レシピ47 ネガティブ錬金術師とゴロツキたち ☆


ギクリと体が強張り、視線と意識を店員さんに集中させ【鑑定】を行う。



名前:ハロルド

年齢:27

職業:鑑定師・商人

資格:商人Lv8

スキル:鑑定Lv6、土魔法Lv3、話術Lv8


装備:ポリネウスの腕輪(危険察知)・マセハの革靴・ビブリブの指輪(MP上昇)



 【鑑定Lv6】の文字に、今度こそ体が固まる。

 わざわざ装備品の中から『詐称のネックレス』を名指しで外して見せろと言う事は、つまりはそう言う事・・・・だ。


(ステータス偽物な事バレてる……!!)


 ザワッとしたものが体を駆け抜ける。

 偽物のステータスをバレたという事は、隠したい事がある事もバレてるという事で……。

きっと翻訳のブレスレッドも見破られているから、移民という事も分かっているのだろう。

初めて街に来た時、ブレスレッドを奪われて全く見知らぬ言語に囲まれた事を思い出して冷や汗が出る。

 今すぐに走って逃げたいが、こうなってしまっては今後ここに来る機会がもう無いかもしれない。そう思うと、買う物を買っておかねばという意識も浮上した。アイハになってオレも多少は図太くなれた様だ。


「こ、これは大事な物なので……」

「ええ、そうでしょうね」

 胸元のネックレスを隠す様に手で押さえるも、ブレスも気になって反対の手では手首を握る。


「ああ……すみません、怖がらせてしまいましたか」

 オレの態度にハロルドは困った様に眉を下げて笑った。そうするとますます日本人ぽくて、柄にもなく里心が出そうになる。

「こんな仕事をしているもので、ただ単純に珍しい魔導具をじっくり見たくて……すみません、鑑定師の血が騒いでしまいました」

 そう言って半歩距離を空け、威圧感を少しでも消そうとした態度を出す。


 だが、本当にそうだろうか?


 それならわざわざ『詐称のネックレス』を指す事はない。明らかに魔導具として使用していたのは『鑑定ゴーグル』の方だから、まずそちらが気にならないか?

 この人は話術スキルのレベルも高いし、オレの様な移民の女子を騙すなど、朝飯前のはずだ。

そもそも【鑑定】スキルLv6を持ちながら、店には粗悪品や偽物も置いている。大きな店構えと店員の高級感あふれる服装を見る限り、金儲けが第一に違いない!

ここで素直に魔導具を見せたり、本当のステータスがバレてオレが錬金術師だと分かれば、攫われて地下深くに閉じ込められ、魔導具を作らされる日々となるかもしれない。いや、もしくは商売仇として始末されるかも!?


「そうですか。でもこれは、とても高価で大事にしているので、人に渡すのはちょっと……」

 下手に誰かから貰ったなどと言ったら、その製作者を教えろという話になる事は経験上分かっている。あえて「高い物だから触るな」とつっぱねてみた。

「そうですね、失礼いたしました」

 ハロルドはそう言ってまたニコリと笑った。あれ?オレの考えすぎか……?

……いや!ここで1回引いて隙を誘っているのかもしれない!騙されないぞ!


「こちらのバッグ以外に、何か見られますか? ご案内いたしますよ」

 本当はもっと色々見たかったが、これ以上危険な男と一緒にいる訳にはいかない。とりあえずオーブンは見たし。

「いえ、いいです。さっきのあの…『火熱調理器』の赤いやつと、火の魔石を50と水の魔石と風の魔石を30、土の魔石と木の魔石を20ずつお願いします」

 その場を動かず注文するオレに、ハロルドは少し目を見開いた後、また笑顔に戻った。笑顔が通常の顔の様だ。

「沢山お買いいただきありがとうございます。代金と荷物はいかがいたしましょう? 追加料金で配送も出来ますが」

 いらん!家なんか教えるか。

「大丈夫です、大きいマジックバッグがあるので。支払いはギルドカードで」

 支払所に移動してカードをハロルドの出した紙にかざすと、それで支払いは完了したらしい。IDカードみたいで、妙な所でハイテクっぽいよな、この世界。

その間に支払所に運ばれた荷物にお肉サマに貰った方のマジックバッグを逆さに被せると、無事収納された。小さいマジックバッグはその場で身に付け、すぐにギルドカードと少量のお金を入れた。


「ありがとうございました、またのお越しを」

 ハロルドのにこやかな柔らかい声を背に、オレは二度と来ないであろう店を出た。

 危機はあったが、ひとまず目的の物は買えたし、実験材料も手に入った。しばらく忙しくなりそうだ。



◇◇◇


「へ~い、お呼びですか?」

 アイハが去ってすぐに、ハロルドは店の奥に入って行き、待機させている男達に声を掛けた。

 2人の体格の良いがガラが悪そうな男達は、いわゆるゴロツキというやつで、店で何かもめ事があった時や、もめ事を起こす・・・時の為に待機させている。

「今出て行った茶髪に赤い服、ゴーグルを付けた女を連れてこい。女本人はどうでもいいが、装飾品は大事だから、間違っても傷付けるなよ」

 先ほどまで浮かべていた柔らかい笑顔と声とは似ても似つかない、尊大な口調でハロルドが言い放つと、男たちはニィと好色な笑みを浮かべて返事をした。 



◇◇◇



 突然だが、オレはよく迷子になる。

無駄に用心深いオレがなぜ知らない道に行くのか、不思議に思うかもしれないけどこれには理由がある。知っての通りオレには怖い物が多い。

 中でもこの世界に来てから特にだが、人目が怖い。

現代日本で暮らしていた時だって、友達なんて幼馴染の徹くらいだった。

いまだに目や髪の色の違う言うならば外国人味のある人には苦手意識があるし、みんな体格も大きめだし、おまけにオレを珍しそうに見てくるのでとにかく避けたい。

簡単に言うと、突然外国に放り込まれた人がみんな意気揚々と人と交流を持つかという話だ。そしてオレは圧倒的に否の方。そもそもミトコンドリア以下のオレが、言葉も文化も容姿も違う人達の波に自分から入っていく訳がない。

 そうなると必然的に、人気の少ない道を選ぶ癖がついた。

そうは言っても、日本と違ってこの世界の路地裏なんてどんな危険が潜んでいるか分からない。しかし今のオレには芙蓉にもらった完璧な街の地図がある。

 芙蓉の持つ情報量はすごくて、根を張っている範囲内ならどんな情報も得られるらしい。それを元にすれば、どこにガラの悪い人達が住んでいたり、危険な行為を行っているか分かるのだ。

 そうしてオレは、魔導具屋から図書館への道を初めての裏道を使って歩いていた。



 それは細く長い路地の曲がり角に差し掛かった時だった。

 辺りは石造りの高い建物に挟まれており、光は届かず薄暗かった。と言っても、昼間の薄暗さなので暗視ゴーグルを使うほどではない。この辺はあんまり裕福ではない人の住宅街みたいで、現代風に言うなら、マンションとマンションの間の小道って感じだ。社宅住まいだったオレとしては、ちょっと懐かしさすら感じる情景だったが、その思いは一転した。


「っ!!?」


 突然、後ろから伸びて来た何かに口を塞がれた。


 そのままオレの軽い体は後ろに倒されるが、石畳に叩きつかれる事はなく、衝撃は人肌と共に訪れた。

朦朧とする意識にの中、オレの口を塞いだ男の上に倒されたのだと分かった。


「へへっ、自分から人気の無い所に入ってくれるとは、不用心な嬢ちゃんだ」

 耳元で男のしゃがれた声がして、生暖かい息が降りかかった。


 振り払って立ち上がろうとするも、元々非力なオレでも無理だろうに、なぜだか頭がボーっとしてろくに動けない。それでももがくと、今度は上から違う男の声がした。

「無駄無駄、神経麻痺の薬を嗅がせたからな、体が思う様に動かないだろ」

 笑いを含んだ男の声に、口を塞いだ布に薬が塗られていた事を知る。神経麻痺の薬……そんなのがあるのか。それは普通の麻痺薬を作るヒルルク草で作れる物なのか。それとも神経に特化した何か別の材料が……ああ、ダメだ頭が霞がかってて考えれない。


「悪く思うなよ、俺らも仕事なんだわ」

 上から見下ろすザンバラ髪の男が、ちっとも悪びれない顔でそう言うが、これを悪く思わないで何を悪く思えと言うのだろう。反論しようにも、布を外されたのに舌が動かない。

「これか? 依頼人の言ってた装飾品ってのは」

「こっちにもあるぞ、1つじゃねーみてぇだな」


オレをいまだに拘束している顔に大きな傷のあるしゃがれ声の男が、ゴーグルを剥ぎ取ってしげしげと眺めたのに対し、ザンバラ男はしゃがんでオレの胸元の詐称のネックレスを指さした。後に、視線が下に行き、上に行った。そしてニィとその小さい目を歪めた。

すごく嫌な感じがする。

でもぼんやりとしか眺められず、ろくな抵抗が出来ない。声を出そうと口を開くも、はくはくと音にならない音が出ただけだった。


「ガキだがなかなか……」

 そう言ってネックレスの下、胸元にゴツくて毛深い手が滑らされた。

「オイオイ、いいのかよ」

「構わねえよ、『女本人はどうでもいい』っつってたろ」

 ゴツい手が服の上から胸下に滑り込み、形を確認するように蠢きだした。

えっと……オレは今何をされている?

見知らぬゴロつきに、人気のない場所で、体に自由を奪われて……それで、えっと……


「でも本人も連れて来いって言ってたぜ?」

「用事はあるんだろうけど、傷は付いててもいいんだ。むしろあとあと喋りやすくさせといた方がいいんじゃねえの?」

「なるほど」

 服の上から胸を揉みしだく男の言葉に、オレを拘束していた男の視線と手が、下に向かった。

「ひ……っ」

 ニーハイとスカートの間の『絶対領域』を狙って添わされた手は、そのまま内股を撫でまわしてから這い上がってきた。男の荒い息と下が耳を撫でて喉の奥から声が出た。


 何だコレ、オレ男なのに何でこんな事に……あ、違う、オレ今アイハだった。

でも何で……頭がぼんやりする上に、上も下も男達の固い皮膚のでかい手が蠢いて考えが進まない。

「んっ……や……ぁ」

「カワイイ声だな……。最初はただのガキだと思ったけど、意外と色っぽいじゃねぇか」

 既に裾から手を差し込んで胸を直接触りだした男の息も荒くなっている。

あ、これアレだ。


妖精の魅了ピクシーチャーム』の効果だ。


まぁ確かに男の好き=性欲に直結する訳で、当たり前の話だけど、これ誰かからも言われたな。誰だっけ……うわ、尻を揉むな。えっと、あれだ、徹じゃなくて、徹じゃなったら、オレにこんな話するのは……



――――――『そうではありません、強い意志だけです。

       今回もそうです。呼んだでしょう? 私の事を』――――――――



 そうだ、クレーヴェル!

 声が出なくても、頭の中で呼べば来てくれる!!



(クレーヴェル! クレーヴェル!! 助けて、クレーヴェル!!!!!)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る