レシピ18 ネガティブ錬金術師と錬金術屋2
マジックバッグもあるので、ひとまず買い物を済ませたいのだが、優先順位で言うと食料だ。高い錬金術アイテムを買いまくって、肝心の食料が買えなくなっては意味が無い。
まずは肉。その概念を忘れてはいけない。
以前も行った露店が並ぶ通りに行くと、相変わらずの活気に押されそうになりながらも、金髪美人女史の言葉を思い出し歩を進めた。
考えてみれば、露店商の人達も商人なのだ。商人としてちゃんとすると決めたからには、こうして直接触れる機会で学べるものは積極的に学んでいかなくては。
決して人と接するのを必要最低限にしようとかは考えていない。
さて、まずは何かな。マジックバッグがあるから重い物も
「そこの可愛いお嬢さん! おいしいよ~食べてって!!
お嬢さん! 君、君だよ! そこのツインテールのお嬢さん!」
よく聞く呼び声に、そのまま素通りしそうになったが、どうやらオレの事だったらしい。そうだ、妖精の呪いがあるんだった。
振り返ると、恰幅の良い髭のおじさんが笑顔で手を招いていた。おじさんの手前の机に並ばれているのは……肉だ!
オレは急いでおじさんに駆け寄った。
「いらっしゃい、おいしいピグーの肉だよ! お嬢さんカワイイからオマケしちゃうから買って行かないかい?」
ピグーはこの間も買った豚肉っぽいやつだな。
買う買う!即答しそうになったが、そこでふと思い出す。そうだ、商人として学ぶんだった。
「……どの位オマケしてくれる?」
「今なら500ポンドで15Gのところを、12Gで良いよ!」
ポンド……?重さの単位か。
うーん、とりあえず見た所厚切りロースが2枚ってところか。12Gって言うと240円位。うーん、まぁまぁ安い……のかな?前回の買い物の時あんまり値段気にしてなかったからなぁ。
とりあえず交渉してみよう。
「1500ポンド買うから、もう少しマケて」
「おっ!? お嬢ちゃん家大家族だな。それともどっかの店の買い出しかい?」
オレの提案におじさんはそう解釈したが、正解は一人暮らし+精霊時々妖精with冷蔵庫だ。あ、そう言えば冷凍庫も作らなきゃだな。
「うん、これからも時々買いに来たいんだけど……」
自分が売る側だったらと考えたら、やはりこれからも買いに来てくれる客は掴んでおきたい。かと言ってマケすぎて今後もあの値段にしろと言われたら困るから、ギリのラインを教えてくれるはずだ。
「そうかそうか、うん、それなら1500ポンドで40Gでどうだい?」
ちょっと安くなった。初めだし、そんなもんかな。これ以上交渉して機嫌を損ねて逆に高くされたり売ってもらえないと困る。
「分かった。あと捨てる部位とかあったら貰える?」
肉屋さんでは牛脂とかタダで配ってるもんな。ダメ元で聞いてみた。
「ハハッしっかりしてるお嬢ちゃんだ! 待ってな、持ってくるからよ」
そう言って一度奥に引っ込んだおじさんが大きめの麻袋を持って戻ってきた。
「ピグーの内臓と骨だ。地方じゃ内臓は珍味らしいが、この辺じゃ食わねえからな。こんなんで良かったか?」
「うん、ありがとう」
豚の内臓とかは、火さえ通せば普通に食べれるはずだ。
もし毒や腐敗していても、鑑定で見れば分かるから大丈夫。骨も何かに使えるかも。
オレはお礼を言って、肉と内臓と骨の入った麻袋を受け取った。どうでも良いけどビニール袋欲しいな……。マジックバッグあるけど、やっぱり衛生的に気になる。日本育ちなもので。
「ほう! お嬢ちゃんマジックバッグ持ってんのか」
麻袋を肩から掛けたマジックバッグに詰めるオレに、おじさんが感心してた。あ、そうかレアアイテムなのか。
あまりおおっぴらに使うのは良くないかもしれない。
もしも悪い奴らに見つかったらスリに遭うかもしれない。いや、それどころか人気の無い所でオレはボコられるか殺されるかして奪われるかもしれない……。
なるべく買った物は隠れて入れよう。
そんな教訓も胸に、オレはなかなか有意義だった肉屋のおじさんに別れを告げた。
その後、野菜類とパン、小麦と豆を買い込んで路地裏でこっそりマジックバッグに入れたオレは 次は錬金術アイテムのあの店に行く事にした。
前回はイーサンさんの視線がジャマでなかなかゆっくり見る事が出来なかったからな。ついでに今回は軍資金もある。オレは新しい工具を買いにプラモ屋に通ってた時みたいなワクワク感で店を目指した。
相変わらずの不思議な雰囲気の店に気後れしながら扉を開ける。
ギイッという軋んだ音と共に、薄暗い店内に明かりと共に入る。前来た時と同じ、物に溢れた店内。人はいない。よし、落ち着いて見れる。
素材も道具も欲しいけど、まずは本かな。持ってない本を置いてないかと店内を見渡すと、こじんまりと本を集めた小コーナーの様な所があった。
ずいぶん年季の入った古本に並んで、ボロボロの紙を束ねただけのものもある。オレはゴーグルを掛けて、薄暗い店内でちょっと見にくかったが物色した。あ、今度暗視機能も付けるのも有りだな。
「これは……誰かの研究ノートか? こっちは、辞典の写しぽいな」
「おやハダマ語が読めるのかい」
……息が止まるかと思った。
それより飛び上がった拍子に棚の商品を落としそうになって更に慌てた。
「あんたこないだアガト坊やと来たお嬢ちゃんじゃないかい。若いのになかなか勉強しとる様じゃね」
オレの心臓を止めかけたこの店の店主である小さなおばあちゃんは、そう言って朗らかに笑っていた。
「あ、えっと……」
「ハダマ語が読めるなら、こっちの本なんかもどうだい? なかなか有意義な事が書いておる」
おばあちゃんはオレの動揺など一切関せずどんどん話を進める。てゆーかハダマ語って……もしかしてこれに書いてる文字は、この国の言葉じゃなかったのか。
翻訳機能の付いたゴーグルでは、すべての言語を翻訳してしまうから違いが分からない。せめて文字の形体だけでも確認してから見れば良かった。
「ん? ん~~~~~?」
棚から次々と本を取り出していたおばあちゃんが、改めてオレに目を留め、それから目を細めて凝視してきた。てゆーか近い。めっちゃ近い。なんか怖い。
「おやまぁ! これはまた、珍しいアイテムを身に付けておる! これはお前さんが作ったのかい?」
「え、何の事……」
「この目に付けとるもんじゃよ。これで翻訳して読んだんだね?
ほぉほぉ、これはまた珍しい素材を使っとる……」
「分かるの!?」
え、もしかして【鑑定】スキル持ち!?
「フェフェ、何百年この仕事をやってると思ってんだい。大体は分かるよ」
何百……?何十年の聞き間違えか?いや、このおばあちゃんなら何百年も生きてると言われても納得出来てしまいそうなんだが。それはともかく
「えっと……」
「カラばぁでええよ。皆そう呼ぶ」
「カラ婆は錬金術師なんですか?」
「いいや?」
カラばぁは小さな体を揺らして笑った。お肉サマ相手の時は辛辣なイメージだったが、案外気安いのかもしれない。
「昔ちょっとかじった事もあったが、私は作るよりもこうして知識と道具を揃える方が好きでね、性にも合ってる」
この小さな店に所狭しと置かれた商品の数々を全てカラばぁが集めたという事は、商人としてもすごいんじゃあないだろうか。
「だから目利きにも自信があるよ。アンタの身に付けとるアイテムは、どれも錬金術で作った物じゃろ」
「あ……う……」
こんな見透かした目で年長者に断言されて、オレは言い訳が思いつかず二の句を告げずに口から音を漏らす事しかできなかった。
「あぁいい、いい。分かっとる。
そんな年若いお嬢ちゃんじゃ色々弊害もあるじゃろうて。そんなアイテム使うって事は、この国の
しかしカラばぁは訳知り顔で頷く。
”お嬢ちゃん”以外はその通りなので何とも言えない。女体化は薬でだから分からないのか。
わざわざ性別を偽っている事を言うのは憚られたので黙っておく。
改めると「オレ実は男だけど、色々動きやすいから女になってます」とか、我ながら変態だ。今のこの友好的な空気も一瞬で凍りつく事だろう。
「そ、そうなんです。遠くの国から来て、まだこの国の事もよく分からなくて……図書館とか本屋があれば行きたいんですが」
ひとまず話に乗って、目標の図書館の情報を得ようとする。
「そりゃあ良い心掛けだ。小さな町じゃ図書館なんて無いだろうけど、ここは城下町だからね。
ギルドの道を北東に進むと、大きな建物があるから行ってごらん」
「ありがとうございます」
心から感謝してお礼を言ってから、カラばぁオススメの本を手に取る。
「あ、これいくらですか?」
「金貨1枚だよ」
うぼ!?
え、これ1冊で4人家族1か月分の生活費!?
マケてもらおうにも、こんな高い物マケてもらって良いのかと躊躇う。
あるけど。買えるんだけど何冊か買って帰ろうと思ってたけど、1冊ずつくらいが無難だろう。錬金術マジで金掛かる……。あ、そうだ。
「ここってペネの実って置いてます?」
「ペネの実? あぁ、昔は置いてたんだけどねぇ、ここ数年は見てないね」
「え!」
昔はあったって事は、この辺でも採れたけど最近は採れなくなったて事か?まさか絶滅……!?え、やばい。やばいぞ。アレがないとアイハになれないんだけど!
どこか違う土地でなら……もしくは何か別の物で代用出来ないか試すべきか?
最大の目的であった物は手に入らなかったが、本を1冊と素材をいくつか、それから金属を加工する時の道具を購入出来て図書館の情報を手に入れておおよその目的は達成出来た。
ペネの実の事はショックだったが、変化薬はまだある。最悪、それまでにアイテムを全て手に入れて自給自足生活を整えれれば、町に出なくても暮らしていける。……悪くない案だ。
新しい生活案に少しウキウキしながらカラばぁに別れを告げて、店を出ようとドアに手を掛けた。
「……っと、気を付けろよ」
外に引くタイプのドアが触れる前に消え、代わりに現れたのは胸板で、店の外に出ようとした勢いのまま突っ込んでしまった。
声の主はぶっきらぼうにそう言って、オレの体をペイッと外に投げる。
コケそうになった体を何とか支えて振り返ったら、扉は既に後ろ手に閉められかけていた。
その隙間から見えたのは、いつぞやの……
緑のターバンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます