レシピ5 ネガティブ錬金術師と商人ギルド

 勢いよく駆け出したくせに、ある程度進んだところで赤毛は急に手を離してワタワタし始めた。

「わ、悪ぃ! て、手…痛かったか?」

 貧弱なオレには結構痛かったけど、そこを突いた所で円滑な会話は望めなくなるだろう。それにオレの手首には、この姿……アイハ用に作った翻訳の腕輪が着いている。前回石が大きくて目立った様だったので、石を溶かして腕輪全体に伸ばした細身にしている。それでも前回見られたのもあるので、気付かれるかもしれない。なるべく手に注目されたくない。


「平気……」

 さりげなさを装って手首を隠す。

「ご、ごめん! お詫びに何か奢るぜ!? 何か欲しい物とかあるか?」

 欲しい物は山ほどある。服に、靴に、紙に、ペン、調味料、パン、肉、米、牛乳、肉、お菓子、肉、魚、肉、肉、そして肉だ。

あと錬金術に使う道具や素材も欲しい。新しい本も。

しかし何を選んだところで、他人にタダで物を貰う怖さより欲しい物は無い。

あとから何を要求されるか分からない。

しかも前回”乞食”呼ばわりされたのだ。物乞いなどもっての外だ。

「あるけど、自分で買うからいい」

「え、そう……?あ、服買いたいって言ってたよな?安くて良い所知ってるから案内するぜ!!」


 結局、強引に案内された店は確かに安くて無難な服が多い店だった。

とりあえずの着替えと、部屋着もいるし、あ、忘れちゃいけない友也の服もいるんだ。2人分か、なかなか痛い出費だが仕方ない。

「似合う!めっちゃ似合うよアイハ!!」

 赤毛に勧められて買った服に着替えた。

 七分袖の白いシャツに、茶色のショートパンツ。柔らかい革製のブーツも買った。

白いシャツって汚れそうだし、ショートパンツも足出してたら虫に刺されそうで嫌だったが、赤毛の猛烈プッシュを拒めずこれになった。まぁスカートは抵抗があるし、とりあえずはこれで良いか。虫よけの作り方って載ってたかな。

その他に、着替え用に数着、友也の分と合わせて買った。

途中、赤毛に「それ男物だぞ?」と言われたが無視した。


「あとは、薬売りたいんだっけ?」

「そう。回復薬。それで食料買いたい」

 むしろそれがメインだった。

服だけでかなりの荷物になってしまったので、そんなに沢山は買えないだろうけど、とりあえず肉を食べるのが目的だから良いか。

ちなみに今現在買った荷物は赤毛が持ってくれている。これ持ち逃げされたら今また無一文だからキツイので断ったのだが、赤毛がしつこすぎて負けた。でも回復薬の方は渡さなかった。

「それなら俺の知り合いに魔導具屋がいるから……」

「いやだ!!」

「へ?」

 それアレだろ?絶対あそこだろ!?あの緑ターバン店主の店だろう!!??


トラウマがよみがえる。あそこだけは嫌だ。絶対に嫌だ。

あそこに行くくらいなら肉喰わずに帰る。


「こ、個人の魔導具屋って何か敷居が高くて……。大した物じゃないから、その辺の店で良いんだけど……」

 しどろもどろに言い訳してみたが、赤毛は単純だった。

「そっかー!そうだよな! 俺も冒険者なりたての時は入りにくかったなー。

 そんじゃギルドに行くか」

 ギルド?

「ここの町って、商人ギルドと冒険者ギルドが併設してあってさ、誰でも出入り出来るし初心者にも優しいから行きやすいぜ」

 赤毛曰く、商人ギルドに売られた物が冒険者ギルドに流れ、探索や移動に出る商人が冒険者ギルドに護衛を頼むなど、上手い事持ちつ持たれつで成り立っているらしい。

 商人ギルドで商人登録をしておくと、他の店で売買をする時にも有利だとか。

 なるほど、オレは錬金術で作った物を売って生活していきたいから、アイハの方で商人登録しておくのが無難かもしれない。良い事を聞いた。






――――と、思っていた時代がオレにもありました。

 商人と冒険者と依頼人が集まるって事は、それだけ人が多いって事じゃないか!    

 しかも8割男!


 そして、オレには妖精の呪いが…。


「おいスターリ!その子誰だよ!紹介しろよっ!!」

「彼女、依頼に来たの?俺とかどう!?」

「俺と一緒に冒険に出よう!!」

「うるせえっ!散れ野蛮人共!!」

 マジで妖精の呪いこええんだけど!!

 赤毛と知り合いらしいムキムキのでかい男どもが我先にと声を掛けてくる。単純にこわい。

 ついでに積極的ではないらしい商人や他の冒険者の男共もチラチラこちらを見てくる。

そして突き刺さる、女性陣からの不穏な視線……。

違うんです、そんなつもりはないんです。呪いなんです、これ。オレも被害者なんです。闇討ちとか止めてください。


「すみません、商人登録をしたいのですが……」

 冒険者共の相手は赤毛にまかせて、オレは女の人の受付を狙って駆け込んだ。

「……はい、商人登録受付ですね!ありがとうございます!」

 一瞬の間でジロッと見られた後に、営業スマイルで答えてくれる受付のキレイなお姉さん。

そうかこの笑顔には心が欠片もこもってないのだな……今後こういう笑顔を見るたび、思い出して泣きたくなりそうだ。


「商人登録には入会費と年会費が掛かります。

 入会に銀貨1枚、年会費に銀貨2枚必要となります。この年会費はランクによって変わってきます。

 ランクは、商人ギルドへの貢献度、もしくは年収によって変わってきます」

 ランクによって受けられる恩恵も違うらしいのだが…待ってまず入会費に年会費!?


お金ならさっき使っちゃって再び無一文なんだけど!!

売る前にお金がいるなんて、思いもよらなかった。どうしよう。

「えっと、入会せずにアイテムを売る事も出来ますか?」

「……えぇ、出来ますけど、その際の金額は1割ギルドに納めていただく事になりますし、その売買につきましては、後日ギルドに入会されたとしても、年収貢献度には反映されませんよ」

 お姉さんは一瞬「は?」て顔をした後に説明してくれた。

そうだよね、入会したいって言っておいて何言ってんだコイツ?てなるよね。うわどうしよう。

「何だアイハ?入会費払えないのか?」

 よく通る声してやがる赤毛が、オレの恥ずかしい場面に気付いてしまった。

「何だよ言えよ!貸してやるって!」

 あれコイツもしかして救世主かな?

イヤイヤイヤ!!そもそもコイツの説明不足の案内でここに来て赤っ恥かいてるんだから心を許すな!借りは作りたくない!いやでも登録してから売らないと売上減るし、今後にも影響が…。どうすべきなのか。



 ぐるぐると悩んでいると、遠くの方でざわめきが起こった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る