レシピ2 ネガティブ錬金術師とポジティブ妖精1
クレーヴェルの嘆きはとりあえず放っておく事にして、ひとまず出掛けようと思う。
「出掛ける!? 今出掛けると言いましたか、マスター!?
この7日間一歩も家から出なかった貴方が出掛けると!!????」
ひどい言われ様だ。その通りだけど。
「クレーヴェル、錬金術の材料に使えそうな植物がこの辺にあるって言ってただろう?どんな風に生えてるのか見てみたいって思ってたんだ。
ここ一週間でクレーヴェルが魔物に会ったって聞かないし。あとこの薬がどのくらいの時間効くのか分からないから測りたいし」
「マスターが出掛ける気になったのなら、もうそれで良いです!性別など些細な事でした。行きましょう!」
あとから思い返すと、クレーヴェルのこのセリフ、フラグだったから。
町はずれである家からそのまま外に向かう。
一応念のため、最初に練習がてら作った回復薬と小さい爆弾、素材を切る時に使っているナイフを持った。服は相変わらずの学生服にローブだ。
家の裏から少し進むと小さな扉があって、そこから外壁をくぐって町の外に出れた。どこか手作りっぽさを感じさせる扉に、もしかしたらこの家の元の住人が作った物かもと思う。資材集めに良かったのだろう。町中を通って城門から出る手間が無くて、オレ的にも最高に便利だ。
草むらを抜け、草原を進むといつの間にか森に入っていた。本当に町からすぐだった。これだけ近くに町があるなら、そうそう凶暴な獣はいないだろう。いるかもしれないけど。
道案内はクレーヴェルだ。オレは図鑑片手に道中の植物を観察していく。
「あれがグルの実?」
『そう、その横がツェール草。主に熱さましや毒消しに使われる』
へえ、ちょっと摘んで行こう。
しゃがんで草をむしり取っていると、視界にキラキラと光る物が見えた。鉱石かな?と思ったら花だった。鈴蘭みたいに丸い花が下を向いていて、その中が光っている。
光る花なんて図鑑に載ってたかな?そう思って、もっと特徴を掴もうと近付いていくと、意外に大き………
足?
「ギャ――――――――――――――!!!!」
『どうしましたマスター!?』
オレの悲鳴を聞きつけたクレーヴェルが文字通り飛んできた。
「足!花から足出てる……!!食われてる!!食肉花だクレーヴェル!!」
白く丸い花から伸びるこれまた白い足。
赤い靴を履いたそれは、どう見ても人間のそれで。
そしてバックリその足の主に喰いついてる花からは、オレンジの光が溢れていた。食事する時発光するの?
それとも感情?
獲物掛かったぜイエー的な光なの!???
『マスター…マスター落ち着いてください。よく見てください』
よく見ろって、オレはグロ耐性無いのに。
人間喰われてる所なんか見たくないし、早く逃げないとオレも餌食になるじゃないか。
『人間じゃないです。あの花にマスターは食べれません。大きさをよく見て』
「へ?」
言われて伏せていた顔を上げて振り返ると、何か遠近感がおかしい……?
クレーヴェルと足の主が、そして植物全体が同じくらいに見える。
………普通の植物サイズだ。
という事は、赤い靴の足がすごく小さい……?
『落ち着きましたか。この花は主に小さな虫なんかをゆっくり消化するタイプの食虫植物です。人間に害はありません』
そうなのか。
あ、じゃあもしかしてこの足の主もまだ余裕だったりするのか?
引き抜いて半分溶けた生き物が出てくるのも嫌だが、このまま見過ごしてもし恨みに思われ化けて出られても嫌だ。
ええい、ままよ!
ずるんっ
『うげ』
「これは……」
思い切って足を持って引っこ抜いた足の主の姿を見て、クレーヴェルがカエルを潰したみたいな声を出した。珍しい。
とりあえず分かったのは、光っていたのは植物ではなく足の主という事と
足の主が、すごく小さくて羽が生えた生き物だったという事だ。
『何でお前が……』
■■■
収穫としては少しの薬草類と木の実だったが、それよりクレーヴェルが変だ。
「これって妖精……とか? なぁクレーヴェル……」
『………』
いつもオレの言葉に即座に返答してくれるクレーヴェルがだんまりだ。
発光してるのは相変わらずだが、何か光がじめっとしてる気がする。
お持ち帰りした小さい人は、洗濯してある布に包んで机の上に置いてある。クレーヴェルが知った顔をしていた(気がする)し、もしかして
「これも精霊『違います』
かぶせだ。
よく分からんがなかなかの因縁があるようだ。もしかして元カノなんて事もあるのだろうか。クレーヴェルかなり長い事生きてるし、有り得るかもしれない。
「愛憎劇を家で繰り広げられるのは嫌だなぁ……」
『マスター、とてつもなく不本意な想像をされていませんか?』
『ふああぁ…』
クレーヴェルが憮然とした態度でオレの呟きに答えてくれたところで、ちっちゃい人が目を覚ました。
寝ている時は気付かなかったが、透けるような青い目に白く輝く白銀の髪。
ヒラヒラとした薄く光る衣装に、羽。なんて言うか、幻想的?ですごくキレイだ。
しかしキレイな物には棘があるという。
性格とんでもなくて即行暴れられたりしないだろうか。
そもそも人間に友好的とは限らないし。
『あれぇ?ここどこだぁ?』
妖精(仮)が呑気そうにキョロキョロする。
我に返ってすぐ魔法ぶっ放したりしないよな?
『え?やだ、あんたクレーヴェル!?クレーヴェルじゃない!!
やぁだ久しぶり!300年くらいぶり!?』
キャラキャラと快活に笑いながら、妖精がオレを華麗にスルーしてクレーヴェルに飛び寄った。
『そんなに経っていないし、私はお前に会いたくもなかった。
それより、マスターに助けてもらったんだ、お礼位言えないのか』
クレーヴェルの不機嫌をあらわにした声で、妖精はようやくオレに気付いた様だ。
相変わらずの空気です。多分二酸化炭素の方。
『あら、そうなの?ありがとね~。
ちょっと飛んでたらダノの花に大事な物が落ちちゃってね、取ろうとしたらまさかのバクーッよ。意外と締め付けきつくてさぁ、やばかったやばかった』
『シルヴェール!そうやっていつも適当にその場限りの行動をするからこうなるんだ!大体それのどこが礼を言っているのだ!もっと誠意をこめろ!!』
クレーヴェルにもこうやって感情をあらわにする相手がいるんだなぁ。てゆーか300年前とか、クレーヴェル思ってたより年寄りなんだな。あとこの妖精も。
『やぁだ、ちゃんと感謝してるわよぉ!
その証拠に、お礼に特別な魔法を掛けてあげる!』
妖精がキラキラしながらオレの周りを飛んできた。
「特別な魔法?」
妖精はお人形みたいに綺麗な顔でにま~と笑った。似合わない。
『そう!私の様に尊い妖精にしか使えない、特別も特別、すっごい魔法よ!』
魔法そのものが特別な存在であるオレには見当もつかない。
首をかしげてる内に、妖精は歌う様に呪文を唱えた。
ほんわかした光がオレを包む。何なに!!??
光が俺の中に吸い込まれるみたいに消えていく。何か入ってきたの!?
何!?こわい!
何するか言ってからやってよ!!
混乱するオレに、妖精は達成感とドヤ顔を足して二で割ったみたいな笑顔でオレに言った。
『ハイッ!これでアナタに出会う異性は、みーんなアナタを好きになるわよっ!
ス――――ッ
そのセリフを待っていたかの様に、薬の効果が切れた。
時計を見る。
18時10分だった。
「……ジャスト10時間かぁ」
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