎる。この人に比べたらオレなんて羽虫だな。
そんな事を考えている間に、イーサンさんはサラサラとペンを使って文字を書いている。翻訳メガネ掛けてないけど、大体の文字は覚えたので、どうにか読める。イーサンさんの字が本とかに載ってる様なお手本みたいなキレイな字ってのもある。
「これも君の兄が作ったのか?」
「あ、はい」
「これも売ってくれないか?」
「え?」
ボールペンを?
「それはダメです」
だってマリエルにあげちゃったから、今その1本しか無いんだもん。この後、解体の見学とか行こうと思ってたのに、無いと困る。
「そうか……銀貨30枚出そう」
そうか、じゃないよ!?
全然分かってないよ、この人!?
「いや、ギルマス。これは銀貨40枚出しても良いですよ」
「いやいやいや、金額の問題じゃなくて、私まだこちらの字に慣れてないので、それが無いと困るんです!」
ん?て言うか、ボールペンって売れるの?
しかも銀貨40枚って8万円位!?
ボールペンが1本8万!?
「それなら、次来る時にコレを作って来てくれないか?」
え、ボールペンを?
そんな珍しい素材使ってないけど……これ作るの結構面倒くさいんだよな……。
「……難しいか?」
オレの表情を見てそう解釈したのか、イーサンさんが眉を寄せる。
「いえ、難しくは無いと思います」
効果付与も無いし、材料と製法さえ分かれば誰でも作れると思う。でも、だからこそ面倒くさい……。
合成金属の製作とか、シェイバードの靴の改良とか、動物を仕留める罠の考案とか、色々やりたい事は山程あるのだ。
「難しくはないんですけど……ちょっと面倒なので、あんまり作りたくないと言いますか……」
あ、これじゃ商人としてダメか。やばい、怒られる!
「件の錬金術師は商売に興味が無いのか? これだけ薬を作れるなら、店を構える事も可能だろう」
あれ、怒られなかった?
あ、
た、助かった。このまま誤魔化そう。
「えっと、兄は基本自分の作りたい物しか作りません。そのペンも、必要に駆られて作っただけなので……」
回復薬とかはあんまり素材も時間も使わないから良いんだけど……オレも必要だし。ボールペンロット製作とかは勘弁してほしい。誰にでも作れる物だし……でも売れるんだよな………………あ。
これもしかして、【製法】を売るって有りかな?もしくは著作権?
ボールペンが売れればその何%がオレに入って来る様な……そうだ、権利!
こういうのを確立して守りたいってカイサさん達言ってたよ!明日その相談しに行ってみよう!
それならオレも面倒な仕事しなくて良いし、職人ギルドの為にもなる!
ギルドカードが欲しくて行っただけのオレを応援して特別にカードを作ってくれた、あの2人には感謝してるんだ。これで少しでも恩が返せると良い。
「……はい、以上で手続きは終了です」
イーサンさんから何とかボールペンを返してもらったオレは、無事書類にサインをして売買は終了した。
ホッとしてたら、ヘラヘラ職員さんがアシェラさんからカードを受け取るオレに、すすすと近付いてきた。
「今日この後の予定はあるの?」
「ありがとうございます。えっと、買い物に行く予定なんですけど、その前にちょっと冒険者ギルドに寄ろうかなと」
買い物は昼食を取った後でも良い。
「また何か依頼を出すのか?」
シェイバードに準じるレシーバー改造の失態をイーサンさんが思い出してる気がして、気持ち小さくなりながら「いえ」と答えた。
「依頼じゃなくて、また解体を見せてもらいたいなと思って……」
魔物の解体なんて街の中で観れる所は早々無いだろう。街のお肉屋さんってどうなのかな?ちょっと買い物ついでに聞いてみよう。
ともかく、いつか来る目標の引きこもり自活生活の為には、解体作業の取得は不可欠だ。オレに使えるナイフは今のところ無いが、解体作業も一朝一夕では身に付かないだろうから、今から勉強しておきたい。グロ耐性も上げないとだし。
「そう言えば、シェイバードの解体も見学されたそうですね」
「解体なら店やギルドで頼めば良いだろう? 別に旅に出る訳では無いのだろう?」
旅には出ない。素材探しにちょっと遠くまで行きたい気はするけど。あと聞き逃しそうになったけど、お店でも解体作業してるのね、よっしゃ。
「いえ、いずれは兄と2人で山奥で自活生活をするのが目標なんです」
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