レシピ42 ネガティブ錬金術師と光の地図
精霊魔法は自然界に存在する【マナ】と同化して作用する魔法である。
精霊との【契約】は、契約者と精霊の間をマナの糸で繋いでいる。
相川智也のスキルには、【マナ
「だからさ、オレの作ったアイテムのマナと、クレーヴェルのマナを連動させれないかな、と思って」
家を出て少し歩いた路地裏の人目に付かない場所で、今日の目的を話したオレに、クレーヴェルは首を傾げた。
『連動……ですか?
マスターと私はマナの糸で繋がっているので不可能ではないかと思いますが、それは一体何の為に?』
「オレが前からこのゴーグルに付け加えたかった機能が、クレーヴェルの力でなら実現するかもしれないんだ」
オレが欲しかった機能。
それは【
あまり外を出歩く気は無かったから気にしてなかったんだけど、アイハで商人活動をするには街の事を知らないといけないし、錬金術の素材集めにもある程度でなければいけない。全部買えたら買いたいところなんだけど、残念ながらそんな余裕は無い。
そして何より、面倒な人物や出来事に遭遇しない様に、遭遇しても隠れたり逃げたり出来る様に道は知っておかねばいけない!
かと言って、薄々は気付いていたが先日【跳躍】で確認したこの街の全体図は、王都だけあってすごく広くて複雑だった。歩いて地道に地図を作るなんてオレには無理だ。
「そこで、クレーヴェルだよ」
『しかし私もこの町の道を全て知っている訳ではないですよ』
それはそうだろう。クレーヴェルなんかは【転移魔法】なんて便利な魔法も使えるんだ。道を知る必要性も無いだろう。いや本当にチートだな、この精霊……。それに比べてオレは、道具だけじゃなくチート精霊様の力を借りないと街も歩けないなんて……
「ほんと生きててすみません……」
『何がですか!? 何を考えてその結論に至ったんですか! しっかりしてください、マスター!』
「しっかりしてなくてすみません」
『分かりましたから! 何でも協力しますから言ってください!!』
「じゃあ説明するな!」
『え、マスター今の演技ですか? 嘘へこみですか?』
訳の分からない事を言うクレーヴェルを宥めて、説明を開始する。オレはいつだって全身全霊全力で頻繁にへこんでるじゃないか。
「クレーヴェルは光の精霊だろ?
こう、光を全方向に発射したり出来る?」
『まだ納得いきませんが……出来ます』
出来るのか!やった!
「それをこの町中に広げて欲しいんだ。それでその間マナの糸でオレと感覚を共有してほしい。出来そう?」
渋顔ながら、クレーヴェルが頷いたので、オレは早速場所を街を見下ろせる高い所に移す事にした。
『でしたら【転移魔法】を……』
「いや、【跳躍】で跳ぶから大丈夫」
オレにだって出来る事があるんだ。
『ですが、その【跳躍】で足に大怪我を負ったんでしょう?』
うぐっ。
人の失敗をストレートに抉る精霊だなぁ……。確かにそうだけど……。
「あれは高所からの着地の衝撃に、オレの体が耐え切れなかっただけだから!
高い所に跳ぶだけだったら出来るんだよ!」
『いやそれ「だけ」って事じゃ……』
うるさい精霊は放っておいてスキル【跳躍】を意識して足に力を込める。
そしてジャンプ!
「ほら、無事だ!」
【跳躍】を抑え気味にして、建物の上に無事着地して胸を張るオレに、慌てて飛んできたクレーヴェルは心底信用してなかったのか、ホッとした顔をしていた。ぐぬぅ。
『じゃあいきますよ?』
クレーヴェルの号令に、オレはクレーヴェルとのマナの糸を意識し、再び改造してオレのマナで覆う様に加工した【鑑定ゴーグル3号】をセットした。
クレーヴェルと目が合って一つ頷いた瞬間、目の前が光に覆われた。
と言っても、この鑑定ゴーグルには暗視機能と同じくして追加した遮光機能も付いているので、オレの目が眩む事は無い。しかしこの光だと街の人の目が眩んだり、はたまた光の発生地を特定されて、テロ行為だと掴まったりしないかと恐れたが、クレーヴェル曰くマナの光なので、人には基本見えないらしい。
「わっ! 出た出た!」
そしてオレの実験の方はと言うと、大成功でゴーグル越しに街のマップが浮かび上がった。
クレーヴェルの光が接触した場所を正確に記録してくれたので、建物の形もバッチリだ。とは言っても、あくまで距離と形のみの地図なので、これにオレの今まで行った事のある場所を指定して名称を加えていく。
「家」「図書館」「カラばぁの店」「商人ギルドと冒険者ギルド」「職人ギルド」「トラウマの魔導具屋」「スターリの鍛冶屋」「武器屋」「安い洋服屋」「高い洋服屋」「おいしい肉屋」「マリエルの家」
うん!この世界に来て1か月でこれだけしか行ってないとか、ヤバイなオレ!
露店とかも見たけど、いちいち名前を覚えていないので、露店通りとマーキングしておこう。あとは追々追加しながら進めば良いかな。
『どうでしたか? マスター』
「うん、バッチリ! さすがクレーヴェル!」
早速地図にマーキングしてて、クレーヴェルに結果を言っていなかったので慌てて返事をする。本当にクレーヴェルがいてくれて良かった。
『さすがなのはマスターですよ……。精霊魔法と魔導具を組み合わせるなんて……』
何かぶつぶつ言ってるけどひとまず
「降りるのは無理だから【転移魔法】使って」
◇◇◇
さて、無事に街の地図を作成出来た事だし、【マーキング】を入れながら街を歩いて、欲しい素材を探そう。
鑑定ゴーグル3号を使いながらという事だから、もちろんゴーグルは着けたままだ。マーキングに集中してると人目が気にならなくてとても良い。
『人からはジロジロ見られてますけどね……』
そう言えばクレーヴェルと街に来たのは、最初の魔導具屋に行った時以来じゃないか?
思い起こせば、オレ1人で行くから失敗してしまうんだ。多少口やかましいが、クレーヴェルがそばにいてくれるなら何かと補足情報をくれたり注意を入れてくれたり転移魔法でトンズラ出来たりしたはずだ。オレの【シェイバードの靴】はまだ未完成だし、今度からクレーヴェルに付いて来てもらう事にしよう。
その【シェイバードの靴】だが、【跳躍】を使う為には、オレの貧弱な足でも衝撃に耐えられる様、靴底に衝撃吸収材を入れなくてはならない。
衝撃吸収材となると思い浮かぶのはゴムかなぁ……。とりあえず植物でそういうの無いか探してみよう。
あと欲しいのは貴重品入れに【小さいマジックバッグ】。というか、自分で作るから【トーンブルフの胃袋】だな。
それと【麻痺薬】。今後の為に【痛覚麻痺薬】を作りたいと思っている。なぜって?オレが痛いのに耐えれないからだ。
となるとやっぱり……
「ここだよなぁ」
たどり着いたのは薄暗い店。
『ここは?』
「カラばぁっておばあさんがやってる、錬金術師向けのお店」
いつもの様に辺りを警戒してから、サッと店内に入る。相変わらず誰もいない。
さて、トーンブルフの胃袋は―――っと……魔物素材コーナーかな?
元々小さな店だし、何度も来ているのでいい加減配置も覚えた。種類が莫大で何があるかまでは覚えてないけどね。
「おや、あんた……」
魔物素材コーナーで、内臓系を探してキョロキョロしているとカラばぁが現れた。
「こんにちは」
探し物もある事だし、とりあえず務めて愛想良く挨拶をしてみた。しかしカラばぁの顔色は優れない……と言うか、目線が合ってない?
オレの右斜め上あたりを見るカラばぁの視線を辿って行くと、その先には……興味深げに棚を見るクレーヴェル。あれ、もしかして……
「み……見えてます?」
「……視えとるのぉ」
『ん?』
いやまさかカラばぁが【精霊眼】持ちだとは……。
「私も昔は珍しい素材を探して、冒険者の真似事なんかもしてたからねぇ……。
しかしこんなに立派な精霊様、始祖様くらいしか視た事無いわ」
始祖様って芙蓉の事だよね?やっぱり高位の精霊なんだ、芙蓉。
カラばぁの【精霊眼】は、前に会った女騎士さんよりレベルが高いみたいで、クレーヴェルの姿はバッチリとらえているが、何の精霊かまでは分からないらしい。
「でもあんたが【精霊憑き】だとわねぇ。やっぱり上客だね」
ヒッヒッと肩を揺らして笑ったカラばぁだったが、ピタリとその笑いを止めてオレの目をジッと見た。
「でもあんた、目立ちたくなかったんじゃないのかい?」
「目立ちたくないですよ?」
もちろんです!それが人生の目標です。座右の銘です。
「じゃあこんな街中に、そんな高位の精霊様連れ歩いちゃダメじゃろう」
え?
「ダメなんですか?」
「ダメじゃろう」
「でも精霊って、【精霊眼】持ちじゃないと視えないんですよね?」
「普通はな。
じゃが私みたいに【精霊眼】持ちがいない訳じゃないし、別のスキルや魔導具で”視る”ないしは”感じる”事くらいは出来るじゃろうて」
えっうそ!
「高位の精霊を連れて歩くという行為は、精霊と契約した自慢をして歩く上位冒険者や聖職者くらいしかせんぞ」
ガ―――――ン!!!
じゃ、じゃあオレはクレーヴェルと一緒に街を歩くと目立っちゃうって事!?
しかも自慢して歩くとか……それこそ高レベル冒険者とかに絡まれたり、お前にはふさわしくねーよと力ずくでクレーヴェルを奪われたり、もしくは精霊の契約者なんだからと身の丈に合わない危険な仕事に狩り出されたりしてしまうって事!!?
「クレーヴェル!ここで別れよう! 家で待ってて!!」
オレの涙声の嘆願に、クレーヴェルは呆れ顔だけど『心得ました』と答え、転移魔法で消えた。
オレだって街でぼっちやだけど、冒険者とかに絡まれるのもやなんだもん!!
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