レシピ33 ネガティブ錬金術師とシェイバード
勝手に魔改造を施したレシーバーは、結局罰金なしでなぜか冒険者ギルドの方が1000G出して買い取られた。
イーサンさんが言うには本来ならもっと高値で買い取る物だが、今回は貸出品の勝手な改造であるという事が差し引かれたらしい。本当にノリでやっちまった物なので、罰金なしだけでも十分なのだが。
アガトさんイーサンさんはその後仕事が立て込んでいるとの事で戻って行き、オレはゆる職員さんに連れられシェイバードの保管されているギルド倉庫に向かっていた。今回は素材がどれだけあるかによって報酬を変えると言ってあったので、その確認の為だ。
それになぜか、達成した冒険者4名も付いて来る。依頼者と冒険者はあまり接触しないものじゃなかったのか?とも思ったが、今更と言われればそれまでなので、今回は良いか。
「しかしギルドからの貸出品を勝手に改造って、アイハの兄貴って結構イカれてるよな」
倉庫の従業員に指示を出し、シェイバードを運んで来ると言ってゆる職員さんが退席し、手持無沙汰になったと思ったらスターリ(ちゃんと覚えた!)が話しかけてきた。
「錬金術師なんだっけ?」
「錬金術師って皆そうなのか?」
「知らね。錬金術師なんて会った事ねーよ」
「俺も」
口々に話す筋肉集団の言葉に、オレは俯きながらそこにいた。
そうなんだよ、ギルドからの貸出品を勝手に魔改造しちゃったのに、シルヴェールの歌声とかで何かうやむやになってお金まで貰ってしまったこの状況。誰かに責めてもらわないと、いたたまれなさすぎてやばかった。しかし錬金術師ってそんなに珍しいのか。
「本当にすみません……」
「え? アイハは関係ないだろ?」
え?
「やったのはアイハちゃんの兄貴だろ?アイハちゃんは謝んなくて良いだろ」
「え、いや……」
違うんです、本人なんです。
「兄貴のやらかした事まで謝んなくて良いよ~。アイハちゃんも困った兄貴で大変だな」
「いや、ちが、わ、わたしも! わたしもその場にいたんです! 見てて止めなかったから!!」
必死で言うも、4人して「アイハは優しいな~」などと笑っている。
うああああ何だコレ!自分でやっておきながら人のせいにしてるとかオレ人でなしすぎだろう!しかもそれを庇って「優しい」とか言われるなんて!どんな計算高い女だ!!何これ、これも妖精の呪い効果なのか!?
「お待たせ~しました~~」
オレが焦って言い募ろうとしているところに、体の大きな作業員を引き連れたゆる職員さんが戻ってきた。ああああ弁解のチャンスが消えて行く……。
「? こちらが~4人が獲って来られたシェイバードになります~~ごかくにんください~~~」
作業員2人がかりで運んできたその鳥は、白い羽色に頭部分が青い羽根が混ざった70㎝くらいの大きな鳥だった。図鑑には写真なんて載ってなくて、簡素な絵だったから思ってたよりどっしりしていて大きい。こんなのが速く走るのか。怖。
「汚れた羽は洗って、血抜きは済ませていますので、すぐにでも解体出来ます。
かなり状態が良く、内臓の一部が使えない位で、素材としては他は全てお使いできると思います」
鳥を持っていない作業員が説明する。本人達も言っていたが、相当苦労してくれたのだろう。もう一度振り返って「ありがとう」と笑顔を作ると、スターリを筆頭にもじもじしてへらへらしていた。妖精の呪いが解けた時が人生の終わりにならない様に逃げねばいけないな。
「羽と嘴と皮が重要だから、そこと肉で6000Gプラス4000Gで10000Gですかね」
オレの計算に、ゆる職員さんも頷く。
「そうですね~~。既に2割の1200Gを~お預かりしているので~~~残り8800Gをお願いします~~~」
8800G……銀貨88枚か。日本円で17万6000円位。地味に痛いが逃亡の為、命の為には仕方ない。
オレが財布から金貨を取り出してお釣りくださいと言うと、ゆる職員さんが不思議そうな顔をする。
「アイハ様は~~商人ギルドに登録されてるんですよね~~~」
「? はい、してますが」
え、お金の払い方とかあったのかな?
「ギルドカードで~~お金を預けれるって聞いていません~~~?
ギルド関連の~支払ならそれで~~ギルドカードを使って~~~振り込めますけど~~~~」
…………聞いてませんけど?
商人ギルドに最初に登録した時の事を思い出してみるも、営業スマイルのお姉さんに登録料無くて「は?」て顔されたり、アガトさんとイーサンさん出てきて説明が切り上げられた印象がある。もしかして、全部説明されずにいたのかな。
「あ、それとも~~アイハ様は~現金至上主義の~~金貨集めるの趣味な方ですか~~~~???」
「違います!」
何その金の亡者通り越したお金オタク!
むしろ現金持ってるの怖かったわ!そのシステムめっちゃありがたいわ!ぜひとも利用させてください!!
そんな訳で、たちまち金貨1枚を渡して、お釣りはオレの口座に入れておいてくれると言って、ギルドカードを見知らぬ魔導具にスリットした。
こんな便利な機能があったとは……。商人ギルドだもんな、オレよりお金いっぱい持ってる人とかもいくらでもいるだろうから、持ち運び困るもんな。
「ちなみに~~冒険者ギルドカードは~~~ステータスが自分で見れて~~スキルの説明も出ます~~~」
あ、それはいいや。鑑定石自分で作るから。スキル説明も、もう少し制度上げたら出そうだし。そもそも大したスキル持ってないしな。
「それでは~~解体は1時間程掛かりますので~~~後でもう一度寄られるか~待たれます~~~~?」
どうしようかな、1時間くらいならカラばぁのお店行けばすぐ過ぎるし、逆に図書館に行くと足りない位だ。あ、それより
「その解体って、わたしも見学して良いですか?」
「え!? やめとけよアイハ。けっこうグロいから、お前みたいにか、かか、かよわ……慣れてない女だと倒れちまうかも」
グロ耐性はあまり無いんだけど、この世界で生きるには慣れておかなきゃいけないと思うんだよな。
何よりも……ゆくゆくは引きこもり自活生活の為、自分で解体出来る様にならなければいけない。
「いつかは自分で解体したいと思うから、見て覚えたいんだ」
オレに魔物や獣をやっつける事は出来ないだろうけど、罠を仕掛けて捕獲なら出来るかもしれない。電流とかだと毛や皮が焦げて素材として使えないから、キレイに捕まえる方法はおいおい考えなければいけないが、捕まえた獣を捌く為にも今から勉強しておきたい。
「構いませんよ~~~。では、奥の解体作業場にどうぞ~~~」
ゆる職員さんはそう言って、ギルドに戻って行った。素材の受け渡しはもう作業員との間で良いらしいので、彼女の仕事はここまでだったみたいだ。
4人の冒険者ももう良いから帰ってほしかったし、バスガス爆発トリオはお金が入ったので祝勝会と飲みに行ったが、気分が悪くなったらいけないからとスターリだけは断固として付いて来た。さすがにそこまでか弱くはない。血抜きしてるって言ってたし。血がブシャブシャ出てたらちょっとやばかったかもしれないが。
解体場は大きな魔物や獣もいる世界だからか、さすがに広かった。学校の体育館よりも広いかもしれない。
そのだだっ広いスペースの端の方の作業台で、2人の作業員さんが手早く羽を毟っていく。もちろん羽は大事な素材なので、ちゃんと横にあるカゴに入れていく。
進む作業を見つつ、必要な道具も確認する。そうだ、解体用ナイフもいるな。オレが今持ってるのって錬金術の作業用のちっちゃいナイフだけだもんな。作業員の使っているナイフを見ると、刃渡り15cmはある。
「……アレ武器屋に売ってるかな」
「アイハ、ナイフが欲しいのか?」
オレの呟きを隣にいたスターリが即座に拾った。そう言えばコイツに(アイハで)会ったのは武器屋でだっけ。
「うーん、欲しい……けど、わたしに使えるかな……」
何せステータスに【軟弱】と出るもんで。
「軽い素材のナイフとかもあるぜ。こ、この後見に行くなら案内するぜ?」
そうだな、あまり鉱石関係はまだ本で確認出来てないので、こちらの世界特有の鉱石なんかは分からない。詳しい人に説明してもらった方が早い。
「…………お願いしても良い?」
ちょっとあざといと自分でも思ったが、いかんせん身長差は元からなので、【上目使いお願い】をしてみた。
「まかせろ!!!」
やったね!コウカはバツグンだ!!
…………本当に申し訳ない気持ちはあるので、オレはスターリの幸せを少しだけ祈った。
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