レシピ49 ネガティブ錬金術師と解除薬
『そっかぁ、そんな事があったのね』
『ああ、マスターもかなりのショックを受けているだろうから、余計な事を言うなよ? お前はいつもろくに見もしないで的確に急所を付いて行くからな』
街外れの古臭く小さな家の中で、白銀の髪をほんのりと光らせた美しい妖精と、光そのものでありながら人型を保った光の精霊が顔を突き合わせて真剣に話をしていた。
議題はこの家の主、そして精霊の契約者についてだ。
色々
主人は一応こちらの世界ではあと2年で成人の年とは言え、見た目も中身もひどく幼い。その上、別の世界から事故によりこちらに来た、心も体も虚弱な少年だ。
その心もひどく繊細であるが故、今回の事にも大きなショックを受けたに違いない。
おかん……じゃなかった、契約精霊のクレーヴェルは心から心配し、こういった事案はあまり言いふらす物ではないと思ったものの、自分以外本当の少年を知るこの空気の読めない妖精に釘を刺しておく事にした。
『元はと言えばお前の魔法のせいもあるんだから、少しは責任の一端を感じ……いや、いい。やっぱり余計な事はするな』
『何よその私のやる事成す事全部裏目に出るから何もするなみたいな言い方は!』
『お前のその察しの良さはなぜ活かされないんだ?』
ちなみに主人である少年は昨日人型にマナを纏ったクレーヴェルが連れ帰ってから、作業場から出て来ない。
『でもあの魔法は前も言ったけど、「男性にちょっといいなと思われる程度」の魔法だからね? それがスキル化して更にレベルアップしちゃうなんて、問題は私の方じゃなくて、トモヤの方だと思うけどな』
『魔法さえかけなければ、こうなる事も無かった事を考慮して喋れ』
しかし、とクレーヴェルもいったん口を
次元の狭間に落ちた友也。
それにより人でありながら、マナを纏い、更にそのマナを自由自在にとまでは行かないが、コントロール出来る。
マナとは世界の生体エネルギーだ。
世界そのものの力と言っても良い。
精霊はそのマナによって構成された存在で、精霊魔法もマナによる力だ。
シルヴェールの使った創作魔法にも、その精霊魔法が組み込まれている。
(それによってもしや、精霊魔法……マナを
繰り返すが、マナとは世界の力だ。
その世界の力を操り、取り込む友也のそれは……まるで………………――――――――――
「あれ? シルヴェールまた来てたのか」
『あ! トモヤ!』
思考に夢中だったクレーヴェルは主人の出現に気付くのが遅れてしまった。
『マスター、その、もう出てきて大丈夫なのですか?』
『え、触れない方向で行くんじゃないの?』
動揺するクレーヴェルに、空気が読めない……基い、やはり読まないだけのシルヴェールが目を丸くした。そうだった、しまったと悔いる暇もなく、友也が口を開いた。
「うん!もう薬は完成したから!」
『『薬?』』
肉を食べた時と実験が成功した時にしか得られない満面の笑みを浮かべ、友也がじゃーん!と小瓶に入った赤い飴玉の様な物を取り出した。
「これを飲めば、変化薬で女体化中の時間がまだ残ってても、すぐに男に戻れるんだ!」
女の姿で襲われるなら、男に戻る手段を持っていれば大丈夫!
そう胸を張る友也に……
『…………さすがマスターです! これで一安心ですね!! あ、でも暴力は振るわれるかもしれませんので、すぐに助けは呼んでくださいね?』
『なるほどねぇ、材料は何を使ったの?』
生物としての表面上の人間の生態しか知らない精霊と妖精は手放しに誉め、胸をなでおろした。
ここに思考が腐った騎士がいたならば、「それで安全だと思ったら大間違いよ!!」と叫んだだろうが、残念ながらその場には子供と人外しかいなかったのであった。
◇◇◇
2度目の職人ギルドだが、
もちろん友也の姿だから微妙に裏道を使いながらの近道で来たので、10時を目標に来たのにまだ9時半だ。
現代日本の様に「何時開店」などと言う表記もないため、街の知識が相変わらず薄いオレは普通が分からない。あまり早いと迷惑だろうから、話を聞いてもらえる所か門前払い、更には不快感を与え職人ギルド除名という事もありうる。
職人ギルドカードを没収されたら図書館にも入れなくなるし、何より友也として唯一存在を認められている証を失くす事が怖い。
オレは物陰に隠れてしばらく様子を伺う事にしようと、影になる場所を探した。
立て掛けられた木材を見つけ、あそこにしゃがめば……と思った時に後ろで扉が開く音がした。
「あ」
「あ」
出てきた人物は、手にホウキとチリトリを持っていて玄関先の掃除に出てきた事を伺わせた。
見た事がある。
ずんぐりむっくりな体型で、身長はオレと同じくらい。茶色いボサッとした頭に、だんご鼻が特徴的で……耳が少し尖った男性。
あの時、カイサさんが真っ二つにした机を静かに片付けて行った人だ。……人じゃないかも。
男性はオレを見てペコリと頭を下げたので、オレもつられて下げる。いかん、ちゃんと自分から挨拶すべきだった。
「……用事?」
既に声変わりは終えたであろう大人の男性の声で少年のような体型の男性が尋ねた。
「あ、はい! え、オレの事覚えてます……?」
「ここに来る人……少ないから。あと……珍しい色」
男性はそう言って自分の体を避け、扉をアゴで指した。
「用なら、入れば?」
「お……お邪魔します……」
「ちょっとガイエン早すぎよ! ちゃんと掃除しなさいよ!」
「す、すいません!」
男性に促され恐る恐る中に入ると、突然怒鳴られビビビと体が固まり反射的に謝った。やっぱり早すぎた!?
「……あれ? ガイエンじゃない……お客さん?」
出会い頭に怒鳴りつけた相手は、オレの姿を認めてパチクリと目を瞬いた。
マリエルの金髪より幾分黄色っぽい髪を後ろで1つに束ねた、年の頃なら高校生位の女性で、まるっとした目でオレを見て、ハッとした様に顔を伏せた。
え? お、オレ何かしたかな!?
「ご、ごめんなさい……間違えました……職人ギルドへようこそ……です……」
さっきとは打って変った小さい声で下を向いたまま話すので、すごく聞き取りにくい。
いや、オレもあんまり人の事言えないんだけど。むしろ彼女の気持ちが痛いくらい分かる。
「いやあの、紛らわしい時に入って来てすみません!」
「いえ、お客様に本当にごめんなさい……っ!」
「オレの方こそ……っ」
「シータ、お客様ですか?」
終わらないオレ達のやり取りにふんわりと玄関左側のあの喫茶店の様なスペースから出てきたのは、副ギルドマスターのグエラ……グエラさんだった。今日も白髪をピシッと決め、でも柔和な雰囲気を纏わせてる老紳士だ。
「おや、トモヤ君ではありませんか。いらっしゃい」
「こ、こんにちは、ご無沙汰しています」
シータさんと呼ばれた女性とのやり取りでの焦りのまま頭を下げると、クスクスと上品に笑われた。
「そう畏まらなくともいいですよ。そうだ、ちょうどいいので紹介しましょう。シータ、ガイエンを呼んできてください」
「はい、グエラッツィさん」
扉から駆け出して行ったシータさんはすぐに、ホウキとチリトリを持ったままの男性を連れて戻ってきた。
「2人とも見た事はあると思いますが、先日登録してくださった錬金術師のトモヤ君だ。トモヤ君、こちらの女性がハーフリングで細工職人のシータ。職人ギルドの受付や事務業もしてくれている。そしてこちらが、ドワーフの家具職人、ガイエン。力仕事や雑務もやってくれている。2人とも職人ギルドの大事な職人であり、職員です」
「よ、よろしくお願いしますっ」
「……」
ガバッと頭を下げるシータさんと、無言でペコリと首だけ動かしたガイエンさんに、オレも2人の中間くらいの礼をし返す。
「あの……ハーフリングって……?」
聞きなれない言葉に、シータさんとグエラさんを見比べる。
「ご存じありませんか? ハーフリングは小柄で手先の器用な者が多い種族なのですよ。トモヤ君はヒューマンでしたよね? でしたら、寿命も君より長いので見た目通りの年齢ではありませんよ。シータは今年いくつになりましたっけ?」
「やだグエラさん! まだ29ですよ!」
29歳!?せいぜい16~18位だと思った! この世界の人は年より大人っぽい人が多いから、下手したら同じ位かと……。
「俺より年上……」
「1つだけでしょ!?」
ただでさえ人の年齢も分からないのに、そこに異種族とか言われたらサッパリだ……。
カイサさんも見た目20代位なのに、30年前からギルドやってるって言ってたし。何かもう怖くなってきた。
「ぐ、グエラさんは何歳なんですか?」
「…………60になります」
良かった、見た目通りだ!計算も合う!
なぜか間があってからの笑顔だったけど。
なぜか他の2人が「え?」て顔で振り返ってたけど、深くは考えない様にする!
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