レシピ27 ネガティブ錬金術師とエテリア王国
あの衝撃のレベルアップから一夜明けたら気分も少し落ち着いた。
レベルアップというのは、モンスターとかを倒して経験値を得ないと出来ない物だと勝手に思っていたが、どうもその職・スキルに合った経験値を積めば上がる様だ。
今回たまたま、マリエルの女子力アップ講座を受けたし、衣類を変えたからレベルアップしたに違いない。しかしそうなると、アイハになった状態で商人としてがんばれがんばる程、女商人としてレベルアップ→|妖精の魅了(ピクシーチャーム)も女子力もレベルアップ、となるんじゃないのだろうか。何だその悪循環。
アイハのスキルとレベルは、オレ個人のものなので、|男の姿(トモヤ)の状態でも反映されるのだ。しかし魔法を掛けられたのはアイハの状態だから、あくまで『男にモテる』スキル。男の姿で、男にモテる。何その地獄絵図。
オレはますますアイハでない時は人に関わらまいと心に決め、今日こそは図書館に行こうと家を出た。
早いところ自給自足生活の体制を整えて、引きこもる為に。
フードを目深に被り、翻訳メガネとブレスレット、マジックバックを肩に掛けて図書館に着いた。
このマジックバッグも出来れば自分でも作りたいな。リュック型とか良いかもしれない。そうだ、裁縫道具もいるかもしれない。カラばぁの店に無かったか帰りに見てみよう。
裁縫など全く経験が無いオレだが、今までの錬金術で作ったアイテムだってほとんど経験の無い事をしてきた。なぜ出来たかと言うと、本を見ながら道具を持って「こうしたい」と頭に思い浮かべながら手を動かすと、不思議とスムーズに形になっていったのだ。
元々プラモ作りが趣味で細かい事をするのも好きだったが、さすがに装飾品やメガネなんかを一発で作れる訳が無い。この辺が【スキル】ってやつの効果なのかもしれない。
まぁたまに失敗もするけどね!
オレがちゃんと使えるのなんて、【錬金術】くらいだけど。
あ、でも効果を抑えられたから【マナ
【妖精の
スキルの内容まで分かる『鑑定石』が欲しいな。いや、そこまで来るともはや【解析】だな。
暗視機能を付けたこの『鑑定ゴーグル2号』も、早くも改良の余地有りって事か。使えそうな素材が無いか本で調べよう。
そう思いつつ図書館の中に入ると、一昨日来た時には無かった列が出来ていた。
見ると受付で何かチェックされているらしい。
そもそも、受付の人が違う。あの無愛想無口男はおらず、やたらと眼光が鋭い男が座っていた。
男は図書館に入る人を1人ずつジロジロと見ていた。何か言われるのじゃないかとビクビクしたが、オレに対してはチラと見るだけで済んだ。警戒対象にもならないらしい。すんなり入れて良かったけど。
無事中に入るが、中の様子もいつもと違う。
何だか偉そうなおじさんがやたらと多い気がする。しかも本を読むことはせず、ずっとウロウロしてる。こんな平日(?)の昼間から図書館でウロウロするだけなんて、仕事は無いのだろうか?
オレは疑問符を浮かべながらも、移民である事を咎められないか不安で、コソコソと今日の目的の錬金術の本棚に向かった。
本棚を見つけホッと一息つき、目的の本を探して本棚の奥の方まで来たところで、顔に何かが張り付いた。
「!!?」
ベシッと勢い良く張り付いていたそれは、オレの顔にしがみつき、息を止めにかかる。
まさか図書館内で謎の生物に襲われるとは思っていなかったオレは、何とかその顔に張り付いた物を剥がそうとするが、視界が塞がれていて上手く掴めない。
「~~~! ~~~~~~~!!!」
それに何だかフワフワしてる様な、スベスベしてる様な、妙な感触で掴み所が無い。
何だかあったかい気がするし……この感触……どこかで…………と思いだそうとするが、そろそろ息が限界で思考が阻まれる。
いよいよ意識が切れそうになった時、その何かが急に離れた。
『あ、すまない』
「ぶはぁっ!!」
まずは酸素の吸入を第一にして、オレは上を向いて息を整える。
酸素不足でぼんやりしかけていた頭と視界がだんだんクリアになってきた。
『すまない。平気か?』
その視界にフワッと入ってきた物は、見覚えのある小さな人型の発光物。
一瞬、「何でクレーヴェルがココに?」と思ったが、よくよく見なくても違った。
まず、色が違う。クレーヴェルは白い発光物だが、目の前のモノは緑色の光で構成されていた。
大きさはさほど変わらないが、形もどことなく尖った印象のクレーヴェルよりも丸っこい。クレーヴェルを成人男性と例えるなら、こっちは子供って感じだ。
『やっと会えて嬉しくて飛びついてしまった。すまなかった』
①こちらを知っている様子
②発光人型=クレーヴェル=精霊
③緑色
以上の事で導き出される答えは……
「もしかして……芙蓉?」
『そう。1日ぶり』
そう言って緑の人型発光物は笑った様な顔になった。
ちょっと待って、クレーヴェルの前例があるから何となく予想はついたけど、芙蓉?
あのふよふよ浮いてて喋りもしなかった芙蓉がこんなになるの?
これもオレからのマナの力って事???
「ほんとに芙蓉?」
『そう。なぜ疑う』
「いや、だって一昨日会った時は丸かったし、喋ってもなかったじゃん」
いくらマナの力だって言っても、急成長過ぎないか? クレーヴェルだって、木の精霊は多いからそんなに力も無いって言ってたし。
『私はこの国の神木。その始まりの精霊。この木の力の主柱なのだから、マナも強い』
この木は図書館の宿り木って聞いたけど、国そのものの神木だったのか。
「始まりって、この木の精霊たちで一番最初に生まれたって事?」
『正確には、最初に自我を持った精霊。木の力の源は私の中』
女王蜂と働き蜂みたいなものかな?沢山いるとそういうシステムになるのか。
「それで何でそんな超進化になるの?」
『ちょう? 進化の元はマナ。そして貴殿は私に名をくれた』
超は伝わらないのか。
そしてやっぱりクレーヴェルの時と同じでオレの中にあるらしいマナで、精霊はパワーアップできるみたいだ。これも垂れ流しちゃってるのかな。
「マナは分かるけど、名前に意味があるの?」
『名は個を表す記号。既に個として独立していた私を更に形にする力をくれた』
ええと、もともと特別だった芙蓉に、更に1つの存在としての力を与えて、それで形も変わったって事か?
精霊の常識はよく分からない。
『礼を述べたかった。そして貴殿の名も私に教えてくれ』
あ、いえどうも。何か思ってたよりもすごい精霊みたいで、むしろ適当に名前付けてしまって申し訳ない気持ちになる。
『貴殿の名は何という』
「えっと、友也です」
何となく偉そうげな喋り方の精霊に、つい敬語になってしまった。
『トモヤ。トモヤ、良い名だ』
そうか?現代日本ではありふれた平凡な名前だったけど。
『トモヤ、昨日も近くまで来ていたのに、なぜ入って来なかった』
芙蓉はあまり抑揚の無い喋り方なのだが、今のはちょっと拗ねてる感じがした。
「昨日? 昨日は来てないよ」
友也では。
『なぜ嘘をつく。トモヤのマナを間違いなく感じた』
「え」
ちょっと待て、精霊基準では姿形よりマナで見るのか!
おおい、やばいぞソレ!
アイハの時にも普通に『トモヤ』と呼びかけられたら即行バレるじゃん!呼びかけ……あれ?
「芙蓉、どうして今日は木の周りじゃなくて、こんな奥にいるの?」
【検索さん】こと木の精霊は、芙蓉以外は今日も木の周りにふよふよ浮いてる。芙蓉だって最初に会った時はあそこにいたはずだ。
『昨日から国の学者や神官が私に話せとうるさい。私はトモヤと話したかった。だから此処で待っていた』
んん??嫌な予感がするぞ。
「国の学者や神官が、何で芙蓉の所に来てるの?」
『私がこの国の元となる神木の精霊だから。国を守る結界のマナが強くなった事で、契約者と話した』
国の元…………???
『話は終わった。だが昨日から学者や神官が大勢押し掛けて来て煩い』
「ちょ、ちょっと待って!」
新しい情報が多すぎて処理が追いつかない!
待って、一昨日筆写を手伝ってくれたこの緑の精霊は何て言ってる?オレは何に何をさせて何をした?
「国の元?」
順を追って話してもらおう。
『そう。このエテリア国は、私の木が元に造られた』
もう分からん。
「木が元で作られたって?」
『私の木は神木。強いマナを持っている。建国者は私と契約をし、私の木を中心に国を造った』
「ま、待って!」
芙蓉の言葉に、オレはアイハの時最初に読んだ本を慌てて取りに行って戻った。これだ、『エテリア国のはじまり』。
この本によると、エテリア王国は今から500年ほど前に、エテリア=ドミノフ=ハイセンビュッテルが精霊の力を使い建国したとある。
精霊……建国………。
オレは改めて芙蓉を見た。
「精霊……」
『そう』
芙蓉が頷く。
オレはその場に卒倒したいのを少ない筋力で堪えた。
『私はマナの力で国に結界を張り、代々の王と契約を交わし、国を守っている』
契約?さっき言った『契約者』って、この国の王様って事?
王様にオレの話したの!?
「待って、芙蓉! 王様にどこまで話したの!?」
『どこまで? 此処でトモヤに出逢い、共に本を写し、名を貰い、マナを貰った事』
ぜ・ん・ぶ―――――――!!!!
国を守る木の精霊がいきなり超進化したら、国としては一大事だ。原因を究明するに決まっている。
あ、それで昨日図書館閉まってて、今日もいかつい受付がいたのか!
「オレの事はどこまで教えた?」
『まだトモヤの名を知らなかったから、少年としか伝えていない。
そもそも契約者とは、必要最低限の話しかしない』
え、そうなの?クレーヴェルめっちゃ喋るけど。説教超長いんだけど。
『だからトモヤと話すのは、愉快』
え、笑いものにされてる?と思ったが、新鮮とか楽しいという意味だと何となく分かった。
どうも芙蓉は図書館の知識は持っているが、話慣れていないから言葉のチョイスがやたら小難しくて感情表現がイマイチの様だ。オレも全く完璧な喋りって訳ではないが。
「あのさ、芙蓉。オレの事は契約者や学者には秘密にしてくれる?」
『何故』
面倒事しか思い浮かばないからだよ。
国の大事な大事な精霊様を小間使いにした挙句、勝手に変な名前付けて、しかも余計なマナまで渡して影響が出ている。
マナを持つ人間はあまりいないっぽいので、掴まって人体実験されたり、幽閉、下手したら処刑されるかもしれない。
嫌だ!オレはなるべく目立たず人と関わらずのんびり暮らしたいんだ!
しかし芙蓉は長年王様と契約してたらしいから、もちろん王様の味方だろう。
今は気分が乗らずに隠れているが、契約者から質問されれば答えてしまう事が予想される。オレもどうなるか分からないが、少なくとも平穏は消える。
「知られると、もうココには来れなくなるかもしれない」
『それはいけない』
とりあえず芙蓉に関係ある範囲で話から始めようとしたら、思いのほか真剣な声が返ってきた。
『分かった、伝達はしない』
「え、そ、そう?」
何でそんなすぐ納得してくれたのか分からないが、芙蓉が良いならそっとしておく事にした。
「じゃあ、オレの事は誰にもナイショな?」
そう言って、シーッというお決まりのポーズを取ると、なぜか芙蓉は輝きを増して見様見真似で同じポーズを取った。指が違うけどまあいいや。
『内緒。トモヤと私の中だけの話』
「そう。約束な」
『エテリアの国に掛けて』
いや、それは何か重いからいいや。
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