レシピ16 ネガティブ錬金術師と四人の騎士

 クレーヴェルと共に森に入り、さっそく辺りに生えている草に照準を合わせる。


名前:ラズール草

効用:食用可能。苦い。麻痺を和らげる効果がある。


「おおおっ! 出た出た!」


 これがあれば図鑑いらずで、錬金術の材料集めるのも簡単だ!

やったー、すごい便利!


 オレは調子に乗って次々に鑑定をしては、材料になりそうな物を採取していく。

薬草、毒消し、麻痺消し、冷却石、発熱石、おっアカリ草だって!暗くなると光るのか、ランプの材料になりそう!


すっかり浮かれたオレは、鑑定ゴーグルの操作に夢中になっていて、辺りの気配に気付いていなかった。



「何でこんな所に子供がいるんだ!?」


 いきなり聞こえた人の声に身構える暇も無く腕を掴まれた。え?え?

 掴まれた方向に振り返ると、大男がいた。


 いや、ちがう。オレから見たらデカいだけで人間だ。てゆーか見覚えがある。この人あれだ。初めての時もこうやって腕を掴まれた。


「トモヤ……だったな。こんな所で何をしている」


 騎士様だ―――――!!


 あの人の話聞かないゴウイングマイウェイの騎士様だ――――――――――!!!!


 オレのトラウマ2号キタ―――――――!!!!!



 恐慌状態に陥ったオレは固まるしかなかった。


「ジェレミ! 確認もせずに手を出すな! 魔物だったらどうする‼」


 あとから追いついた紺色の髪の男が叫んだ。最初の大声もこの人だったみたいだ。

 その声に我に返って2人の姿を見ると、お揃いの鎧を着ている。この人も騎士って事か……?

「知り合いだ」

 それに騎士様が言葉少なに答える。

「知り合いィ!? こんな森中にいるあやしい子供がか?」

 騎士様がそれに答える前に、同じ鎧を着た男が1人と女が1人現れた。どんどん増える。人に会う心の準備など丸っきりしていなかった中この人数はキツい。てゆーか騎士様1人でもキツいのだが。


「……とりあえず、休憩所に戻ろうぜ」

 後から現れた茶髪の柔らかい雰囲気の騎士の提案で、オレは有無を言わせず引きずられた。抵抗しようものなら騎士様に抱え上げられそうだったので、オレは仕方無く、歩幅が違うせいでもつれる足で付いて行った。


 連れて行かれたのは、森と平原の境目とも言える場所で、そこには一目で『良い馬』って感じの馬が4頭繋がれていた。騎士たちの馬だろう。

どれも賢そうな目と美しい毛並だった。価値的にはオレより上だろうと思う。


「それで? 貴様はなぜ森の中を闊歩していた」

 高圧的な態度を隠そうともせず、紺髪の男がオレに詰問した。

なぜ森の中を歩いていただけで、責められなければならないのか。

「あー、森は魔物や危険な獣もいるからね。君みたいな子供が1人で歩いちゃ危ないだろ?お父さんかお母さんは?」

 答えられずにいるオレに、茶髪騎士がしゃがんで優しい声を掛けた。完全なる子供扱いだった。

森に魔物や獣が出るのは予想していたが、クレーヴェルの大丈夫だと言う範囲のみまでしか行っていない。もしもの時はクレーヴェルの転移魔法で逃げるし。


「……子供じゃない……です。森には薬草を探して入っていました」

 相手は騎士だ。無礼だと叩き切られるのは避けたい。

そう思って、なるべく丁寧に答えた。

「子供ではない!? そんな小さいなりして何を言っている!? どこもかしこも細っこくて、生まれたての馬の方が力強い。

 おまけにローブもゴーグルも脱ぎもしない。あやしい奴め!」

 紺髪の騎士がそう言ってオレのフードに掴みかかろうとしたが、その腕を騎士様が掴む。


「……ジェレミ。何だこの手は。

 お前はこの怪しい子供を知り合いだと言ったな? 大方お前が支援している孤児院の子供だろうが、だからと言って庇い立てするのは筋が違うぞ」

「……違う。トモヤは本当に子供ではない。

 年は14で錬金術師として生計を立てている」

 よく年齢まで覚えてたなと感心するが、騎士様はあまり変わらない表情の中真剣な眼で紺髪騎士に返答する。それに更に何か言いつのろうと眦を上げた紺髪騎士だったが、それは茶髪騎士に阻まれた。


「……本当だ。その子そのナリで14歳の錬金術師みたいだよ」

 なぜ初対面の茶髪騎士がそれを言い切るのか疑問だったが、あとの騎士たちがその言葉に納得した風に見えた。茶髪騎士はオレを見ている。

もしかして……


「…………鑑定スキル?」

 オレの呟きに、茶髪騎士は困ったように笑った。

「と言っても、レベルは低いから基本的な事しか見れないんだけどね」

 いや、そうじゃない。レアスキルだから珍しいだろうが、そうじゃなくて……


「鑑定って、本人の了承無く勝手に見て良いものなの?」


 ステータスなど思いっきり『個人情報』じゃないか。それを本人の許可無く覗き見るのって有りなのか?そう思ってオレもこの人達の事は

それだけではなく、【鑑定】した事がバレるとマズいのではないかと思ってたのだが、【鑑定】されたオレは少なくとも何も感じなかった。

そうなると【鑑定】スキル持ちの覗き見放題になってプライバシーも何もあった物じゃ無いじゃないか。有りなのか?それ。


「貴様があやしいからに決まっているだろう。

 我らは王国騎士団。国の怪しい者を見つけたのなら、その力を持って暴くのは当たり前の事だ」

 そう言って紺髪騎士はふんぞり返る。

茶髪騎士は更に眉を下げたが何も言わない。

 それってつまり、権力持ってるから、本当は駄目だけど勝手に視ても良いんだって事?

 何だ。


 オレは迷わず紺髪の男を選択した。その後、茶髪騎士。女騎士。最後に騎士様だ。


名前:ノーブル=ハリス

年齢:22

職業:王国騎士

資格:騎士・侯爵令息

スキル:貴族の佇まい・高圧・剣技Lv3・火魔法Lv.2

装備:貴族の剣

   騎士の鎧

   金の腕輪

   家紋の守り


名前:グラース=ジーニ

年齢:24

職業:王国騎士

資格:騎士・子爵令息

スキル:話術Lv3・剣技Lv.2・水魔法Lv.2

固有スキル:鑑定Lv.1

装備:騎士の剣

   騎士の鎧

   水のペンダント


名前:リズボン=カランドラ

年齢:22

職業:王国騎士

資格:騎士・男爵令嬢

スキル;高潔Lv.2・剣技Lv.3

固有スキル:精霊眼Lv.1

装備:騎士の剣

   騎士の鎧

   羽のブーツ


名前:ジェレミ=ドミノフ=ガルシン

年齢:22

職業:騎士・公爵令息

スキル:貴族の佇まい・剣技Lv5・子守Lv.2・危険察知Lv.5

装備:騎士の剣

   騎士の鎧

   光の腕輪

   家紋の守り


 全員貴族……!そんでもってスキルの多さに眩暈がする。

 あと騎士様の【子守】ってのもめっちゃ気になるけど、女騎士の【精霊眼】って何だ?精霊が見えるのか?え、でも今現在オレのそばにはクレーヴェルがいるんだけど、何も言われないな?Lv.1だから?

詳しく視れないか、女騎士のスキルを選択しようとしたら、肩に騎士様の手が置かれた。ビクッとして見上げると、騎士様はジッとオレを見ながら緩く首を振った。え?


もしかして……【危険察知】ってやつ?

それでバレちゃうの?バレないと思ったから視たんだけど、バレたらどうなるんだ?しかも相手は王国騎士。その上全員貴族とか、オレ不利すぎない?ひっ捕らえられちゃう感じじゃない?

 しかし騎士様はそのまま他の人達には何も言わず、視線を逸らした。と言っても、なぜか方には手が置かれたままだ。まるで「逃がさない」とでも言われている様で冷や汗が出る。


「分かっただろう?」

「だが、錬金術師など職業自体があやしい! あんなものは自称で怪しげな薬や道具を作る奴らが多いではないか!

 そもそもローブとゴーグルを外さない理由にはならない! 無礼だぞ小僧!」

「まぁそういう輩がいない訳じゃないけどさ、子供みたいに小さいんだから、そう目くじらを立てるなよ」

 依然とがなり立てる紺髪騎士に、鑑定騎士が宥めに掛かる。

 そこにずっと姿勢良く皆を観察していた女騎士が首を傾げた。

「さっきから、やけに拘るけど、貴方この子の顔を見たい理由でもあるの?」

「なっっっ!!!」

 女騎士の言葉に、紺髪騎士が一瞬固まるも、続いて怒涛の反論を始めた。

「そんな訳があるか! なぜ私が! こんなちんちくりんの! 怪しい錬金術師もどきの少年の顔が見たいのだ!!」



◇◇◇◇◇


 リズボンは自分の一言に顔を真っ赤にして反論するノーブルを冷静な眼で眺めた。

ノーブルはプライドが高く感情が出やすく高圧的だ。ある意味分かりやすい男とも言える。

そっくりなのだ。彼の少年への絡み方が、ジェレミに対するものと。


 ノーブルはジェレミが嫌いではない。そんな事は周知の事実であった。

ライバルとして見てほしくて絡みまくるのだ。もはや恋情を超えた執着にも見えた。

そんなノーブルが、初対面の少年に出自や顔を教えろとしつこく迫っている。

怪しい者に対する騎士の尋問にしては、質問の方向性が少しおかしい。お前それただ顔が見たいだけだろう。

 一方のジェレミは元から少年を知っていた様で、強引に保護してきて執拗に少年の手を離さないし、グラースも元々誰に対しても優しい態度だが、更に態度が軟化している気がする。

微妙な違和感がリズボンに付き纏うが、それ以上に少年にうっすら見える光も気になる。


 リズボンは生来【精霊眼】を持っており、精霊の存在を認識出来る。

高レベルの者になるとその精霊の種類や強さも詳しく見えるらしいが、リズボンはうっすら存在を感じ取れる程度だ。


それでも少年から感じられる精霊の波動は、今まで感じた事が無い種類のもので戸惑っていた。

だが精霊の加護を受けているのなら、少年は魔物や悪人の類ではないだろう。なのでリズボンはその事には触れずに、おかしな同僚達を眺めるに留まった。



◇◇◇◇◇



 どうしてそうなるのか、なぜかオレは今、貴族騎士様方と一緒にお昼ご飯を食べています。苦痛です。便所飯の方がマシです。

 そう言えば昼休憩と摂る所だったんだと言われ、携帯食を差し出されたので、弁当を持って来てるから良いですと答えたら、なぜか一緒に食べる事になっていた。

オレへの取り調べじみた問答を、なぜか騎士様からのフォローを受けつつ、朝作ったカツサンドを頬張っていると、いつの間にか紺髪騎士が近くまで寄って来ていた。

な、何!?

「それは何だ」

 紺髪騎士がカツサンドを指さしている。正確にはカツではなく、町で買ったピグーとかいう動物の肉だが。


「え……と、ピグーの肉を油で揚げて、パンに挟んだ物です」

 ソースは町で買った物にオレが更にアレンジを加えたピリ辛中濃タイプだ。

「ふむ……1つ貰ってやろう」


 え?


 言葉の意味を理解する前に、紺髪騎士の手がオレの弁当箱から1切れのピグカツサンドを攫って口に含んだ。

「!これは……なかなかだな……」

 え、何してんのこの人。

「どれどれ~? おっ! 本当だコレは美味い! ジェレミも食べろよ」

「ああ」

「ちょっと止めなさいよ……意地汚い」

「そう言わずリズボンも食べてみろよ。初めて食べる味だが、リズボンの好みの味だと思うぞ」

「え、それじゃあ少し……」


 マジで何してんのこの人達!!?


 あっという間にオレの弁当箱は空になり、俺の口に入ったのは最初の1切れだけだった。


 何なの!?騎士って何なの!?貴族ってそんなに偉いのか!?人の弁当勝手に食べて良いほど偉いのか!!!??


 しかも全然悪気無い!むしろにこやかに美味しかったよなどとしゃあしゃあとのたまう。紺髪騎士に至っては、また食べてやっても良いなどとふざけた事を抜かしている。


騎士様だけ、オレが食べる分が無くなったのに気付いて自分の持っていた携帯食を差し出してきたが、スーパーいらねーよ!!

 この自分たちが良ければ良いといったリア充特有の感覚!一番苦手なやつだ!


 もう最悪だ。

やっぱり外何て出るんじゃなかった。


 いや、人間に見つかったのが失敗だった。

もしくは見つからない様に隠れれる方法か見つかっても逃げ切る方法を見出すまでは出るべきじゃなかった。


 オレは我慢の限界に来て、しかし目立つのは避けるため、送って行ってやろうと言う騎士達の隙を見て逃げ、森に駆け込んで即行クレーヴェルの転移魔法で帰った。


 貴族なんてキライだ。




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