レシピ3 ネガティブ錬金術師とポジティブ妖精2
思えば異世界に来たのも事故だったし、転生して美形になってるとかもないし、チート能力も無いし、壁殴ったら骨折るし、町に出たら乞食のガキ扱いされるし、女の人には睨まれるし、頑張って作ったアイテム取り上げられるし、ケモミミ女子とお知り合いにもならないし、巨乳女戦士にも会わないし。
極めつけに、苦肉の策で女体化してみたら男にモテる呪いを掛けられた。
『マスター、マスター。出て来てください。
嫌な事あると毛布にくるまって机の下にもぐるの止めてください』
この家にたどり着いた日から使っている毛布包まると少し安心する。
『まっさか女の子に変身してるなんて思わないじゃない! いや~驚いた!』
毛布の向こうから明らかに笑いを含んだ声がする。この妖精……オレの不幸を確実に面白がっている。
『シルヴェール、その変な魔法はキャンセル出来ないのか?』
そうか、取り消せるのか!毛布から少し顔を出す。
『え~?無理よぉ!私の魔法はすっごい強力なの!クレーヴェルも知ってるでしょ?
まぁ良いじゃない!嫌われるより好かれるのよ!?むしろ良い事しかないって!!』
「クレーヴェル……オレそいつ苦手かも」
『そこは私も同感です』
『やだ、もう何よ~。2人して!こーんなに可愛くて素晴らしい魔法も使える私に向かって!』
もう帰ってくれないかな、この妖精。
『改めて自己紹介するわね、私は妖精シルヴェール。可憐にして最強の妖精よ!』
聞いてもない自己紹介を、それはもうふんぞり返ってしているのを毛布の隙間から見た。
本当に帰ってくれ。
『クレーヴェルは知ってるから、あなたの事を聞かせてよ!』
「……名乗るほどの者じゃありません」
しかしそんな必死の抵抗も妖精、シルヴェールに一笑されて終わった。ようせいっよい。
しつこく押しが強いシルヴェールに、ミトコンドリアごときで抵抗しきれるはずもなく、問われるままにポツポツと答える羽目になった。
『なんだ、異世界人なの!しかも錬金術師やってて、クレーヴェルと契約したとか!その上女の子に変身!!面白い!面白すぎるわ、あなた!!!』
何が面白いのか、キャラキャラと絶えず笑っている。オレの人生は、こうして傍から見たら所詮は喜劇という事か。
こうして人に笑われる為だけにこれから生きていくのか。まだ誰かを楽しめれるなら良かったと思うべきなのだろうか。そこまで割り切れないのが、思春期の悲しい所だ。
『あははっ何それ!』
『マスターは少し考えすぎる癖があるのだ』
『あら、それは良いわね。色んな可能性を深く考えるのは、錬金術師に向いてるわ』
そんな無理に褒めてくれた所で、オレに掛けられたこの呪いは解けないのだ。と言うか、考え過ぎなんて褒めてないな。褒められてなかった。
『後ろ向きなのね~。でもほら、同性に好かれる子って感じ良いわよ』
何を言っているんだ。
それは男女ともに人気がある場合をいうのだ。
そもそもオレは男にも女にも好かれていない。好感度はむしろマイナスだ。…………ん?
「元がマイナスなら、好かれる呪いを掛けられても、プラマイゼロになるんじゃないのか!?」
何だ、そっかそっか!失念していた!オレは底辺!最下層!むしろ地下的存在!!何も恐れる事など無かった。
そうと決まったら、明日こそ町に肉を買いに行くのだ。今日は早く寝て備えねば。
あ、夕食は食べるけど。
「そんな訳だから、妖精もう帰ってくれ」
『ホワ――――――!!ちょっとこの子面白すぎる!!クレーヴェル良いの見つけたわねぇ!!』
『マスター……どうしてそう……』
クレーヴェルの嘆きは、ため息に交じって最後まで聞こえなかった。
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