第46話 ハロー、グッバイ

 わずか二年の付き合いだった。

 雄太の遺体と対面し、香織は倒れそうになった。

 香織は帰宅し、泣き崩れた。連日、泣き続けた。泣くために目覚め、泣き疲れて眠る。仕事の間だけは涙が止まるから職場の皆は、香織がバイトである雄太と恋仲だとは気づかなかった。


 雄太に会いたい、もう一度会いたい。

 一生、そばにたいなんて思わない、短い間でいいから、会わせて!

 泣きながら香織は祈り続けた。


 ある朝出社すると、上司から新しいバイトを紹介された。

「小西雄太くん」

 香織は震えた。願いが叶ったのだ、雄太と再会できた。香織を見ても雄太は顔色も変えない、全くの初対面なのだ、雄太にとっては。

 前と同様、二人は少しずつ距離を縮めていった。一年がたち、二年が過ぎ、雄太の命日がやってきた。

 雄太は昼食を食べに行って暴走トラックに轢かれて亡くなった、今日は絶対に外に出してはならない。

 しかし、香織はひどい腹痛で救急搬送、意識不明となった。

 目覚めたとき。雄太は雑用で出かけ、似たような事故で落命していた。


 香織は嘆いた。

 せっかく再会したのに、また死なれてしまった。

 運命を変えることはできないのだ、香織は泣きながらそう悟った。

 それでも幸せだった、命日が来るまでは。もう一度、雄太に会えたのだから。

 泣きじゃくりながら、香織はそう思い、でもやっぱり雄太に会いたい、会わせて、と願い続けた。


 次の朝、泣きはらした目で出社すると、上司が新入りバイトを紹介した。

 雄太だった。

 また会えた、神様ありがとう。

 三度目の幸せが始まった。

 だが二年後、命日に、雄太はケンカに巻き込まれて死亡。予期していたとはいえ、胸が張り裂けるほどに悲しい。それでも香織は願わずにはいられない、もう一度、雄太と会わせてください、と。

 願いは叶った、翌日、雄太はまたもや新人アルバイトとして香織の前に現れた。


 ここにきて、香織はようやく気付いた。

 私は時の輪にとらわれているのだ。

 出会った日から別れまでの約二年間が、何度も繰り返されるのだ。

 何回味わっても別れは辛いが、すぐに再会できることが分かっているから、夜明けが待ち遠しい。

 幾度目かの二年が過ぎ、雄太は逝ってしまった。

 だけど、明日はまた、きっと会える。

 出会いと別れを繰り返し、私はいつまで生きるのだろう。

 うれしいような悲しいような気持ちで、香織はそう思った。

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