ネガティブ錬金術師の二重生活
八月八
序章 ネガティブ少年、異世界に落ちる
レシピ0-1 ネガティブ少年と異世界の廃屋
俺の名前は青葉徹!
公立の中学に通う14才だ!
部活はサッカー部で、顔は女子にはイケメンとかからかい交じりによく言われる。勉強は今のところ問題なし。
クラスでは結構中心的存在かな。友達は多い方だと思う。
俺の周りの奴らは皆いいやつばっかで、楽しい学園生活を送っている。
これからの中学生活にもワクワクが止まらないぜ!!
以上がオレの幼なじみの紹介である。まさにリア充。物語の主人公にふさわしい存在だ。
オレ?オレの事を知りたいの?あなたはとてもものずきですね。
オレの名前は相原友也。
中学2年。人科。顔、平凡。成績、中の下。運動、出来ない。友達、いない。クラスの幽霊メイト。虫。いや、虫以下。これからの人生なんて何の期待もしていない。
幼なじみとの共通点なんか「人間」「オス」「イニシャル」くらいだ。生きててすいません。
ついでに言うと中学2年になった今でも身長は160センチに遠く及ばない。
「どうせ大きくなるから」と親が買った学生服と体操着は、いまだブカブカだ。
「何を勝手に人の紹介して、自虐言ってんだ」
さっきまでクラスメイトに囲まれて大笑いしていた徹が、オレの机の前で呆れた様にため息をついた。
ちなみに徹は小4まではオレと大して変わらなかったのに、今ではぐんぐん伸びて170センチを超えた。話す時に首が痛くなるからこれ以上伸びないでほしい。むしろ話しかけないでほしい。
「何でだよ!俺ら幼なじみだろ!?」
当然の様にオレの前の席のイスに座って徹が怒っている。
それだ。そういう事出来るのが学園ヒエラルキーの上の者の証なんだよ。
オレなんて人の席に勝手に座ろうものなら、その席の人間が眉をひそめて席を取り返しに来るだろう。
「友はいつも考えすぎだなー」
オレとは違う種類の人間である徹が、そんな風に笑って言った。
人としての格というのは生まれた時から決まっていると、オレは思う。
努力すれば報われるというのは幻想で、努力した事によって得られる物はその人の枠の範囲内なのだ。
オレは物心ついた頃から、母親同士が友人だったという理由で、この生まれながらのリア充と成長を共にし、自分の格を思い知ったのだ。
女子は徹と仲の良いオレを疎ましく思うか、橋渡しに使うか。
男子もさほど変わらず、むしろ徹の親友は俺だ!て輩も多い。
オレは一度たりとも徹の親友を主張した事は無いのだが、あいつらはオレを目の敵にしてくる。
たとえこの先の人生、このハイスペック幼なじみと道を別れた所で、オレの立ち位置は変わらないであろう。
むしろハイスペックゴールド幼なじみを失った事により、ますます存在を埋没させるであろう。虫にもなれない。ミジンコだ。いや、節足動物は言いすぎた。微生物だ。ミトコンドリアレベルだ。
潜在的ミトコンドリアなオレは、今日もいつも通りの何の変哲もない一日を過ごし、帰路に着く。
家庭的にも平平凡凡だ。サラリーマンの父とパート勤めの母と優秀な3つ上の兄がいる県営住宅住まいだ。
4階の我が家で今日も趣味のプラモデルでもしよう。
こういう一人でチマチマする作業が好きな正真正銘の陰キャがオレである。
そんな事を考えながら、県営住宅のエレベーターに向かうも、点検中で動いていなかった。
相変わらずのツイてなさだ。
平常運転だ。ミトコンドリアが文明の利器を使おうとしたバチが当たった。神様すみません。階段で上ります。
自分を戒め、階段をえっちらおっちら上っていると、上にベビーカーをどうにか持ち上げようとしている女性が見えた。確か同じ階の奥さんだ。
そこでオレは考えた。
ここにいるのが徹なら、即イケメンスマイル付きで手を貸すのだろうが、こちとらミトコンドリアだ。声を掛けようにも、話した事も無い人に何て言ったら良いか分からない。
オレなんかに手伝われても迷惑かもしれない。
むしろ赤ちゃんに悪影響がとか思われるかも。
しかし手伝わずあれを追い抜いて階段を上がるとする。
そうすると、何だあのガキ。困ってるのが見えないのかクズ野郎、と思われるかもしれない。
どうすべきか。何が一番不快にさせない方法か。
ぐるぐると考えを巡らせていると、ふと視界に何かが入った。
(あ…)
タイヤ。
ベビーカーだ。
え。
赤ちゃん。
赤ちゃん落ちてる?
え、死ぬじゃん、そんなの。
とっさに手を広げてベビーカーを受け止める。
もちろんこの貧弱なミトコンドリアでは勢いを殺す事など出来ずに、そのまま共に落下する。
でもオレがクッションになれば赤ちゃんは落ちずに…
「え」
視界の端に、同じ階の奥さんが見える。
腕には水色のベビー服を着た赤ちゃん。
あ、はい。
そうですよね。
赤ちゃん乗せたままのベビーカーを一人で持ち上げるなんて、危ない事しませんよね。
はい
ミトコンドリア
撃沈
■■■
目が覚めたと思ったら、遠くに喧騒が聞こえる。
朝からそんな騒がしいなんて、何だろう。今日は県営住宅の清掃活動の日だったかな?
やたらと固まった動きにくい体をどうにか動かして起き上がるも、手には冷たい感触。石?ん?
上を見ると石造りの建物に挟まれた狭い空。んん?
石の上なんかで寝てたら痛いはずだわ。いや、違う。
オレは確か、マンションに帰ってる途中に上から降ってきた無人ベビーカーを、間抜けにも受け止めようとして、そのまま落下。
…そこまでしか思い出せない。
まぁ普通に考えて死んだか、怪我して入院だろう。なのに体には傷一つ無い。どういう事だ?
そうすると……夢か死後の世界の二択だな。
そうか、死んだかオレ。
死後の世界とやらは体験した事無いので分からないが、伝聞で聞く天国にも地獄にもイメージが合わない。まぁ所詮作り物の幻想という事か。
オレはコタツで寝てしまった時の3倍くらい固まった体を起き上がらせ、光がさす方に歩いてみた。
そこには、地獄があった。
人・人・人!!!
そこにあったのは人の地獄!!
一般的な言い方をすると、”活気のある露店街”だ。
露店街!!
あの道に商品を並べ、ただ歩いてるだけの他人に声を掛けまくって物を売りつける、地獄と呼ぶにふさわしい場所!!
そんな所に5分もいたらオレは死んでしまう。
しかもこの人々というのが、金髪や茶髪や見た事も無い様な髪の色、はては英語でもない聞いた事の無い言語を話している。
そして彼らはオレに気が付き、挙句に話しかけてきた!
同じ日本人に日本語で話しかけられるのも何と返したら良いか分からないのに、もはやこれは拷問だ。
しかも見知らぬ地。
もしや彼らは日本人を迫害する民族かもしれない。
だって、どこを見渡しても、黒髪の人間がいない。
そんな事を考えている間にも、色とりどりの髪色の大人達はオレに迫ってきている。
聞いた事のない言葉が次々と投げつけられ、オレは、オレ、は……
「うわああああああああああ!!!!」
オレは逃げた。
全速力で逃げた。
後方で声が更に大きくなり、何人か追おうとしていたみたいだが、死に物狂いで逃げた。
息が切れ、わき腹が痛み、鼓動がドクンドクンと体中に響くほど大きくなっても、オレは走った。
気が付くと辺りは暗くなっていた。
あれだけ怖かった人の喧騒が、現金なもので恋しくなる静かさだった。
かといって来た道を戻る勇気はミトコンドリアには無い。いや、ミトコンドリアにはあるかもしれないが、オレには無かった。
オレはヒューヒューと出来うる限りの酸素を吸いつつも、足を止めなかった。
その内、辺りは真っ暗になったが、そうした事によって、小さな光を見つける事が出来た。
そこにまた異人がいる事も考えたが、1人2人ならどうにかなるかもしれない。
そう思い、光に近づくとそこには家が建っていた。
いや、正しくは”家だった物”か?
それは古く朽ちかけていたが、どうにか家の体裁を守っていた。
木の小屋に無理やり二階部分をくっつけたみたいな、小さい子がつみ木で作るみたいな形で、所々板を打ち付けて修繕した箇所も見えた。
目を凝らして、どうにか壊れかけのドアを開き、中に入る。
ホコリとカビの匂いがしたが、家の中、という事実にオレはホッと息を吐いた。
そして光に誘われるように歩み、見つけた”ソレ”は、ランプでも炎でもなく、本当にただの”光”だった。
今にも消え入りそうな、線香花火の火球位の大きさな光。
オレはそのただ浮いている不思議な光を見て、この光のそばでなら、少し安心できると感じた。
夜になり冷え込んだ事と、全力疾走したモヤシの体力が切れた事で、オレは室内にあったカビ臭い毛布に包まって眠りについた。
それが、オレと光の精霊:クレーヴェルとの出会いだった。
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